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勤務中に居眠りを繰り返す従業員への対応 ― 放置による割増賃金(労働基準法37条)と安全配慮義務(労働契約法5条)のリスク、副業の労働時間通算(労働基準法38条1項)と受診勧奨、記録3点セットと段階的処分、懲戒権・解雇権の濫用法理(労働契約法15条・16条)、高知放送事件(最判昭和52年1月31日)

勤務時間中に居眠りを繰り返す従業員への対応は、中小企業の労務相談の中でも頻度の高いテーマです。放置すれば周囲の士気と業務効率を損ない、他方で対応を誤れば、懲戒処分や解雇の有効性が争われた際に使用者側が敗訴する典型例にもなります。特に「日中に居眠りをしているのに残業が多い」という従業員については、割増賃金の負担という経済的問題と、安全配慮義務という法的問題が同時に生じます。

本稿では、①居眠りを放置した場合に使用者が負うコストとリスク、②最初に行うべき原因確認(副業の労働時間通算・疾病の可能性)と受診勧奨、③改善しない場合の記録と段階的処分(就業規則の懲戒事由、懲戒権・解雇権の濫用法理、高知放送事件)、④居眠り時間の賃金控除や離席の記録といった実務上の論点を整理し、企業が点検すべき事項とFAQを示します。なお、厚生労働省の「令和5年 国民健康・栄養調査」では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の者は男性38.5%、女性43.6%、男性の30〜50歳代では4割を超えており、日中の眠気は特定の従業員だけの問題ではなく、どの事業場でも生じ得る前提で制度を設計する必要があります。

1 居眠りを放置した場合に使用者が負うもの

(1)割増賃金 ― 「昼に寝て夜に働く」構造

日中に居眠りをしている時間は、使用者の指揮命令下にある所定労働時間として賃金の支払対象になっているのが通常です。その間に処理されなかった業務が終業後にずれ込めば時間外労働となり、法定労働時間を超える部分には労働基準法37条1項により2割5分以上の割増賃金が発生します(1か月60時間超は5割以上)。すなわち、居眠りをしている時間の賃金を支払い、さらにその後始末の残業に割増賃金を支払うという、使用者にとって最も費用効率の悪い状態が生じます。居眠りと長時間残業が同一の従業員に重なっている場合、これは勤怠の問題である前に人件費の構造的な問題であると認識する必要があります。

(2)安全配慮義務 ― 運転・機械作業と事故リスク

労働契約法5条は、使用者が労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものと定めています。運転業務や機械作業に従事する従業員の居眠りは、本人の生命だけでなく第三者の生命・身体にも危険を及ぼし、事故が発生すれば使用者は安全配慮義務違反による損害賠償責任や使用者責任(民法715条)を問われ得ます。国土交通省は自動車運送事業者向けに「睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」を公表し、スクリーニング検査の普及を求めています。居眠りが繰り返される従業員を危険業務に従事させ続けること自体が、安全配慮義務の観点から問題となり得る点に注意が必要です。

(3)職場秩序と公平性

居眠りが放置されれば、真面目に勤務している従業員の不公平感が高まり、「注意しても何も起きない会社」という認識が組織に広がります。管理職が注意をためらう背景には、「誰が言うのか」「身体に触れて起こしてよいのか」という実務上の躊躇がありますが、手順を定めておけば、現場の判断に委ねずに対応を開始できます。

2 最初に行うべきは原因確認 ― 面談と受診勧奨

(1)「寝るな」と叱責することの危険

繰り返される居眠りに対し、原因を確認せずに叱責や懲戒を先行させることは避けるべきです。後述のとおり、居眠りの背景に疾病や副業による過重労働が存在した場合、使用者は「健康状態を把握し配慮すべき立場にあったのに、確認を怠って処分した」と評価され、処分の相当性が否定されるだけでなく、安全配慮義務違反を問われる側に転じるおそれがあります。初動は、事実を示して本人の説明を求める面談です。「最近、日中に眠気が強い状況が続いている。何か事情があるか」と、観察した事実を具体的に示したうえで聴き取りを行います。

(2)私生活上の原因 ― 副業と労働時間の通算(労働基準法38条1項)

原因が私生活にある場合、夜間の娯楽等であれば本人の自己管理の問題として注意指導の対象になりますが、副業である場合は使用者側の法的義務が関わります。労働基準法38条1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めており、他社に雇用されて働く副業の労働時間は本業の労働時間と通算されます。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月8日改定)も、この通算を前提に、使用者が労働者の申告等により副業先の労働時間を把握し、健康管理を行うことを求めています。したがって、副業を許容する場合であっても、就業規則で届出制を定め、副業先の勤務形態(雇用か業務委託か)と労働時間を把握しておくことが、使用者自身の義務履行のために必要です。なお、副業が業務委託等の非雇用形態である場合、労働時間の通算は原則として問題になりませんが、健康確保の観点から就業状況を把握する意義は変わりません。

(3)疾病の可能性 ― 健康診断・ストレスチェックと受診勧奨

本人が十分な睡眠を取っているにもかかわらず日中の強い眠気が生じる場合、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害や、メンタルヘルス不調の可能性が考えられます。使用者は労働安全衛生法66条により年1回の定期健康診断を実施する義務を負い、常時50人以上の労働者を使用する事業場では同法66条の10のストレスチェックの実施義務もあります。これらは使用者が労働者の健康状態を把握する立場にあることの表れであり、居眠りが続く従業員に対しては、面談の中で体調を確認し、医療機関の受診を勧める(受診勧奨)ことが先行すべき対応になります。受診を命じる場合は就業規則上の根拠(受診命令規定)を確認し、本人のプライバシーに配慮したうえで、診断結果の提出範囲も限定的に求めるのが適切です。受診勧奨を経ずに懲戒へ進み、後に疾病が判明した場合、処分の相当性は大きく揺らぎます。

(4)面談記録の作成

面談の日時、使用者が示した事実、本人の説明、受診勧奨の有無とその際のやり取りは、面談当日に記録化しておきます。この記録は、後に注意指導や処分の相当性を立証する基礎資料となるだけでなく、「会社は本人の健康状態に配慮して対応していた」ことを示す安全配慮義務履行の証拠にもなります。

3 改善しない場合の対応 ― 証拠と段階

(1)高知放送事件が示すもの

最高裁昭和52年1月31日第二小法廷判決(昭和49年(オ)第165号・従業員地位確認等請求事件、いわゆる高知放送事件)は、ラジオ局のアナウンサーが宿直勤務中に寝過ごし、2週間に2回、定時ニュースを放送できなかった事案において、就業規則所定の懲戒事由があることを理由とする普通解雇について、解雇権の濫用として無効と判断しました。同判決は、就業規則所定の懲戒事由を理由に普通解雇をする場合には普通解雇の要件を備えていれば足り懲戒解雇の要件を満たす必要はないとしつつ、本件の事情のもとでは解雇は苛酷にすぎ、社会的に相当なものとして是認できないとしています。放送事故という業務上の具体的支障が2回発生した事案でさえ、直ちに解雇に至る対応は無効とされたという点が重要です。居眠りについても、「何回」「どの程度」「業務にどのような支障が生じたか」を客観的に示せず、かつ段階的な指導・処分を経ていない解雇は、現在の労働契約法16条のもとでも維持されない可能性が高いと考えるべきです。

(2)記録は「日時・状況・本人の説明」の3点セット

居眠りを理由とする処分の有効性を争われた場合、使用者が立証すべきは、居眠りの事実(いつ、どの程度)、業務への支障、注意指導の経過、本人の反応と改善の有無です。実務上は、個別の事実ごとに「日時」「状況」「本人の説明」を記録する方法が有効です。例えば「9月10日14時00分頃、自席で約20分間入眠。上司が声をかけて起床。本人は『昨夜3時まで副業をしていた』と説明」という形式です。記録者と記録日時を併記し、可能であれば同席者や目撃者も記載します。この記録は懲戒処分の前提事実としてだけでなく、後述する賃金控除の根拠としても機能します。

(3)就業規則の懲戒事由と懲戒権の濫用(労働基準法89条9号・労働契約法15条)

懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒の種類と事由が定められていることが前提です。労働基準法89条9号は、表彰及び制裁の定めをする場合にはその種類及び程度を就業規則に記載すべきものとしており、居眠りについては「職務専念義務違反」「勤務怠慢」「業務命令違反」等の懲戒事由への該当性を検討します。そのうえで労働契約法15条は、懲戒が労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合にはこれを無効としています。初回の居眠りに対して減給や出勤停止といった重い処分を課すことは、相当性を欠くと判断される典型例です。

(4)段階的処分の設計

実務上の標準的な流れは、面談(原因確認)→受診勧奨→口頭注意→書面による注意(注意書・指導書)→けん責(始末書提出)→減給→出勤停止→退職勧奨または解雇、という段階を踏むことです。各段階で、改善の機会と期間を与え、その結果を記録します。減給については労働基準法91条の制限(1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはならない)に留意が必要です。解雇は労働契約法16条により客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められる最後の手段であり、十分な記録と段階を経ていない解雇は認められにくいのが実情です。記録が整っている場合には、解雇ではなく退職勧奨による合意退職で解決に至ることも多く、その際も退職強要と評価されない面談の進め方が重要になります。

(5)居眠り時間の賃金と「離席」の記録

「居眠りをしていた時間の賃金を支払いたくない」という相談もあります。労働の提供がなかった時間について賃金請求権が発生するかは争い得る問題ですが、その前提として、いつからいつまで労務の提供がなかったかを使用者が特定し立証できなければなりません。「おおむねこの程度寝ていたはずだ」という程度では控除の根拠になりません。上記の3点セットの記録で時間を特定していることが、ここでも不可欠です。また、トイレ等の個室で居眠りをしていると疑われる場合、個室内の確認はプライバシー侵害やハラスメントの問題を生じるため行うべきではなく、「何時から何時まで離席していた」という外形的事実を記録します。短期間に長時間の離席が繰り返されていれば、居眠りの有無を直接証明しなくても、職務専念義務違反の事実として評価することが可能です。

(6)残業の事前承認制 ― 後始末の残業を止める

居眠りによって遅れた業務を夜間の残業で処理するという流れを断つには、時間外労働を上司の事前承認制とすることが有効です。就業規則と運用で「時間外労働は所属長の事前の指示・承認を得て行う」と定め、承認のない残業については業務上の必要性を個別に確認する運用を徹底します。ただし、承認制を形式的に導入しても、黙示の指示のもとで残業が行われている実態があれば労働時間として評価されますので、業務量の見直しと併せて運用することが必要です。

4 中小企業が平時に整えておくべきこと

(1)就業規則の点検

職務専念義務、懲戒事由(勤務怠慢・職務専念義務違反・業務命令違反)、懲戒の種類と手続、副業・兼業の届出制、受診命令、時間外労働の事前承認に関する規定が整っているかを確認します。労働基準法89条の記載事項を満たすとともに、処分の段階に対応した懲戒の種類(けん責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇)が定められているかが重要です。

(2)管理職への手順の共有

居眠りを発見したときの初動(声かけ→事実の記録→面談の設定)、面談での聴き取り事項、記録の書式、受診勧奨の方法、やってはいけないこと(身体への不必要な接触、個室の確認、人格を否定する叱責)を管理職に共有します。現場が独自の判断で対応すると、パワーハラスメントの主張を招くこともあります。

(3)健康管理体制の確認

定期健康診断の受診率、ストレスチェックの実施状況、副業の届出状況を確認し、長時間労働者への医師による面接指導(労働安全衛生法66条の8)の運用を整えます。居眠りの背景に過重労働がある場合、使用者自身の労働時間管理の問題でもあります。

企業が点検すべき事項

  1. 就業規則に職務専念義務違反・勤務怠慢を含む懲戒事由と、懲戒の種類・程度・手続が定められているか(労働基準法89条9号)。
  2. 副業・兼業について届出制が定められ、副業先の勤務形態と労働時間を把握する仕組みがあるか(労働基準法38条1項、副業・兼業ガイドライン)。
  3. 受診命令の根拠規定と、診断結果の取扱い(提出範囲・保管・共有の限定)が定められているか。
  4. 居眠りを発見した際の初動手順(声かけ・記録・面談設定)が管理職に共有されているか。
  5. 記録の書式(日時・状況・本人の説明・記録者)が統一され、当日中に作成する運用になっているか。
  6. 面談では事実を示して本人の説明を聴き取り、原因(私生活・副業・疾病)を確認してから注意指導に進む運用になっているか。
  7. 疾病の可能性がある場合に受診勧奨を先行させ、懲戒を急がない運用になっているか。
  8. 注意指導から処分までの段階(口頭注意→書面注意→けん責→減給→出勤停止)と、各段階で改善の機会と期間を与える運用が定められているか。減給は労働基準法91条の制限内か。
  9. 個室での居眠りが疑われる場合に、個室内の確認ではなく離席時間の記録で対応する方針が共有されているか。
  10. 時間外労働の事前承認制が規定・運用されており、居眠りの後始末としての残業が放置されていないか。運転・機械作業など危険業務に従事する従業員の眠気について、安全配慮の観点から業務配置の見直しを検討する体制があるか。

よくあるご質問

Q. 居眠りを繰り返す従業員を、いきなり懲戒処分にしてもよいですか。

A. 避けるべきです。懲戒処分は就業規則上の懲戒事由への該当と、労働契約法15条の相当性が必要であり、初回または数回の居眠りに対して原因確認や注意指導を経ずに処分すると、相当性を欠くと判断される可能性が高くなります。また、居眠りの背景に疾病や副業による過重労働があった場合、確認を怠った使用者側の対応が問題視されます。まず面談で事実を示して事情を確認し、必要に応じて受診を勧め、改善しない場合に書面注意から段階的に進めてください。

Q. 従業員が夜間に副業をしているために日中に居眠りをしている場合、会社は副業を禁止できますか。

A. 一律の禁止は認められにくいのが近年の傾向ですが、労働基準法38条1項により他社に雇用される副業の労働時間は本業と通算されるため、使用者には労働時間と健康状態を把握する必要があります。就業規則で届出制を定め、本業の業務に具体的な支障が生じている場合や長時間労働により健康確保が困難な場合には、副業の内容・時間の調整を求めることや、就業規則に基づき制限することが検討できます。無届の副業を理由とする懲戒の可否については、別のコラム「無届副業を理由とする懲戒・解雇の可否」もご参照ください。

Q. 居眠りをしていた時間分の賃金を控除してもよいですか。

A. 労務の提供がなかった時間について賃金請求権が生じるかは争い得ますが、控除を行うには、いつからいつまで労務の提供がなかったかを使用者が具体的に特定し、立証できることが前提です。「日時・状況・本人の説明」を記録した資料がなければ控除の根拠を示せず、逆に賃金未払いとして争われるリスクがあります。また、控除とは別に懲戒としての減給を行う場合は労働基準法91条の制限を受けます。控除を検討する場合は、記録の整備と就業規則の規定を確認したうえで、事前に専門家に相談することをお勧めします。

Q. 居眠りが続く従業員に病気の疑いがある場合、受診を命じることはできますか。

A. 就業規則に受診命令の規定がある場合、業務上の必要性と合理性が認められる範囲で受診を命じることができると考えられています。規定がない場合でも、健康状態の確認が労務管理上必要であれば、受診を勧める(受診勧奨)ことは可能です。いずれの場合も、本人のプライバシーに配慮し、診断結果の提出範囲を就労可否の判断に必要な範囲に限定し、取得した情報の共有範囲を限定することが必要です。受診勧奨を経ずに懲戒を先行させると、後に疾病が判明した際に処分の相当性が否定されるおそれがあります。

まとめ

勤務中の居眠りは、放置すれば割増賃金の負担と安全配慮義務のリスクを使用者にもたらし、対応を誤れば懲戒や解雇の無効を招く問題です。初動は叱責ではなく、事実を示した面談による原因確認であり、副業であれば労働基準法38条1項の労働時間通算と届出制の確認、疾病の可能性があれば受診勧奨を先行させます。改善しない場合は、「日時・状況・本人の説明」の3点を記録し、書面注意からけん責・減給・出勤停止へと段階を踏み、解雇は労働契約法16条の最後の手段と位置づけます。高知放送事件が示すとおり、業務に具体的な支障が生じた事案であっても段階を経ない解雇は維持されません。就業規則の懲戒事由・副業届出・受診命令・残業の事前承認制を平時に整え、管理職に初動の手順を共有しておくことが、居眠り問題を紛争に発展させないための実務的な備えです。当事務所では、就業規則の点検、注意書・指導書の作成、面談の進め方、処分の相当性の事前確認、退職勧奨の設計まで、顧問契約の中で継続的に支援しています。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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