ニデック株式会社(旧社名・日本電産、東証プライム)は、海外子会社等における不適切な会計処理を契機として、2025年3月期および2026年3月期の有価証券報告書に添付された監査報告書がいずれも「意見不表明」となり、2025年10月28日に東京証券取引所から特別注意銘柄に指定されました。2026年10月30日には内部管理体制確認書が提出され、現在、東京証券取引所による上場維持の可否に関する審査が進んでいます。本件は上場会社の事案ですが、監査証明制度、分配可能額規制と取締役の責任、不正関与者の処遇など、会社の規模を問わず参照すべき論点を含んでいます。
本稿では、2026年11月7日時点の同社の開示資料および東京証券取引所の公表資料に基づき、①事案の経過、②監査意見の不表明の法的位置づけ、③不正の後始末に要した費用と役員責任、④分配可能額規制違反と会社法462条の責任、⑤特別注意銘柄制度と上場廃止基準、⑥中小企業における実務上の示唆を整理します。
1 事案の経過
2025年6月、同社はイタリア子会社における貿易取引上の問題等の調査のため、2025年3月期有価証券報告書の提出期限を同年9月26日まで延長しました。同年9月3日、中国子会社における不適切な会計処理の疑義およびグループ会社において経営陣の関与または認識の下で資産の評価減の時期を恣意的に検討していた疑義の調査のため、第三者委員会を設置しました。同年9月26日に提出された有価証券報告書には「意見の表明をしない」旨が記載された監査報告書が添付され、東京証券取引所は同年10月28日付で同社株式を特別注意銘柄に指定しました(有価証券上場規程503条1項2号b)。
第三者委員会は2026年2月27日に調査報告書を、同年4月17日に最終報告としての調査報告書(追補)を提出しました。同社の開示によれば、不正による当期利益への累積影響は1,607億円の減少であり、売上の早期計上、引当金の過少計上、棚卸資産の過大計上、固定資産の減損回避およびコストの資産計上といった不適切な会計処理が、多岐にわたる拠点で経営者の関与または認識の下で行われていたとされています。同社は2026年9月30日に2026年3月期有価証券報告書を提出しましたが、会計監査人であるPwC Japan有限責任監査法人は、連結財務諸表、財務諸表および内部統制報告書のいずれについても意見を表明しませんでした。
2 監査意見の不表明の法的位置づけ
(1)監査証明義務と監査意見の区分
金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社は、金融商品取引法193条の2第1項により、提出する財務計算に関する書類について、特別の利害関係のない公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければなりません。内部統制報告書についても同条2項により監査証明が必要です。監査証明は、金融庁企業会計審議会の「監査基準」等に従って行われ、監査人の意見は、無限定適正意見、限定付適正意見、不適正意見に区分されるほか、重要な監査手続を実施できなかったことにより財務諸表全体に対する意見表明の基礎を得ることができなかった場合には、意見を表明しないものとされています。
したがって、意見不表明は「財務諸表が誤っている」という判断(不適正意見)とは異なり、「適正か否かを判断するための十分かつ適切な監査証拠を入手できなかった」という判断です。ニデックの監査報告書も、「意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手することができなかったため、監査意見を表明しない」と記載しています。
(2)意見不表明の根拠
2026年3月期の監査報告書は、意見不表明の根拠として次の3点を挙げています。第一に、不適切な会計処理等に関与、指示または認識していた、あるいは会計監査人に虚偽の説明を行った役職員の一部について人事的是正措置が完了しておらず、当該役職員が財務報告プロセスにおいて責任ある立場を担当していること。これにより、当該役職員から入手した記録・資料および経営者の陳述の信頼性が損なわれ、未発見の虚偽表示が存在するか否かを判断できないとされました。第二に、約6,322億円の減損損失について、一部の資金生成単位の計上額および期間帰属に関する会計上の見積りの妥当性を裏づける監査証拠を入手できなかったこと。第三に、過年度の修正再表示を行った比較情報の妥当性および網羅性を判断できなかったことです。内部統制監査報告書も、同じ理由により内部統制報告書に対する意見を表明していません。
注目すべきは、第一の理由が会計処理の内容ではなく、「誰が財務報告を担っているか」という人事上の問題であることです。不正に関与した者が財務報告の責任者に残っている限り、その者が作成・承認した資料の信頼性が否定され、監査証拠全体の証明力に影響するという判断は、監査法人を持たない中小企業においても、税理士や金融機関との関係で同様に妥当します。
3 不正の後始末に要した費用と役員責任
(1)監査報酬・特別調査費用・減損損失
2026年3月期有価証券報告書の「監査報酬の内容等」によれば、会計監査人に対する監査証明業務に基づく報酬は、前連結会計年度の9億7,700万円から当連結会計年度は76億3,700万円へと約7.8倍に増加し、同一ネットワークのメンバーファームに対する監査証明業務の報酬93億8,600万円を合わせると約170億円に達しています。監査業務に係る補助者は公認会計士234名を含む735名とされています。また、単体の損益計算書では、特別調査委員会による調査費用および過年度決算対応関連費用等として「特別調査費用等」305億2,200万円が特別損失に計上されています。
業績面では、2026年3月期の連結売上高は前期比3.9%増の2兆7,087億円でしたが、非金融資産の減損損失6,321億円の計上により、営業損失5,189億円、親会社の所有者に帰属する当期損失5,646億円となりました(前期は846億円の利益)。同社はまた、虚偽表示の修正に関連して、金融商品取引法上の開示規制違反として当局の調査や課徴金納付命令の対象となる可能性があることを開示しています。
(2)会計監査人の権限と「専門家に対する虚偽説明」の帰結
会社法396条2項は、会計監査人はいつでも会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧・謄写をし、取締役、会計参与、支配人その他の使用人に対し会計に関する報告を求めることができると定めています。第三者委員会の調査報告書では、会社およびグループ会社の経営者または経理担当者が、会計監査人の同意を得るために、不正確または誤解を招く情報を提供し、関連文書を隠蔽し、改ざんされた記録を提供していたことが確認されたとされています。監査報酬の急増と2年連続の意見不表明は、監査人に対する虚偽説明の帰結を会社自身が負担した事例と評価できます。
(3)役員責任調査委員会と会社による提訴
同社は2026年3月13日、外部専門家のみで構成する役員責任調査委員会を設置し、2020年度から2025年度第1四半期までの間に取締役、監査役または執行役員であった者の法的責任の有無を調査させました。同委員会は同年10月16日に調査報告書を提出し、旧取締役6名および旧監査役2名について会社法423条1項に基づく損害賠償責任、元最高財務責任者(執行役員)1名について民法644条・415条1項または執行役員規程に基づく損害賠償責任が認められるとの結論を示しました。会社に生じた損害は、2025年8月から2026年8月までの調査費用、監査費用および上場契約違約金として約276億円(27,633,480,861円)とされ、今後増加する可能性があるとされています。これを受けて同社は同年10月27日、取締役会および監査等委員会において、上記9名に対する損害賠償請求訴訟を提起することを決議しました。
経営陣の交代については、創業者の永守重信氏が2025年12月19日に代表取締役を含む経営上の役職をすべて辞任し、2026年2月26日に名誉会長職も辞任しました。2026年9月29日には岸田光哉代表取締役社長執行役員が辞任し、同社は辞任の経緯として、決算訂正の過程で「財務報告に関し必ずしも適切とは言いかねる言動もあったことが確認された」と説明しています。後任の社長執行役員には戒田理夫氏が就任し、南井正之取締役が代表取締役となりました。
4 分配可能額規制違反と会社法462条の責任
(1)分配可能額規制(会社法461条)
会社法461条1項は、剰余金の配当や自己株式の有償取得等により株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、当該行為の効力発生日における分配可能額を超えてはならないと定めています。分配可能額は、剰余金の額を基礎に、自己株式の帳簿価額等を控除して算定されます(同条2項、会社計算規則)。この規制は、会社財産を株主に過剰に流出させないことで会社債権者を保護するものであり、株式会社であれば規模を問わず適用されます。
ニデックの2026年3月期有価証券報告書は、虚偽表示の修正を勘案すると、2022年3月期の自己株式取得(314億1,300万円)、2023年3月期の剰余金の配当および自己株式取得(総額940億1,400万円)、2024年3月期の同(総額412億4,400万円)、2025年3月期の同(総額537億9,300万円)、2026年3月期の剰余金の配当(229億6,000万円)が、いずれも会社法および会社計算規則に基づき算定される分配可能額を超過していたことが判明したと開示しています。
(2)業務執行者等の支払義務(会社法462条)
会社法462条1項は、461条1項に違反して配当等が行われた場合、金銭等の交付を受けた株主のほか、当該行為に関する職務を行った業務執行者、および株主総会または取締役会に議案を提案した取締役が、会社に対し、連帯して、交付された金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負うと定めています。業務執行者等は、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときに限り義務を免れます(同条2項)。この義務は原則として免除できず、総株主の同意がある場合でも、行為時の分配可能額を限度としてのみ免除が可能です(同条3項)。
他方、463条1項により、分配可能額を超えることについて善意の株主は、支払義務を履行した業務執行者等からの求償に応じる義務を負いません。また、同条2項により、会社債権者は株主に対し、交付を受けた金銭等の帳簿価額(債権額を上限)に相当する金銭の支払いを直接請求できます。実務上、超過の事実を株主が認識していることは稀であるため、責任追及の対象は業務執行者である取締役に集中することになります。
(3)株主代表訴訟の提起
同社は2026年9月10日、個人株主1名が同年9月9日に京都地方裁判所に株主代表訴訟(令和8年(ワ)第1749号)を提起した旨の訴訟告知書を受領したと開示しました。被告は永守重信氏および小部博志氏の元取締役2名であり、2022年9月の自己株式取得、2023年2月から3月の自己株式取得および2022年12月の中間配当が分配可能額を超過する違法な自己株式取得または配当であったとして、会社法462条1項に基づき287億3,055万8,300円および遅延損害金を会社に支払うことを求めるものです。なお、会社自身は、分配可能額規制違反に関する旧役員の責任については、過年度の分配可能額が不確定であることから、過年度の計算書類の訂正完了後に法的措置を検討するとしています。
株主代表訴訟(会社法847条)は、公開会社では6か月前から引き続き株式を有する株主に提訴請求権が認められますが、公開会社でない株式会社では保有期間の要件がなく、株主であれば提訴請求が可能です(同条2項)。少数株主が存在する中小企業において、分配可能額を超える配当は、同族の株主間紛争の局面で責任追及の根拠とされ得ることに留意が必要です。
(4)中小企業における典型的な違反類型
中小企業において分配可能額規制違反が生じやすいのは、第一に、当期が赤字であるにもかかわらず前期と同額の配当を継続する場合、第二に、役員貸付金や回収可能性の乏しい債権が資産として計上され、剰余金が実態より過大に表示されている場合です。配当議案を決議する前に、直前の計算書類に基づく分配可能額の算定書を作成し、株主総会または取締役会の議事録に添付しておくことは、462条2項の「注意を怠らなかったこと」の立証資料となり、取締役個人の責任リスクを低減します。
5 特別注意銘柄制度と上場廃止基準
(1)意見不表明と上場廃止基準
東京証券取引所の有価証券上場規程601条1項は、財務諸表等に添付される監査報告書に「不適正意見」または「意見の表明をしない」旨が記載された場合であって、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」を上場廃止基準の一つとしています。意見不表明が記載されたことのみによって直ちに上場廃止となるものではなく、債務超過等の形式基準とは異なり、取引所の判断に委ねられた実質基準です。
(2)特別注意銘柄への指定と審査の流れ
監査報告書に意見不表明等が記載され、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められる場合、東京証券取引所は当該株式を特別注意銘柄に指定することができます(上場規程503条)。指定された上場会社は、指定から1年経過後速やかに「内部管理体制確認書」を提出し、取引所の審査を受けます。審査の結果、内部管理体制等が適切に整備され、運用されていると認められれば指定解除、適切に整備されていると認められるものの運用が認められない場合(運用の見込みがある場合に限る)は指定継続、整備されていると認められない場合または運用の見込みがなくなったと認められる場合は上場廃止となります。指定継続の場合、継続決定日の属する事業年度の末日から3か月以内に確認書を再提出し、再審査で整備・運用が認められなければ上場廃止となります。確認書の提出が速やかに行われない場合や内容が明らかに不十分な場合も、整備・運用が認められないものとして取り扱われます。
(3)ニデックの現状
同社は、特別注意銘柄指定から1年を経過した2026年10月30日、内部管理体制確認書を東京証券取引所に提出し、あわせて内部管理体制の整備・運用状況を公表しました。経理機能の事業部門からの独立性の確保(事業本部・国内グループ会社のCFOおよび経理責任者の人事への本社の関与、デュアルレポートラインの整備)、懲戒基準の厳格化、役員責任の明確化などが改善措置として挙げられています。もっとも、同年10月28日の開示によれば、不正に関与した役職員の特定・評価および人事的是正措置に関する会計監査人からの追加要請への対応と監査手続が完了しておらず、監査意見の付された訂正報告書等は提出に至っていません。東京証券取引所の一覧では、2026年10月23日時点で特別注意銘柄に指定されている会社は同社を含め10社であり、同社の審査状況は「改善中」とされています。審査結果は本稿執筆時点で公表されていません。
(4)先例:東芝
2015年の不正会計を受け、東京証券取引所は2015年9月15日に株式会社東芝の株式を当時の特設注意市場銘柄に指定しました。指定から1年経過後の2016年9月に提出された内部管理体制確認書については、改善に向けた取組みの進捗等をなお確認する必要があるとして同年12月19日に指定が継続され、2017年3月に再提出された確認書の審査を経て、同年10月12日に指定が解除されました。取引所が認めた改善策は、指名委員会を社外取締役のみで構成し執行側からの独立性を確保したこと、リスク分析・評価を専門とする組織の設置による意思決定プロセスの見直し、CFOの選解任に係る指名委員会の拒否権付与と各事業部門の財務部門のCFO直轄化による財務部門の独立性強化、子会社管理の強化などです。指定から解除まで2年1か月を要しています。
6 中小企業における実務上の示唆
(1)専門家との関係
中小企業に会計監査人はいませんが、税理士、顧問弁護士、金融機関が決算書の信頼性を判断する立場にあります。都合の悪い数字を先に開示することが、信用の維持と対応コストの抑制の両面で合理的です。税理士とともに不適切な処理を行った場合、税理士自身の責任問題を生じさせるとともに、経営者の関与の態様によって悪質性が高く評価されます。
(2)配当手続の適正化
剰余金の配当を決議する際には、計算書類の確定を前提に、分配可能額の算定書を作成して議事録に添付します。赤字期における前期同額配当の継続、役員貸付金等による剰余金の過大表示には特に注意が必要です。違反があった場合には、取締役が会社に対し連帯して支払義務を負うこと、株主代表訴訟の対象となり得ることを認識したうえで、配当方針を決定すべきです。
(3)不正関与者の処遇
不正の疑いが判明した場合、調査完了まで当該者を会計・財務報告の担当から外し、関連する権限を停止することが先決です。これは懲戒処分の前段階として、業務命令(配置転換・業務分担の変更)により行うことができます。懲戒処分を行う場合には、就業規則上の懲戒事由への該当性と手続の適正を確保する必要があります。不正関与者が数字の責任者に残ることは、金融機関や取引先からみて会社の数字全体の信頼性を損なう要因となります。
(4)内部統制と役員の責任
大会社である取締役会設置会社には内部統制システムの整備に関する決定義務があります(会社法362条4項6号・5項)。大会社でない中小企業に法定の義務はありませんが、取締役は善管注意義務の一環として、業務の適正を確保するための合理的な体制を構築する責任を負うと考えられており、不正を放置した場合には会社法423条1項の任務懈怠責任が問われ得ます。経理と資金管理の職務分掌、通帳・残高の経営者による直接確認、通報窓口の設置といった基本的な牽制の整備が、規模に応じた内部統制となります。
企業が点検すべき事項
- 直近の剰余金の配当および自己株式取得について、分配可能額の算定書を作成し、議事録に添付しているか。
- 当期が赤字の場合に、前期と同額の配当を慣行的に継続していないか。
- 役員貸付金、回収可能性の乏しい売掛金・貸付金など、剰余金を実態より過大に表示させる資産が計上されていないか。
- 売上の計上時期、在庫の評価、引当金の計上について、税理士に対し事実をそのまま説明しているか。
- 経理担当者に不正や重大な誤りの疑いが生じた場合に、直ちに担当から外し権限を停止できる体制(職務分掌・権限規程)があるか。
- 就業規則に、不正行為に対する懲戒事由と手続が定められているか。
- 経営者が預金残高や会計帳簿を定期的に直接確認しているか。
- 内部通報窓口など、現場の懸念が経営者に届く経路があるか。
- 株主構成を把握し、少数株主から配当や役員責任について追及される可能性を検討しているか。
- 決算・配当・資金繰りに関する相談先として、税理士に加えて顧問弁護士を確保しているか。
よくあるご質問
Q. 監査法人の「意見不表明」は、不正会計があったという認定ですか。
A. 異なります。意見不表明は、重要な監査手続を実施できず、財務諸表に対する意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手できなかった場合の監査人の結論であり、財務諸表が誤っているという判断(不適正意見)ではありません。ニデックの事案では、不正に関与した役職員が財務報告の責任者に残っていたことにより、監査証拠の信頼性が確保できなかったことが主要な理由とされています。
Q. 分配可能額を超えて配当してしまった場合、中小企業の取締役も責任を負いますか。
A. 負います。会社法462条1項は株式会社一般に適用され、配当に関する職務を行った業務執行者と議案を提案した取締役は、会社に対し連帯して配当額相当の金銭を支払う義務を負います。職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合に限り免責されます(同条2項)。分配可能額の算定書を作成して議事録に添付しておくことが、この立証の資料となります。
Q. 配当を受け取った株主にも返還義務がありますか。
A. 株主も会社に対して支払義務を負いますが(会社法462条1項)、分配可能額の超過について善意の株主は、支払義務を履行した取締役からの求償に応じる義務を負いません(463条1項)。実務上は取締役が責任追及の中心となります。なお、会社債権者は株主に対し、交付額(債権額を上限)の支払いを直接請求できます(463条2項)。
Q. 経理担当者に不正の疑いが生じた場合、調査が終わる前に担当から外すことはできますか。
A. 可能です。業務の分担や配置は使用者の業務命令により変更でき、調査完了までの間、会計・財務報告に関する権限を停止することは懲戒処分ではなく業務上の措置として行えます。ただし、賃金の減額や降格を伴う場合には別途の法的検討が必要であり、懲戒処分を行う場合には就業規則上の根拠と手続の適正が求められます。
まとめ
ニデックの事案は、不適切な会計処理そのものに加え、監査人に対する虚偽説明と不正関与者の処遇の遅れが、2年連続の意見不表明、約170億円の監査報酬、305億円の特別調査費用、取締役に対する約276億円の損害賠償請求、287億円の株主代表訴訟という帰結をもたらしたことを示しています。分配可能額規制(会社法461条)と業務執行者の連帯支払義務(462条)は中小企業にもそのまま適用され、赤字期の慣行的配当や役員貸付金による剰余金の過大表示は典型的な違反の入口です。配当決議前の分配可能額の算定と議事録への添付、不正関与者の速やかな担当からの排除、専門家に対する事実の開示という基本的な対応が、取締役個人の責任と会社の信用を守ります。配当・自己株式取得の適法性、不正発覚時の初動対応、取締役の責任追及への対応については、問題が顕在化する前に顧問弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
参考資料
- 会社法(e-Gov法令検索)(第362条・第396条・第423条・第461条・第462条・第463条・第847条)/金融商品取引法(第193条の2)/金融庁 企業会計審議会「監査基準」(PDF)
- 日本取引所グループ:「特別注意銘柄の指定:ニデック(株)」(2025年10月27日)/「上場廃止基準の概要」/「特別注意銘柄への指定(実効性の確保手段)」/「特別注意銘柄一覧」/「特設注意市場銘柄の指定解除及び監理銘柄(審査中)の指定解除:(株)東芝」(2017年10月11日)
- ニデック株式会社:「第53期(2026年3月期)有価証券報告書」(PDF)/「第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領及び当社の対応に関するお知らせ」(2026年4月17日・PDF)/「名誉会長辞任に関するお知らせ」(2026年2月26日・PDF)/「株主代表訴訟に関する訴訟告知書の受領について」(2026年9月10日・PDF)/「代表取締役社長執行役員の辞任および新社長執行役員等の選定に関するお知らせ」(2026年9月29日・PDF)/「当社元役員に対する損害賠償請求訴訟の提起について」(2026年10月27日・PDF)/「意見不表明の解消に向けた取組み状況に関するお知らせ」(2026年10月28日・PDF)/「再生に向けての取組み状況」(2026年10月28日・PDF)/「内部管理体制の整備及び運用状況等に関するお知らせ」(2026年10月30日・PDF)
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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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