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社外取締役の役割・責任・選任義務と中小企業における活用 ― 会社法2条15号の要件と東証の独立役員制度、取締役会の監督機能(362条)、善管注意義務と任務懈怠責任(423条・429条)・責任限定契約(427条)・D&O保険(430条の3)、327条の2の設置義務とコーポレートガバナンス・コード原則4-8、導入のメリット・デメリットと非公開会社の段階的アプローチ

社外取締役は、令和元年会社法改正による設置義務化(327条の2、2021年3月1日施行)とコーポレートガバナンス・コードの改訂を経て、上場会社においては「置くか否か」ではなく「何名を、どのような独立性と資質をもって選任するか」が問われる段階に至っています。東京証券取引所の2026年7月時点の集計では、プライム市場上場会社の98.8%が独立社外取締役を3分の1以上選任しています。他方、株式の全部に譲渡制限を付した非公開会社である中小企業には設置義務がなく、社外取締役の機能や責任について正確に理解されていないまま、代表取締役の知人が形式的に就任している例、あるいは責任の手当てがないまま委嘱している例も少なくありません。本コラムでは、社外取締役の法律上の要件、取締役会における機能、法的責任とその限定・補填の仕組み、設置義務の範囲と上場規則・ガバナンス・コードの要請を整理したうえで、導入のメリット・デメリットと、非公開会社が「外部の視点」を段階的に経営に取り込む実務を解説します。

1 社外取締役の意義と要件

(1)会社法2条15号の要件

社外取締役は、会社法2条15号において、株式会社の取締役であって次の要件のいずれにも該当するものと定義されています。①当該会社またはその子会社の業務執行取締役(363条1項各号の取締役および業務を執行したその他の取締役)・執行役・支配人その他の使用人(業務執行取締役等)でなく、かつ就任前10年間当該会社またはその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと、②就任前10年内のいずれかの時に当該会社またはその子会社の取締役・会計参与・監査役であったことがある者については、その就任前10年間業務執行取締役等であったことがないこと、③当該会社の親会社等(自然人に限る)または親会社等の取締役・執行役・支配人その他の使用人でないこと、④親会社等の子会社等(いわゆる兄弟会社)の業務執行取締役等でないこと、⑤当該会社の取締役・執行役・支配人その他の重要な使用人または親会社等(自然人)の配偶者または二親等内の親族でないこと、です。

この定義は、当該会社・その企業集団との関係および近親者関係のみを基準としており、代表取締役との個人的な交友関係や取引関係は要件に含まれていません。したがって、代表取締役の知人や主要取引先の役員であっても、上記要件を満たす限り法律上の社外取締役となり得ます。

(2)東証の独立役員制度とガバナンス・コードの独立性基準

上場会社については、東京証券取引所が一般株主保護の観点から、独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することを企業行動規範の遵守すべき事項として定め(有価証券上場規程436条の2)、独立役員届出書の提出を求めています。また、コーポレートガバナンス・コード原則4-9は、取引所の独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきとしています。会社法上の「社外」性と、取引所規則・コード上の「独立」性は別個の概念であり、この区別が人選における第一の論点となります。

2 社外取締役の機能――取締役会の監督機能

取締役会の職務は、業務執行の決定、取締役の職務執行の監督、代表取締役の選定・解職の三つです(会社法362条2項)。このうち監督機能は、社内取締役が日常の業務執行において代表取締役の指揮命令下にある以上、社内取締役のみで構成される取締役会では実質的に機能しにくい構造にあります。社外取締役は、代表取締役の指揮命令を受けない立場から取締役会の監督機能を担う存在として位置づけられます。

コーポレートガバナンス・コード原則4-7は、独立社外取締役に期待される役割・責務として、(i)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る観点からの助言を行うこと、(ii)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと、(iii)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること、(iv)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること、の四点を掲げています。助言機能と監督機能の双方が、代表取締役に対する独立性を前提として成り立つ点に留意が必要です。

3 社外取締役の法的責任

(1)善管注意義務・忠実義務

株式会社と役員との関係は委任に関する規定に従い(会社法330条)、社外取締役も善良な管理者の注意をもって職務を処理する義務(民法644条)および法令・定款・株主総会決議を遵守し会社のため忠実に職務を行う義務(会社法355条)を負います。社外取締役であることを理由にこれらの義務を軽減する規定は存在しません。

(2)任務懈怠責任・第三者責任と監視義務、経営判断原則

役員等がその任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負い(423条1項)、この責任は株主代表訴訟(847条)による追及の対象となります。また、職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、第三者に生じた損害についても賠償責任を負います(429条1項)。社外取締役に固有の実務上のリスクは監視義務にあります。自ら業務執行を行わない社外取締役であっても、他の取締役の法令違反や不適切な取引の兆候を認識しながら取締役会において是正措置を講じなかった場合には、任務懈怠と評価され得ます。

他方、経営判断については、最高裁平成22年7月15日判決(アパマンショップホールディングス株主代表訴訟事件)が、事業再編計画の策定・実行に関する取締役の判断について、その決定の過程・内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反とはならないとする判断枠組み(経営判断の原則)を示しており、結果的に損失を生じた判断がすべて責任を生じさせるわけではありません。社外取締役としては、判断の過程において必要な情報収集・検討を求め、その経過を議事録に残すことが、自らの責任回避と会社の意思決定の質の向上の双方に資します。

(3)責任限定契約・補償契約・役員等賠償責任保険

責任の重さが社外取締役の担い手確保の障害とならないよう、会社法は責任の限定・補填の仕組みを設けています。第一に、業務執行取締役等でない取締役(非業務執行取締役等)については、定款の定めに基づき、職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときの423条1項の責任を、定款で定めた額の範囲内であらかじめ定めた額と最低責任限度額(425条1項。社外取締役の場合は原則として報酬等の2年分に相当する額)とのいずれか高い額を限度とする責任限定契約を締結することができます(427条1項)。第二に、令和元年改正により、役員等が責任追及に係る請求を受けた場合の防御費用や第三者に対する賠償金・和解金を会社が補償する補償契約(430条の2)、および役員等を被保険者とする役員等賠償責任保険契約(D&O保険、430条の3)について、取締役会決議等の手続と利益相反規定の適用除外が明文化されました。社外取締役を委嘱する会社は、定款の責任限定契約根拠規定の整備、D&O保険への加入、補償契約の要否を、委嘱に先立って検討すべきです。

4 設置義務の範囲――会社法・上場規則・ガバナンス・コード

(1)会社法上の設置義務

令和元年改正で新設された327条の2は、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって金融商品取引法24条1項により有価証券報告書を提出しなければならない会社に、社外取締役の設置を義務づけました。改正前は「社外取締役を置くことが相当でない理由」を定時株主総会で説明すれば足りるとされていましたが、説明による代替は認められなくなりました。同条に違反して社外取締役を選任しなかった場合、取締役等は100万円以下の過料に処せられます(976条19号の2)。このほか、機関設計に応じて、監査等委員会設置会社では監査等委員である取締役は3人以上でその過半数が社外取締役でなければならず(331条6項。違反は976条19号の3の過料対象)、指名委員会等設置会社では指名委員会・監査委員会・報酬委員会の各委員の過半数が社外取締役でなければなりません(400条3項)。

(2)上場規則とコーポレートガバナンス・コード

上場会社には、前記の独立役員1名以上の確保義務に加え、コーポレートガバナンス・コード原則4-8が、プライム市場上場会社は独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきであり、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して過半数の独立社外取締役の選任が必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場においては少なくとも3分の1以上の選任が必要と考える上場会社)は十分な人数を選任すべきとしています。補充原則4-8③は、支配株主を有する上場会社について、支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任するか、独立性を有する者で構成される特別委員会を設置すべきとしています。コードはコンプライ・オア・エクスプレインの手法によるものですが、上場審査および上場後の開示において実質的な規範として機能しています。

(3)選任状況

東京証券取引所が2026年7月21日に公表した集計(2026年7月14日時点のコーポレート・ガバナンス報告書に基づく)によれば、プライム市場1,551社のうち独立社外取締役を3分の1以上選任する会社は98.8%、過半数を選任する会社は29.9%であり、グロース市場594社においても2名以上を選任する会社が75.1%、3分の1以上を選任する会社が68.4%に達しています。上場を目指す非公開会社にとって、独立社外取締役の選任は上場準備における必須事項と位置づけるべき状況です。

5 導入のメリット・デメリットと非公開会社における活用

(1)メリット

第一に、意思決定の客観化です。代表取締役の指揮命令下にない者が取締役会において反対意見を述べ得る構造は、経営判断原則における「判断の過程の合理性」を担保する実質的な手段となります。第二に、社内に存在しない法務・財務・業界・海外展開等の専門的知見を、議決権と責任を伴う形で経営の中枢に取り込めることです。第三に、金融機関・取引先・投資家に対する信用であり、上場審査においてはガバナンス体制の評価に直結します。第四に、不正・不祥事の抑止です。取締役会に独立した監督者が存在すること自体が、粉飾や不適切な関連当事者取引に対する心理的抑止となり、内部統制システム(362条4項6号)の実効性を高めます。第五に、後継者選定、幹部の処遇、事業撤退等、社内では議論しにくい事項について、利害関係のない立場からの助言を得られることです。

(2)デメリットと対処

役員報酬・D&O保険料・取締役会運営の負担といったコストは避けられません。意思決定に説明と議論を要するようになる点は、説明のつかない意思決定を排除する機能の裏返しと評価すべきものです。実務上より重要なのは、情報格差により社外取締役が形式的な承認機関と化す「お飾り」化と、人選のミスマッチです。前者に対しては、取締役会に先立つ資料・論点の提供、現場視察の機会の設定、独立社外者のみによる会合や筆頭独立社外取締役の選定(補充原則4-8①・②)等の運用が必要です。後者に対しては、法律上の要件充足と実質的独立性を区別し、代表取締役に対して意見を述べ得る人物であること、かつ会社の事業を理解する意欲と時間を有することを基準に選任すべきです。責任の重さによる担い手不足に対しては、前記3(3)の責任限定契約・D&O保険の整備が前提となります。

(3)非公開会社の段階的アプローチ

設置義務のない非公開会社において、社外取締役の選任は目的ではなく、経営に外部の視点を導入する手段の一つです。第一段階として、顧問弁護士・税理士等の外部専門家を経営会議に定期的に参加させ、個別の契約・労務相談にとどまらず、投資・撤退・組織再編等の重要な意思決定に先立って意見を求める運用とすることが考えられます。取締役としての責任を伴わない一方、代表取締役に対して独立した立場から意見を述べる者を意思決定の場に置くという点では、社外取締役と同様の機能を一定程度果たします。第二段階として、社外監査役の選任や任意のアドバイザリーボードの設置により、監督・助言を制度化します。第三段階として、上場準備の着手に合わせて、独立性を有する社外取締役を選任し、責任限定契約・D&O保険・取締役会規程・情報提供体制を整備します。いずれの段階においても、判断基準は「代表取締役に反対し得る者が意思決定の場に存在するか」に集約されます。

企業が点検すべき事項

  • ① 現在の機関設計(監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社)と会社の属性(公開会社・大会社・有価証券報告書提出会社)に照らし、会社法327条の2・331条6項・400条3項の設置義務の有無を確認しているか
  • ② 社外取締役候補者が会社法2条15号の要件(当該会社・子会社・親会社等・兄弟会社との関係、近親者関係、就任前10年間の経歴)を満たすことを確認し、上場会社・上場準備会社においては取引所の独立性基準およびコード原則4-9に基づく独立性判断基準を策定・適用しているか
  • ③ 定款に責任限定契約の根拠規定(427条1項)を設け、社外取締役との間で責任限定契約を締結し、役員等賠償責任保険契約(430条の3)への加入および補償契約(430条の2)の要否を検討しているか
  • ④ 取締役会に先立つ資料・論点の提供、現場情報へのアクセス、独立社外者のみの会合等、社外取締役が監督・助言機能を実質的に果たすための情報提供体制を整備しているか
  • ⑤ 重要な経営判断について、情報収集・検討の経過と社外取締役の意見を議事録に記録し、経営判断原則の適用を受け得る意思決定過程を確保しているか
  • ⑥ 社外取締役を選任していない非公開会社において、顧問弁護士等の外部専門家が重要な意思決定に先立って意見を述べる機会が制度化されているか

社外取締役制度の本質は、代表取締役の指揮命令を受けない者を取締役会に置くことによって、経営の監督と助言を機能させる点にあります。設置義務の有無にかかわらず、経営判断の質と不祥事の抑止は、代表取締役に対して独立した立場から意見を述べる者が意思決定の場に存在するか否かに大きく左右されます。社外取締役の選任に至らない段階にある会社においても、外部専門家を意思決定過程に組み込むことは、最も着手しやすい予防法務の一つです。

よくあるご質問

Q. 非公開会社である中小企業にも社外取締役の設置義務はありますか。

A. 会社法327条の2が社外取締役の設置を義務づける対象は、監査役会設置会社のうち公開会社かつ大会社であって、有価証券報告書の提出義務を負う会社に限られます。株式の全部に譲渡制限を付した非公開会社には設置義務はありません。ただし、監査等委員会設置会社を選択した場合は監査等委員である取締役の過半数(331条6項)、指名委員会等設置会社を選択した場合は各委員会の委員の過半数(400条3項)が社外取締役でなければならず、株式上場を目指す場合には東証の独立役員確保義務およびコーポレートガバナンス・コード原則4-8により独立社外取締役の選任が事実上必要となります。

Q. 社外取締役の会社に対する責任は、社内取締役より軽減されていますか。

A. 社外取締役であることを理由に義務や責任を軽減する規定はありません。善管注意義務・忠実義務、任務懈怠責任(423条1項)、第三者責任(429条1項)、他の取締役に対する監視義務は社内取締役と同様に負います。一方で、経営判断については判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反とならず(最判平成22年7月15日)、非業務執行取締役については定款の定めに基づく責任限定契約(427条)により善意・無重過失の場合の責任を最低責任限度額まで限定でき、補償契約・役員等賠償責任保険契約による手当ても可能です。

Q. 代表取締役の知人に社外取締役を委嘱することは可能ですか。

A. 会社法2条15号の要件は会社との関係のみを基準としており、代表取締役との個人的関係は含まれないため、法律上は可能です。もっとも、上場会社においては取引所の独立性基準およびコード原則4-9により実質的独立性が問われ、非上場会社においても、代表取締役に対して独立した立場から意見を述べることができない人物では取締役会の監督機能は実質的に機能しません。法律上の要件充足と実質的独立性を区別して人選する必要があります。

参考:e-Gov法令検索「会社法」(2条15号・327条の2・330条・331条・355条・362条・400条・423条・425条・427条・429条・430条の2・430条の3・847条・976条)e-Gov法令検索「民法」(644条)日本取引所グループ「独立役員の確保」東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2021年6月11日)東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2026年7月21日)

本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・統計は e-Gov法令検索・東京証券取引所の公表資料(2026年9月時点)に基づきます。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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