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従業員による業務上横領への対応と経営者の責任 ― 業務上横領罪(刑法253条)と公訴時効、損害回収の法的手段と限界(賃金全額払原則・退職金不支給・身元保証法と極度額・破産免責の例外)、内部統制システム構築義務(会社法362条・大和銀行株主代表訴訟)、職務分掌と内部通報体制(公益通報者保護法11条・令和8年12月1日施行改正法)、発覚時の初動と懲戒解雇の手続

東京商工リサーチの調査によれば、2024年度に「不適切な会計・経理」を開示した上場企業は67社・67件で4年連続の増加となり、内容別では「誤り」35件(52.2%)に次いで「着服横領」が22件(32.8%)を占め、「粉飾」10件(14.9%)を上回っています。発生当事者別では「従業員」が18社(26.8%)です。これは開示義務を負う上場企業に限った数値であり、非上場の中小企業において発生した横領は統計に表れません。また、株式会社マルチブックが2023年3月に実施した調査(有効回答539名)では、回答者の25.5%が上司・同僚・部下・取引先による金銭に関する不正行為を見聞きしたことがあると回答し、不正の内容は「経費精算に関する不正」(38.0%)が最多、実行者の役職は「勤務先の管理職」(39.5%)が最多でした。

従業員による業務上横領は、刑事上は業務上横領罪として重い法定刑が定められている一方、被害を受けた会社が損害を現実に回収できる場面は限られます。本稿では、コメ兵ホールディングス連結子会社における経理責任者による約1.2億円の流用事案を素材に、業務上横領の刑事責任と公訴時効、損害回収の法的手段とその限界、内部統制システム構築義務と取締役の責任、予防策としての職務分掌・内部通報体制の整備、発覚時の初動と懲戒解雇の手続を整理します。

1 事案の素材 ― コメ兵ホールディングス連結子会社における経理責任者による流用

東証スタンダード上場の株式会社コメ兵ホールディングスは、2025年12月17日付適時開示「当社連結子会社の元従業員による不正行為に関するお知らせ」において、連結子会社である株式会社セルビーの経理責任者であった元従業員1名が、2025年11月から2025年12月にかけて、同社の預金口座から当該元従業員の口座への送金等によって現金を私的に流用していた事実が判明したと公表しました。同開示によれば、事実は当該元従業員の申告を受けた社内調査により判明し、会社の調査による損害額は約1.2億円です。同社は、申告を受けた直後に社内に調査チームを設置し、弁護士等の社外専門家と連携して本人への事実確認、資金移動の履歴、現預金の残高推移等を調査したうえで、当該元従業員を社内規程に則り懲戒解雇処分とし、弁護士を通じて損害額の回収に必要な対応および刑事上の法的措置を進めるとしています。再発防止策としては、グループ各社における内部統制ルールの強化、同様の事案が起きない業務プロセスであることの確認、内部統制ルールの周知徹底と業務プロセスの継続的な見直しを挙げています。

その後、2026年8月に当該元経理責任者が業務上横領の疑いで警視庁に逮捕された旨が報じられ、報道では、本人が上司の承認なしに出金手続を行える立場にあったこと、流用した金銭をSNSで知り合った人物から勧められた偽の投資サイトへの入金に充てていたとされることが伝えられています。本件は、①出金権限と承認機能が一人に集中していたこと、②発覚が会社側のチェックではなく本人の申告によったこと、③流用先が投資詐欺であり本人の手元に資金が残っていない蓋然性が高いこと、という業務上横領事案に典型的な要素を備えています。

2 業務上横領の刑事責任

(1) 業務上横領罪(刑法253条)

刑法253条は「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する」と定めています。単純横領罪(同法252条1項)の法定刑が5年以下の拘禁刑であるのに対し、業務として他人の物を占有する者による横領はその信任関係の重さから2倍の法定刑とされ、罰金刑の選択はありません。経理担当者による会社資金の着服、集金担当者による売掛金の着服、経費の架空請求による金銭の取得等は、事案により業務上横領罪または詐欺罪(同法246条)、背任罪(同法247条)に該当します。被害弁償は量刑上考慮されますが、弁償によって犯罪の成立が否定されるものではありません。

(2) 公訴時効と告訴

業務上横領罪の公訴時効は、長期15年未満の拘禁刑に当たる罪として7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。業務上横領罪は親告罪ではないため告訴は訴訟条件ではありませんが、捜査機関に事件を認知させ捜査を促す手段として、横領の日時・金額・手口を客観的証拠とともに特定した告訴状(同法230条)を提出することが実務上重要です。告訴の受理と捜査の進展は、会社側がどの程度証拠を整理して提出できるかに左右されるため、後述する発覚時の証拠保全が刑事手続の成否を決定づけます。なお、刑事処分は加害者に対する制裁であり、会社の損害を回復する手段ではありません。

3 損害回収の法的手段と限界

(1) 損害賠償請求権と消滅時効

会社は、横領を行った従業員に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)または雇用契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権(同法415条)を有します。不法行為に基づく請求権の消滅時効は、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年(同法724条)、債務不履行に基づく請求権は権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年(同法166条1項)です。もっとも、請求権の存在と回収の可能性は別問題であり、横領された金銭は投資、遊興、借入金の返済、生活費等に費消されていることが多く、判決を取得しても執行の対象となる財産がない場合、回収は実現しません。

(2) 破産免責の例外

加害従業員が自己破産を申し立てた場合であっても、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は免責の対象となりません(破産法253条1項2号)。横領による損害賠償請求権はこれに該当し得るため、免責許可決定が確定しても会社の請求権は消滅しません。ただし、免責されないことは弁済資力の存在を意味するものではなく、無資力の加害者に対する請求権が残存するにとどまります。

(3) 賃金・退職金との相殺の制限

労働基準法24条1項は賃金の全額払を定めており、使用者が労働者に対して有する損害賠償請求権をもって賃金債権と一方的に相殺することは、同項に違反し許されないと解されています。労働者の同意を得て行う合意相殺については、その同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り、同項に違反しないとするのが判例の立場です。退職金についても、就業規則・退職金規程に懲戒解雇の場合の不支給・減額条項が存在することが前提となり、裁判例は、退職金の功労報償的性格を踏まえ、それまでの勤続の功労を抹消ないし減殺するほどの著しい背信行為がある場合に限って不支給・減額を認める傾向にあります。横領は一般に著しい背信行為に該当し得ますが、金額、期間、態様、弁償の有無等により判断は分かれ得るため、規程の整備と個別事案の検討が必要です。

(4) 身元保証人に対する請求の限界

身元保証契約の存続期間は、期間の定めがない場合は成立の日から3年(商工業見習者は5年)であり、期間を定める場合も5年を超えることができません(身元保証ニ関スル法律1条・2条)。自動更新条項は無効であり、更新には改めての合意が必要です。2020年4月1日施行の改正民法により、個人が保証人となる根保証契約は極度額を定めなければ効力を生じないこととされ(民法465条の2第2項)、極度額の定めのない身元保証書は無効です。さらに、使用者は、被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があって身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを知ったとき、および被用者の任務または任地を変更したために身元保証人の責任を加重し監督を困難にするときは、遅滞なく身元保証人に通知する義務を負い(同法3条)、身元保証人はこれを受けて将来に向けて契約を解除することができます(同法4条)。裁判所は、使用者の監督上の過失の有無、身元保証人が保証をするに至った事由およびその際に用いた注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情を斟酌して身元保証人の責任の有無および金額を定めるため(同法5条)、使用者側の管理体制の不備は身元保証人の責任を減縮する方向に働きます。

(5) 実務上の着地

以上の制約から、業務上横領の損害回収は、加害従業員との間で横領の日時・金額を特定した自認書および損害額を確定した合意書を作成し、本人の書面による合意のもとで退職金その他の支払との精算を行い、残額について分割弁済の合意と可能な範囲での担保・保証の設定を行うという形で、回収可能な範囲を最大化する対応が中心となります。損害の全額回収が実現する事案はむしろ例外であり、業務上横領への対応の重点は、事後の回収ではなく、発生を防止する体制の整備に置かれるべきです。

4 内部統制システム構築義務と取締役の責任

大会社である取締役会設置会社の取締役会は、取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務ならびに当該株式会社およびその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備を決定しなければなりません(会社法362条4項6号・5項)。この明文の義務は大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)に限られますが、大和銀行株主代表訴訟第一審判決(大阪地判平成12年9月20日)は、従業員の不正行為を防止するためのリスク管理体制を整備することが取締役の善管注意義務および忠実義務の内容であることを明示し、役員らに総額約7億7,500万ドル(当時のレートで約829億円)の損害賠償を命じました(同事件は控訴審における和解により終結)。以後、内部統制システム構築義務は会社の規模を問わず取締役の善管注意義務(会社法330条・民法644条)の一内容として判例・実務に定着しています。

要求される体制の水準は会社の規模・業種・事業内容に応じて異なりますが、職務分掌、承認手続、残高の照合といった横領防止のための最低限の体制を何ら整備していなかった場合、取締役は会社に対して任務懈怠責任(会社法423条1項)を負い、株主代表訴訟(同法847条)の対象となり得ます。また、横領が発生した会社は、上場企業やその子会社であれば適時開示や決算への反映が必要となり、中小企業であっても金融機関の融資姿勢や取引先の与信判断、採用活動に影響が及びます。マルチブックの前記調査では、不正を見聞きした者の74.4%が内部告発をしなかったと回答しており、その理由として「自分が告発したことがバレるかもしれない」(27.2%)、「問題に巻き込まれたくないから」(22.2%)が上位を占めます。不正が表面化しない組織では、発覚後に従業員の会社に対する信頼が損なわれ、人材の流出につながる点も、経営上の損失として看過できません。

5 予防策 ― 職務分掌・担当者の固定回避・原本確認・内部通報体制

(1) 職務分掌

金銭を動かす権限とこれを承認・確認する機能を分離することが出発点です。通帳と印鑑の保管者を分ける、インターネットバンキングの操作権限と承認権限を別の者に付与する、支払は請求書等の証憑と照合したうえで承認者の承認を経なければ実行できない手続とする、といった設計です。小規模な会社においても、代表者が承認権限を保持し承認操作のみを行う体制は実現可能であり、承認なしに出金できる体制を残さないことが要点です。

(2) 担当者の固定回避

同一の担当者に長期間経理業務を専属させることは、不正の機会と隠蔽の余地を拡大させます。定期的な担当替え、連続休暇の取得と休暇中の業務引継ぎにより、他の者が帳簿と資金の実態を確認する機会を制度的に設けることが有効です。長期間休暇を取得せず一人で経理を抱え込んでいる状態は、それ自体が管理上の危険信号として認識されるべきです。

(3) 外部の目と原本確認

横領の多くは帳簿・証憑の改ざんを伴うため、試算表等の加工された資料ではなく、通帳原本、インターネットバンキングの画面、金融機関発行の残高証明書等の原本に基づく月次の残高照合が必要です。顧問税理士等の外部専門家に原本の確認を依頼することも有効です。役職や勤続年数を理由にチェックを免除する運用は、実行者の最多層が管理職であるという前記調査結果に照らしても避けるべきです。

(4) 内部通報体制

公益通報者保護法11条は、事業者に対し、公益通報対応業務従事者の指定(1項)および公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置(2項)を義務づけており、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者についてはこれらを努力義務としています(3項)。公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律)は令和8年12月1日に施行され、公益通報を理由とする解雇・懲戒をした者に対する刑事罰の新設、公益通報の日から1年以内の解雇・懲戒を公益通報を理由とするものと推定する規定の新設、公益通報者の範囲への特定受託業務従事者(フリーランス)の追加、体制整備義務の実効性確保等が図られています。ACFE(公認不正検査士協会)の2024年報告書によれば、職業上の不正の発覚の端緒として最も多いのは通報(43%)であり、その半数以上は従業員からのものでした。中小企業においても、顧問弁護士等の社外に通報窓口を設置し、通報者の秘密が保持される体制を整えることは、不正の早期発見に直結します。

6 発覚時の初動と懲戒解雇の手続

(1) 証拠保全の先行

横領の疑いが生じた場合、本人への追及に先立ち、会計データ、入出金記録、証憑、経費精算データ、電子メール、アクセスログ等の客観的証拠を確保します。本人が証拠の削除・改ざんや関係者との口裏合わせを行う余地を残さないためであり、証拠の保全状況は、後の懲戒処分の有効性、損害賠償請求の立証、刑事告訴の受理のすべてを左右します。

(2) 事実確認と弁明の機会

証拠に基づき事実関係を整理したうえで、本人に対する聴取を行い、弁明の機会を付与します。本人が事実を認める場合には、横領の日時・金額・方法を特定した自認書を作成します。聴取は複数名で行い、記録を残します。

(3) 懲戒処分の有効性(労働契約法15条)

懲戒処分は、就業規則に懲戒の種別および事由が定められ周知されていることを前提として、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には無効となります(労働契約法15条)。横領は懲戒解雇事由に該当し得る重大な非違行為ですが、証拠が不十分なまま、弁明の機会を付与せず、就業規則所定の手続を経ずに解雇した場合、解雇の有効性が争われ、解雇無効と判断されて解雇日以降の賃金の支払を命じられるリスクがあります。横領の被害を受けた会社が労働訴訟において敗訴する事態は現実に生じており、感情的な即時解雇は避けなければなりません。また、労働基準法20条の解雇予告手当を支払わずに即時解雇するには、労働者の責めに帰すべき事由について所轄労働基準監督署長の除外認定を受ける必要があります。

(4) 回収と刑事告訴

前記3のとおり、損害額を確定した合意書と分割弁済の合意、身元保証人への通知と請求の検討、退職金等との精算を進めるとともに、刑事告訴を行う場合には、横領の日時・金額・手口を証拠とともに特定した告訴状を作成します。刑事告訴の要否は、回収交渉への影響、社会的信用への影響、再発防止上の必要性等を総合して判断します。

点検事項

  • ① 通帳・印鑑・インターネットバンキングの操作権限と承認権限が分離され、承認なしに出金できる経路が存在しないか
  • ② 経理担当者の定期的な担当替えおよび連続休暇の取得と休暇中の業務引継ぎが制度化されているか
  • ③ 通帳原本・インターネットバンキング画面・残高証明書等の原本に基づく月次の残高照合が、経理担当者以外の者または外部専門家により行われているか
  • ④ 役職者・長期勤続者について、チェックを免除する運用となっていないか
  • ⑤ 内部通報窓口が設置され、通報者の秘密保持と不利益取扱いの禁止が規程化されているか(公益通報者保護法11条、令和8年12月1日施行の改正法への対応を含む)
  • ⑥ 就業規則に懲戒の種別・事由・手続が定められ周知されているか。退職金規程に懲戒解雇の場合の不支給・減額条項があるか
  • ⑦ 身元保証契約について、期間(5年以内)、極度額の定め(2020年4月1日以降の契約)、更新手続が適切に整備されているか
  • ⑧ 横領の疑いが生じた場合の初動手順(証拠保全→聴取→処分→回収・告訴)と、弁護士への連絡体制が定められているか
  • ⑨ 大会社に該当する場合、取締役会において内部統制システムの整備に関する決定(会社法362条5項)がなされ、その運用状況が確認されているか

よくあるご質問

Q. 従業員が横領した金銭を、未払賃金や退職金から差し引いて回収することはできますか。

A. 労働基準法24条1項は賃金の全額払を定めており、使用者が労働者に対する損害賠償請求権をもって賃金債権と一方的に相殺することは原則として許されません。労働者の自由な意思に基づく合意による相殺は有効とされる余地がありますが、その合意が自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要です。退職金についても、就業規則・退職金規程に懲戒解雇の場合の不支給・減額条項があることが前提となり、裁判例は、それまでの勤続の功労を抹消ないし減殺するほどの著しい背信行為がある場合に限って不支給・減額を認める傾向にあります。実務上は、加害従業員との間で損害額を確定した合意書を作成し、退職金その他の支払との精算について本人の書面による合意を得たうえで、残額について分割弁済の合意をする対応が一般的です。

Q. 入社時に身元保証書を提出させています。横領による損害を身元保証人に全額請求できますか。

A. 身元保証契約の存続期間は、期間の定めがない場合は成立の日から3年(商工業見習者は5年)、期間を定める場合も5年を超えることができず、更新には改めての合意が必要です(身元保証ニ関スル法律1条・2条)。また、2020年4月1日以降に締結された個人根保証契約である身元保証契約は、極度額を定めなければ効力を生じません(民法465条の2)。さらに、使用者は、被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があって身元保証人の責任を惹起するおそれがあることを知ったとき等には遅滞なく身元保証人に通知する義務を負い(同法3条)、裁判所は、使用者の監督上の過失の有無、身元保証人が保証をするに至った事由、被用者の任務・身上の変化その他一切の事情を斟酌して、身元保証人の責任の有無および金額を定めます(同法5条)。このため、身元保証人に対する請求は、期間・極度額・裁判所の裁量による減額という制約を受け、損害の全額を回収できる場面は限られます。

Q. 横領が判明した従業員を直ちに懲戒解雇して問題ありませんか。

A. 懲戒処分は、就業規則に懲戒の種別および事由が定められ周知されていることを前提として、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には無効となります(労働契約法15条)。横領は懲戒解雇事由に該当し得る重大な非違行為ですが、横領の事実を裏付ける客観的証拠が不十分なまま、弁明の機会を付与せずに解雇した場合、後に解雇の有効性が争われ、解雇無効と判断されて解雇日以降の賃金の支払を命じられるリスクがあります。証拠の保全と事実関係の確定を先行させ、本人に弁明の機会を与え、就業規則所定の手続を経て処分を決定する順序を守る必要があります。なお、労働基準法20条の解雇予告手当を支払わずに即時解雇するには、労働者の責めに帰すべき事由について所轄労働基準監督署長の除外認定を受ける必要があります。

Q. 従業員の横領について、経営者個人が責任を問われることはありますか。

A. 大会社である取締役会設置会社の取締役会は、取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他業務の適正を確保するために必要な体制の整備を決定しなければなりません(会社法362条4項6号・5項)。この明文の義務は大会社に限られますが、大和銀行株主代表訴訟第一審判決(大阪地判平成12年9月20日)は、従業員の不正行為を防止するためのリスク管理体制を整備することが取締役の善管注意義務・忠実義務の内容であることを明示し、役員らに総額約7億7,500万ドルの損害賠償を命じており(控訴審で和解により終結)、以後、内部統制システム構築義務は会社の規模を問わず取締役の善管注意義務の一内容として定着しています。横領を防止する最低限の体制(職務分掌、承認手続、残高の照合等)を何ら整備していなかった場合、取締役は会社に対して任務懈怠責任(会社法423条)を負い、株主代表訴訟(同法847条)の対象となり得ます。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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