厚生労働省が令和7年6月25日に公表した令和6年度の「過労死等の労災補償状況」によれば、精神障害に関する労災の請求件数は3,780件(前年度比205件増)、支給決定件数は1,056件(前年度比173件増)であり、いずれも増加が続いています。使用者の実務においては、業務上の指導や配置転換等を契機として主治医の「就業不可」の診断書が提出され、休職と復職が反復されるという事案が定型的に生じています。もっとも、労働者に精神的不調がうかがわれる状況で、医学的確認の手続を経ないまま懲戒処分や退職扱いに踏み切った場合、当該処分は無効と判断される可能性が高く、その帰結として遡及的な賃金支払義務(いわゆるバックペイ)を負うことになります。本稿では、私傷病休職制度の法的性質を確認したうえで、即時処分の限界を示した裁判例、主治医の診断書の評価方法、受診命令の根拠と限界、休職期間の通算規定の設計、復職可否の判断枠組み、傷病手当金の案内と安全配慮義務との関係を整理し、就業規則の点検事項をまとめます。
1 私傷病休職制度の法的性質
(1) 法定外の制度であること
私傷病休職(傷病休職)は、業務外の傷病による長期欠勤が一定期間に及んだ場合に、労働契約を存続させたまま就労義務を免除し、一定期間内の治癒を待つ制度です。労働基準法その他の法令が使用者に設置を義務づけている制度ではなく、就業規則または個別の労働契約により内容が定まる法定外の制度です。したがって、休職事由、休職期間、期間中の賃金の取扱い、復職の要件と判断手続、期間満了時の効果は、すべて就業規則の規定内容に従って決せられます。休職に関する定めを設ける場合には、労働基準法89条10号の相対的必要記載事項として就業規則に記載しなければなりません。
この制度設計の自由は、同時に規定の不備がそのまま使用者の不利益に直結することを意味します。実務上生じる紛争の多くは、法令解釈の対立ではなく、通算規定の欠落、復職判断の主体と手続の不明確、期間満了時の効果の不記載といった規定の不備に起因しています。休職制度は、紛争が生じてから改定しても当該事案には適用されないため、平時の整備が決定的に重要です。
(2) 解雇猶予措置としての性格
傷病休職は、講学上、解雇猶予措置としての性格を有すると説明されます。すなわち、傷病により労務提供が不能となった労働者について、直ちに労働契約を終了させるのではなく、一定期間の猶予を与えるものです。この性格から、休職制度が設けられているにもかかわらずその適用を検討せずに解雇や退職処分を行うことは、手続的な相当性を欠くと評価されやすくなります。次項の裁判例は、まさにこの点を判示したものです。
2 精神的不調がうかがわれる労働者への即時処分の限界
(1) 日本ヒューレット・パッカード事件(最判平成24年4月27日)
最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決(平成23年(受)第903号・地位確認等請求事件)は、被害妄想等の精神的不調により約40日間にわたり欠勤を続けた労働者に対して使用者が行った諭旨退職処分の効力が争われた事案です。最高裁は、精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで、その結果に応じて必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、そうした対応を採ることなく、直ちに当該欠勤を正当な理由のない無断欠勤に当たるものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難いとして、処分を無効とした原審の判断を是認しました。
実務的な含意は明確です。労働者の言動から精神的不調がうかがわれる場合、使用者には、①医学的確認(受診勧奨・健康診断)、②必要に応じた治療の勧奨、③休職等の制度適用の検討、④その後の経過観察という順序を踏むことが求められます。この順序を踏まずに行われた処分は、その実質的な理由がいかに強固であっても、手続的相当性を欠くものとして無効となるリスクを負います。処分が無効となれば、労働契約は存続していたことになり、係争期間中の賃金相当額の支払義務(民法536条2項)が生じます。争訟が長期化するほど金額は累積し、実務上、数百万円規模に達することも稀ではありません。
(2) 「仮病の疑い」があっても手順は変わらない
使用者が主観的に仮病を疑う事案であっても、採るべき手順は変わりません。仮病であるかどうかは医学的評価を要する事項であり、使用者が独自に断定できる性質のものではないからです。使用者が採り得る正当な手段は、決めつけによる処分ではなく、後述する受診命令・産業医面談によって医学的な裏づけを取得し、その結果を踏まえて制度に従った判断を行うことに尽きます。仮に虚偽の診断書取得や症状の意図的な誇張が客観的資料から認定できる場合には、懲戒事由該当性の検討が可能となりますが、その認定も手続を経た記録の集積があって初めて成り立ちます。
3 主治医の診断書の評価と産業医による精査
(1) 厚生労働省「職場復帰支援の手引き」の指摘
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、職場復帰の可否判断について、労働者から職場復帰の意思が伝えられた場合には主治医による職場復帰可能の判断が記された診断書の提出を求めるとしつつ、主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないことを明記しています。そのうえで、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について産業医等が精査したうえで採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要であるとしています。
この指摘は、休職の開始局面にも同様に妥当します。主治医は当該職場の業務内容、職場環境、要求される負荷の水準を直接に把握しているわけではなく、多くの場合、患者本人の申告を基礎として診断書を作成せざるを得ないという構造的制約があります。したがって、診断書は「就労の可否についての最終的な決定」ではなく、「使用者が判断を行うための重要な一資料」として位置づけるのが正確です。
(2) 主治医との情報連携
主治医の判断の精度を高めるためには、使用者側から職場の情報を提供することが有効です。前記手引きは、職場復帰支援に関する情報提供依頼書等の様式例を示しており、業務内容、勤務形態、就業上の配慮の可能性等を書面で伝えたうえで意見を求める運用が想定されています。実務上は、労働者本人の同意を得たうえで、職務内容一覧と想定される負荷を添付して主治医に照会し、回答書を取得する方法が定着しつつあります。本人の同意なく主治医から健康情報を取得することは、個人情報の取扱いの観点から問題を生じるため、同意の取得と記録化を欠かしてはなりません。
4 受診命令・産業医面談の根拠と限界
(1) 就業規則上の根拠
使用者が指定する医師の受診や産業医面談を命じることの可否については、電電公社帯広局事件(最判昭和61年3月13日)が、就業規則等における合理的な定めに基づく受診命令に労働者が従う義務を負う旨を判示しています。この枠組みを前提とすれば、就業規則に「会社は、休職の要否または復職の可否を判断するため必要があると認めるときは、会社の指定する医師の受診または産業医との面談を命じることができる」旨の規定を置いておくことが実務上の出発点となります。規定がない場合には、労働契約上の付随義務や安全配慮義務を根拠とする主張は可能であるものの、命令の拘束力をめぐって争いが生じやすくなります。
(2) 労働安全衛生法66条5項ただし書による制約
他方で、受診命令は無制約ではありません。労働安全衛生法66条5項本文は労働者に事業者の行う健康診断の受診義務を課していますが、同項ただし書は、事業者の指定した医師または歯科医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師または歯科医師の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでないと定めています。法定健康診断の場面における医師選択の自由を認めた規定であり、私傷病休職に関する受診命令の相当性を検討する際にも、その趣旨は無視できません。
したがって、受診命令を発する際には、①就業規則上の根拠、②命令の目的(休職の要否または復職可否の判断という業務上の必要性)、③対象範囲(必要な範囲の情報に限定すること)、④費用負担(会社負担とするのが一般的)、⑤結果の取扱い(利用目的の限定と守秘)を明示し、書面で通知することが望ましいといえます。産業医面談についても同様で、労働安全衛生法上、常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任義務がありますが、それ未満の規模の事業場では産業保健総合支援センター(地域窓口)等の外部資源の活用を検討することになります。
(3) 拒否された場合の対応
合理的な受診命令または面談指示を正当な理由なく拒否する場合、業務命令違反として注意・指導の対象となり、反復する場合には懲戒事由該当性の検討が可能です。ただし、いきなり重い処分を科すことは相当性を欠くと評価されるため、口頭注意、書面による指導、改善が見られない場合の軽い懲戒処分という段階を踏み、各段階を記録化することが不可欠です。また、拒否の理由として本人が主治医の意見や体調を挙げる場合には、その内容を確認し、面談の方法(オンライン、書面照会への切替え等)について調整を試みた経緯を残しておくことが、後の相当性判断において有利に働きます。
5 休職期間の通算規定と傷病名の相違
(1) 通算規定の要否
復職と再休職が反復される事案において、実務上最も重要な条項が休職期間の通算規定です。通算規定を欠く就業規則では、復職のたびに休職期間が新たに起算され、事実上、無期限に休職と復職を繰り返すことが可能となります。標準的な規定例は、復職後一定期間(実務上は6か月程度が多い)以内に同一または類似の傷病により欠勤したときは、前後の休職期間を通算し、または休職を継続したものとみなすという内容です。
(2) 傷病名が異なる場合の論点
通算規定を設けた場合に生じる典型的な争点が、傷病名の相違です。前回の休職事由が「うつ病」であったのに対し、今回提出された診断書の傷病名が「適応障害」であるといった場合に、労働者側から「別個の傷病であるから通算されない」との主張がなされる例が多く見られます。精神疾患においては診断名が診断時点の症状や医師の判断により変動し得るため、傷病名のみを基準とする規定は容易に潜脱されます。
したがって、通算規定は「同一または類似の傷病」という表現にとどめず、傷病名が異なる場合であっても、病状もしくは発症の原因が共通するとき、または前回の休職事由と医学的に関連性があると認められるときを含む旨を明記することが有効です。あわせて、関連性の判断について産業医等の意見を踏まえて会社が行う旨を規定しておけば、判断の主体と資料が明確になります。就業規則の不利益変更に当たり得るため、改定にあたっては労働契約法9条・10条を踏まえ、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況、周知手続を整えることが必要です。
6 復職可否の判断枠組み
(1) 判断権者と手続
復職の可否は、休職事由の消滅(治癒)の有無として判断されます。就業規則には、①復職の判断権者が会社であること、②主治医の診断書に加えて産業医等の意見を踏まえて判断すること、③復職申請に際して提出を求める書面(主治医の診断書、情報提供依頼書に対する回答書、本人の同意書等)、④面談および必要に応じた試し出勤・リハビリ勤務の取扱いを明記します。試し出勤を制度化する場合には、当該期間の法的性質(労働に該当するか否か)、賃金の有無、労災適用の可否について、あらかじめ整理しておく必要があります。
(2) 片山組事件(最判平成10年4月9日)の枠組み
復職可否の判断にあたっては、片山組事件(最判平成10年4月9日)の枠組みを踏まえる必要があります。同判決は、職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した労働者については、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解すべき旨を判示しました。
この枠組みの下では、休職期間満了時に従前業務を完全には遂行できないことのみを理由として退職扱いとすることは相当でなく、配置可能な他の業務の有無、段階的な就業を含む復帰プログラムの可否を検討し、その検討過程を記録化することが求められます。他方、職種や業務内容を特定して採用された労働者については判断枠組みが異なり得るため、労働契約書および募集時の条件において職務限定の有無を明確にしておくことが、後の判断の前提整理として有益です。
(3) 期間満了時の効果
休職期間が満了しても復職できない場合の効果については、自然退職とする例と解雇事由とする例があります。いずれの構成を採る場合でも、就業規則に明記しておくことが不可欠です。自然退職構成を採る場合であっても、復職可否の判断が実質的に労働契約の終了を帰結する以上、判断の合理性と手続の相当性は厳格に審査されます。したがって、期間満了の相当期間前に本人へ通知し、復職申請の機会と判断資料の提出方法を案内したうえで、面談および医学的評価を経て判断するという運用を、規定と実務の双方で確保しておく必要があります。
7 傷病手当金の案内と安全配慮義務
(1) 傷病手当金
健康保険の被保険者が療養のため労務に服することができない場合、傷病手当金が支給されます。1日当たりの金額は、支給開始日以前12か月の各標準報酬月額を平均した額を30で除した額の3分の2に相当する額であり、支給期間は、令和4年1月1日以降、支給を開始した日から通算して1年6か月とされています(それ以前は支給開始日から起算して1年6か月)。通算化により、途中で就労した期間がある場合には、その分を繰り越して支給を受けることが可能となりました。
使用者にとって、傷病手当金の案内は二重の意味を持ちます。第一に、労働者の生活不安が軽減されることにより、早期の無理な復職とその直後の再休職という悪循環を回避しやすくなるという実務的効果があります。第二に、制度を誠実に案内した事実そのものが、後の紛争において使用者の対応の相当性を基礎づける事情となります。案内は口頭で済ませず、休職開始時の通知書に記載するか、別途の案内文書を交付し、交付の記録を残すことが望ましいといえます。
(2) 安全配慮義務と健康情報の取扱い
使用者は、労働契約法5条により、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務を負います。不調の兆候を認識しながら何らの対応も採らないことは、同条に基づく義務違反として損害賠償責任の根拠となり得ます。他方で、健康情報は機微な個人情報であり、労働安全衛生法104条および関係指針に基づき、収集目的の限定、取扱者の限定、保管方法の適正化が求められます。「聴き取らないリスク」と「過剰に取得・共有するリスク」の双方を管理することが、実務上の要点です。
なお、労務管理上必要な事実確認および健康への配慮を目的とする聴き取りは、労働施策総合推進法30条の2にいう「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動には該当せず、パワーハラスメントには当たりません。問題となるのは、聴き取りの要否ではなく、その態様です。公開の場での叱責、人格否定的な言辞、仮病であるとの断定的評価の表明は、いずれも相当性を欠くものと評価されます。個別の場において、体調および業務遂行への影響という2点に対象を限定し、記録を残しながら行うことが、適法かつ実効的な運用です。
8 小規模事業場におけるストレスチェックの義務化
ストレスチェックは、従来、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務が課され、50人未満の事業場については当分の間の努力義務とされてきました。もっとも、令和7年5月に公布された改正労働安全衛生法により、労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務づけられることとなり、施行期日は公布後3年以内に政令で定める日とされています。厚生労働省は、小規模事業場に即した実施体制・実施方法を示す「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しています。
これにより、規模を理由としてメンタルヘルス対応の体制整備を留保することは、遠からず選択肢でなくなります。休職規定の整備、産業保健体制の確保(産業医の選任義務がない規模であれば地域産業保健センター等の活用)、復職判断手続の文書化は、施行までの準備期間のうちに着手しておくべき事項です。
点検事項
- ① 就業規則に私傷病休職の規定を置き、休職事由、休職期間(勤続年数による差異を含む)、期間中の賃金・社会保険料負担の取扱いを明記しているか
- ② 会社が指定する医師の受診または産業医面談を命じ得る旨の根拠規定を置いているか。目的・範囲・費用負担・結果の取扱いを規定しているか
- ③ 復職の判断権者が会社であり、主治医の診断書に加えて産業医等の意見を踏まえて判断する旨を明記しているか
- ④ 復職申請時の提出書類(主治医の診断書、情報提供依頼書に対する回答書、本人の同意書)と面談手続を規定しているか
- ⑤ 試し出勤・リハビリ勤務を実施する場合、その法的性質、賃金の有無、期間、評価方法を定めているか
- ⑥ 休職期間の通算規定を置き、復職後の対象期間(例:6か月)を明示しているか
- ⑦ 通算規定において、傷病名が異なる場合であっても病状もしくは原因が共通するとき、または医学的関連性が認められるときを含む旨を明記しているか
- ⑧ 休職期間満了時に復職できない場合の効果(自然退職または解雇事由)を明記し、期間満了前の通知と復職申請の機会を確保する運用としているか
- ⑨ 職種限定の有無が労働契約書・募集条件から特定できる状態になっているか(片山組事件の枠組みの適用判断のため)
- ⑩ 休職開始時に傷病手当金その他の制度を書面で案内し、交付の記録を残す運用としているか
- ⑪ 不調の兆候を把握した場合の社内報告ルート(上長から人事へのエスカレーション基準)が定められているか
- ⑫ 健康情報の収集目的、取扱者の範囲、保管方法を定めた社内規程を整備しているか
- ⑬ 面談・指導の記録様式を定め、体調と業務遂行への影響に対象を限定した聴き取りが行われる運用になっているか
- ⑭ 労働者数50人未満の事業場について、ストレスチェック義務化の施行に向けた実施体制(外部機関の活用を含む)の検討に着手しているか
よくあるご質問
Q. 主治医の「就業不可」の診断書が提出された場合、会社はその内容に拘束されますか。
A. 拘束されません。主治医の診断書は、休職の要否や復職可否を判断するための資料の一つです。厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、主治医による診断は日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないとし、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について産業医等が精査したうえで採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要であるとしています。もっとも、診断書の内容を無視して就労を命じたり、不調がうかがわれる労働者に対して医学的確認を経ないまま懲戒処分や解雇を行ったりすることは、安全配慮義務違反や処分の無効を招きます。就業規則において、復職の判断権者が会社であること、産業医等の意見を踏まえて判断することを明記したうえで、手続に従って判断することが必要です。
Q. 会社が指定する医師の受診や産業医面談を命じることはできますか。拒否された場合はどうなりますか。
A. 就業規則に合理的な根拠規定があり、かつ命令の必要性・相当性が認められる場合には、業務命令として受診や面談を命じることができます(電電公社帯広局事件・最判昭和61年3月13日)。もっとも、労働安全衛生法66条5項ただし書は、法定の健康診断について、労働者が事業者の指定した医師による健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師による健康診断を受けその結果を証明する書面を提出したときはこの限りでない旨を定めており、医師選択の自由が一定の範囲で尊重されています。正当な理由なく合理的な受診命令や面談指示を拒否する場合には業務命令違反として注意・指導、さらに懲戒の対象となり得ますが、いきなり重い処分を科すのではなく、口頭注意、書面による指導という段階を踏み、その経過を記録化することが不可欠です。
Q. 復職と再休職を繰り返す社員について、休職期間をリセットさせない方法はありますか。
A. 就業規則に休職期間の通算規定を設けることが必要です。復職後一定期間(実務上は6か月程度が多い)以内に同一または類似の傷病により欠勤したときは、前後の休職期間を通算する旨を定めます。この規定がなければ、復職のたびに休職期間が更新され、事実上無期限に休職と復職を繰り返すことが可能になります。また、実務では、前回はうつ病、今回は適応障害というように傷病名が異なることを理由に通算を争われる例が多いため、「同一または類似の傷病」という表現にとどめず、傷病名が異なる場合であっても病状もしくは原因が共通するとき、または前回の休職事由と医学的に関連性があると認められるときを含む旨を明記しておくことが有効です。あわせて、休職期間満了時に復職できない場合は退職となる旨(自然退職または解雇事由)を明確に規定しておく必要があります。
Q. 休職期間が満了したものの、従前の業務を完全には遂行できない社員を退職扱いにできますか。
A. 直ちに退職扱いとすることはできません。職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した労働者については、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解されています(片山組事件・最判平成10年4月9日)。したがって、休職期間満了時には、従前業務への復帰可否のみならず、配置可能な他の業務の有無、段階的な就業を含む復帰プログラムの検討を行い、その検討過程を記録化しておく必要があります。他方、職種を特定して採用された労働者については、判断の枠組みが異なり得ます。
参考資料
- 厚生労働省「令和6年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(令和7年6月25日)
- 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(PDF)
- 厚生労働省労働基準局監督課「モデル就業規則」(令和7年12月版・PDF)
- 厚生労働省「『小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル』を公表します」
- 厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」
- 厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」
- 最高裁平成24年4月27日第二小法廷判決(平成23年(受)第903号・地位確認等請求事件/日本ヒューレット・パッカード事件)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)(13条・66条・66条の8・66条の10・104条)
- 労働契約法(e-Gov法令検索)(5条・9条・10条・15条・16条)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)(89条)
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(e-Gov法令検索)(30条の2)
- 健康保険法(e-Gov法令検索)(99条)
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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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