就業規則に副業の届出義務や禁止規定を置いているにもかかわらず、従業員が無断で他社での就労を続けていた場合、使用者としては規律違反を理由とする懲戒・解雇を検討したくなるところです。しかし、届出義務違反という形式違反のみを理由とする解雇は、無効と判断される可能性が高いことに注意が必要です。裁判例は、勤務時間外の時間は本来労働者が自由に利用できることを出発点に、兼業を禁止・制限できる場面を限定的に解しており、厚生労働省も2018年にモデル就業規則の副業規定を「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」から原則容認・届出制の規定例へ改めています。本コラムでは、兼業制限が許される4類型、解雇の有効・無効を分けた裁判例、無届副業発覚時の段階的対応、労働基準法38条による労働時間通算の実務を解説します。
兼業制限の法的枠組み ― 全面禁止規定のリスクと4類型
労働者は労働契約を通じて1日のうち一定の限られた時間のみ労務に服するのが原則であり、就業時間外は本来労働者の自由です。小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)も、就業規則で兼業を全面的に禁止することは特別な場合を除き合理性を欠くと述べたうえで、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮して会社の承諾にかからしめる規定は合理性を有するとしています。裁判例の蓄積を踏まえると、使用者が副業・兼業を禁止・制限できるのは、①本業への労務提供上の支障がある場合、②企業秘密が漏えいする場合、③会社の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、④競業により企業の利益を害する場合、の4類型に整理されます。就業規則の設計としては、全面禁止ではなく、原則自由・事前届出制としつつ、この4類型に該当する場合に禁止・制限できると定める形が適切です。
解雇が有効とされた裁判例 ― 長時間兼業と競業
前掲小川建設事件は、会社に無断で毎日6時間にわたりキャバレーで就労していた従業員に対する解雇について、兼業が深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超え、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に支障を来す蓋然性が高いとして、解雇を有効としました。所定労働に加えて毎晩深夜まで及ぶ長時間の兼業という「量」が、本業への支障の蓋然性を基礎付けた点が重要です。また、橋元運輸事件(名古屋地判昭和47年4月28日)は、管理職にある従業員が競業他社の取締役に就任した事案について、経営に直接関与していなくとも企業秩序に影響し得るとして懲戒解雇を有効としています。実務上、解雇が現実的な選択肢となるのは、この2件のように本業への支障の蓋然性が高い長時間・深夜の兼業か、競業・秘密漏えいの類型に至った場合と考えるべきです。
解雇が無効とされた裁判例 ― 形式違反のみでは足りない
他方、十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)は、運送会社の運転手が年1〜2回程度の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇について、業務への具体的支障がなく、職務専念義務違反や信頼関係の破壊があったとまではいえないとして解雇を無効としました。無届という形式違反があっても、実害を伴わない軽微な兼業を理由とする解雇は維持できません。解雇が無効とされれば、係争期間中の賃金の遡及払い(バックペイ)が発生し、紛争が1年に及べば数百万円規模の負担となることも珍しくありません。
さらに、マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)は、従業員からのアルバイト許可申請を4度にわたり不許可とした使用者について、後の2回については不許可とする理由がなかったとして、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を認めています。副業を不当に制限し続けること自体が、使用者側の賠償リスクとなる点にも留意が必要です。
無届副業が発覚した場合の段階的対応
無届の副業が発覚した場合、感情的に即時の処分に進むことは避け、次の5段階で対応します。
- ① 就業規則の確認 ― 届出制か許可制か、懲戒事由に無届副業が含まれるか、規則が従業員に周知されているか
- ② 事実確認 ― 副業先の事業内容・業務内容・就労時間・契約形態、競業関係の有無、自社の情報・設備の使用の有無
- ③ 本業への影響の確認 ― 勤怠記録、遅刻・欠勤、業務中の居眠り、ミスの増加等の客観的事実
- ④ 改善指示 ― 深夜就労の中止、時間の削減、労働時間の報告等の合理的な指示と記録化
- ⑤ 段階的処分 ― 指示に従わない場合に注意・始末書・戒告等から段階的に実施し、悪質な場合に限り解雇を検討
懲戒処分・解雇の効力が争われた場合に裁判所が審査するのは、使用者が実害の有無を確認し、改善の機会を与え、段階を踏んだかという経過の記録です。処分の目的は「無届で働いたこと」への制裁ではなく「会社への実害」の防止にあることを、規定と運用の双方で一貫させるべきです。
労働時間の通算(労働基準法38条)と契約形態の把握
見落とされがちな論点として、労働基準法38条は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めており、従業員が副業先でも雇用契約に基づき労働する場合には、本業と副業の労働時間が通算され、割増賃金の負担や健康確保措置の問題が生じ得ます。他方、配達代行や動画編集の請負のような業務委託(雇用によらない働き方)による副業は、労働時間の通算対象とはなりません。副業がどの契約形態で行われているかにより使用者の管理すべき事項が異なるため、契約形態・就労時間を申告させる事前届出制を整備し、届出時にこれらを確認する運用が重要です。
よくあるご質問
Q. 就業規則で従業員の副業を全面的に禁止できますか。
A. 推奨できません。勤務時間外の時間は本来労働者の自由であり、合理的な理由のない全面禁止規定は合理性を欠くと判断されるリスクがあります。兼業を禁止・制限できるのは、労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、名誉・信用の毀損等、競業の4類型に整理されており、原則自由・事前届出制としつつ4類型該当時に制限できる旨を定める設計が適切です。
Q. 無届の副業が発覚した場合、直ちに懲戒解雇できますか。
A. 届出義務違反という形式違反のみを理由とする解雇は、無効と判断される可能性が高いといえます(十和田運輸事件参照)。規則・周知の確認、副業実態の事実確認、本業への具体的支障の確認、改善指示を経たうえで、軽度の処分から段階的に実施し、悪質な場合に限って解雇を検討してください。
Q. 従業員の副業先での労働時間は、自社の労働時間と通算されますか。
A. 副業先でも雇用契約により労働する場合は、労働基準法38条により通算され、割増賃金や健康管理の問題が生じ得ます。業務委託等の雇用によらない副業は通算対象になりません。契約形態と就労時間の把握のためにも、事前届出制の整備が重要です。
参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」/厚生労働省「副業・兼業に関する裁判例」(ガイドラインパンフレット参考資料)/e-Gov法令検索「労働基準法」(38条)
本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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