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業務委託人員の大量活用に伴う法的リスク ― 労働者性の判断(労働基準法9条・昭和60年報告・イヤシス事件)と同一契約による波及、未払賃金(3年)・社会保険料(2年)の遡及、外注費の給与認定(国税不服審判所平成12年2月29日裁決)、フリーランス法の勧告・公表、業種ではなく実態による切り分け

従業員の採用に伴う固定費や労務管理の負担を避けるため、業務委託契約によって人員を確保し、事業を拡大する企業は少なくありません。総務省の令和4年就業構造基本調査によれば、本業がフリーランスである者は209万人、有業者の3.1%に達しており、業務委託による人材活用は既に一般的なものとなっています。業務委託契約それ自体は適法な取引形態であり、これを利用すること自体に問題があるわけではありません。

もっとも、業務委託人員を「大量に」抱える事業モデルには、個別の契約では顕在化しにくい固有のリスクがあります。本稿では、①業務委託の大量活用が問題となる構造、②労働者性の判断枠組み、③労働者性が認められた場合の労働・社会保険上の波及、④外注費の給与認定という税務上のリスク、⑤本来の業務委託にも及ぶフリーランス・事業者間取引適正化等法(以下「フリーランス法」)の規律、⑥実務上の対応を整理し、企業が点検すべき事項とFAQを示します。

1 業務委託の大量活用が問題となる構造

(1)相談窓口の整備

厚生労働省は、フリーランス法が施行された令和6年11月1日に合わせ、全国の労働基準監督署に「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」を設置しました。業務委託で就業する者が、自らの働き方が労働者に該当する可能性について行政に相談できる体制が整えられており、労働者性の問題が表面化する契機は以前より増えていると考えるべきです。

(2)人数に比例して高まる顕在化の確率

仮に、業務委託人員の1人が1年間に契約内容や処遇に異議を述べる確率を5%とすると、30人を抱える企業で少なくとも1人が異議を述べる確率は約79%(1−0.9530)となります。契約の打切り、業務中の負傷、報酬をめぐる紛争など、問題が顕在化する契機は人数に応じて増加するため、大量活用のモデルでは「いずれ誰かが声を上げる」ことを前提にリスクを評価する必要があります。

(3)同一の契約書・運用による判断の波及

多数の業務委託人員を抱える企業では、通常、同一のひな形による契約書、共通のマニュアル、同様の業務運用が用いられています。そのため、1人について労働者性が肯定されれば、その判断の基礎となった事情は他の人員にもほぼそのまま当てはまり、問題は個別紛争にとどまらず全体に波及します。

(4)管理の必要性と指揮監督の強化

業務委託のコスト面での優位性は、委託者が業務の遂行方法や時間を指示しないことを前提に成り立つものです。ところが、人数が増えるとサービス品質の均一化が求められ、マニュアルの整備、シフトの作成、服装の指定、遅刻への注意といった管理が行われやすくなります。こうした管理は、後述する指揮監督や時間的・場所的拘束の要素として労働者性を基礎づける方向に働き、業務委託という契約形式の前提を実態の面から崩すことになります。

2 労働者性の判断枠組み

(1)労働基準法9条と昭和60年報告

労働基準法上の「労働者」は、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されており(労働基準法9条)、該当性は契約の名称ではなく就業の実態によって判断されます。行政の判断は、昭和60年の労働基準法研究会報告に示された基準によっており、①仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督の有無、③時間的・場所的拘束性の有無、④代替性の有無、⑤報酬の労務対償性を中心に、⑥事業者性の有無(機械・器具の負担、報酬の額等)、⑦専属性の程度を補強要素として総合的に判断されます。厚生労働省の「労働基準法における『労働者』に関する研究会」でも、この判断要素の分析が進められています。

(2)裁判例:イヤシス事件

大阪地裁令和元年10月24日判決(イヤシス事件)は、リラクゼーションサロンの施術業務に従事する者について、業務委託契約の形式であったにもかかわらず労働基準法上の労働者に当たると判断しました。判決は、契約書に「委託時間は1日8時間から10時間を目途とする」と記載され、スタッフハンドブックに「10分前出勤を徹底」等の記載があったこと、歩合制でありながら1日6,000円または5,000円の最低保証額が定められ、業務従事時間が8時間に満たない場合には減額されていたこと、施術の依頼を自由に断れなかったこと、業務報告を求められていたこと、店舗と備品を会社が提供していたこと、契約書に「遅刻」「始末書」等の労働契約を前提とした文言が記載されていたこと等を考慮しています。

(3)業種ではなく実態による判断

特定の業種であれば業務委託が当然に許容されるという基準はなく、同じ職種でも労働者性が肯定された例と否定された例があります。たとえば美容・理容の分野では、施術者が自ら器具や薬剤を負担し、独自の屋号で集客し、場所の提供のみを受ける「面貸し」型の形態は事業者性を肯定する方向の事情となり、店舗側がシフト・予約・指名・メニュー・価格を管理する形態は労働者性を肯定する方向の事情となります。同一業種内でも、具体的な運用によって結論が異なり得ることに留意が必要です。

3 労働者性が認められた場合の労働・社会保険上の波及

(1)割増賃金等の請求

労働者性が肯定されれば、労働時間規制や割増賃金(労働基準法37条)等の規定が適用され、未払いの割増賃金を請求される可能性があります。賃金請求権の消滅時効期間は、当分の間3年とされています(同法115条、附則143条3項)。また、契約の打切りが解雇と評価されれば、その有効性も問題となります。

(2)社会保険の遡及適用

適用事業所に使用される者として被保険者資格を有していたことになれば、資格取得の届出漏れとして遡及的な加入手続と保険料の納付が求められます。保険料の徴収権の消滅時効は2年であり(厚生年金保険法92条1項。健康保険法193条も同様)、最大2年分の保険料を事業主負担分と被保険者負担分の双方について精算する必要が生じ得ます。日本年金機構は、適用事業所に対する事業所調査による適用の適正化に取り組んでいます。

(3)影響額の試算

仮に、月額報酬30万円の業務委託人員30人について、社会保険料率を労使合計で報酬の約3割と置くと、1人あたり月9万円、2年分で216万円、30人で6,480万円となります。これに割増賃金や後述の税務上の負担が加わります。業務委託によって削減していたはずのコストが、人数と遡及期間を乗じた形で一度に顕在化する点に、大量活用モデルのリスクの本質があります。

4 外注費の給与認定という税務上のリスク

(1)外注費と給与の区分

業務委託の対価を「外注費」として処理していても、その実質が雇用契約またはこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価であれば、所得税法上の給与等に該当します。給与等を対価とする役務の提供は消費税の課税仕入れから除かれる(消費税法2条1項12号)ため、仕入税額控除が否認されるほか、源泉徴収義務(所得税法183条1項)の不履行が問題となります。

(2)国税不服審判所平成12年2月29日裁決

同裁決は、マッサージ施術所を運営する法人がマッサージ師に支払った外注費について、給与に該当すると判断し、仕入税額控除を否認した更正処分を適法としたものです。審判所に対する法人の答述では、施術所は5店舗、マッサージ師は22名であり、業務委託契約書には営業時間、早出・遅出の出勤時刻、制服の貸与等が定められていました。本件では、源泉所得税の納税告知処分と不納付加算税の賦課決定処分も争われています。労働者性の問題は、労働基準監督署や年金事務所だけでなく、税務調査を通じても顕在化し得ることを示す事例です。

5 本来の業務委託にも及ぶフリーランス法の規律

(1)主な義務と禁止行為

労働者性が否定される本来の業務委託であっても、フリーランス法の規律は及びます。業務委託事業者は、業務委託をした場合、直ちに給付の内容、報酬の額、支払期日等を書面または電磁的方法により明示しなければならず(同法3条)、従業員を使用する特定業務委託事業者は、報酬の支払期日を給付の受領日から60日以内のできる限り短い期間内で定めなければなりません(同法4条)。また、一定期間以上継続する業務委託については、受領拒否、報酬の減額、買いたたき等が禁止され、自己のために経済上の利益を提供させること等により特定受託事業者の利益を不当に害することも禁止されています(同法5条)。

(2)勧告・公表

違反が認められると、公正取引委員会は勧告を行うことができ(同法8条)、勧告に従わない場合には命令とその公表が予定されています(同法9条)。実務上、勧告事案は公正取引委員会の報道発表により事業者名とともに公表されています。令和8年5月19日には、音楽教室を運営する事業者が、特定受託事業者1,674名に無償で体験レッスンを行わせていたとして、同法5条2項1号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)違反を理由に勧告を受けました。委託先の人数が多いほど、違反の規模とそれに伴う支払・信用上の影響は大きくなります。

6 実務上の対応

(1)契約書・マニュアルの文言と運用の一致

業務委託契約書、マニュアル、ハンドブック、社内チャットでの連絡などに、「出勤」「遅刻」「始末書」「シフト」「上長の指示」といった雇用を前提とする文言や運用が残っていないかを確認してください。ただし、労働者性は実態で判断されるため、文言を修正しても運用が変わらなければ評価は変わりません。

(2)雇用と業務委託の切り分け

品質の均一化のために遂行方法や時間を指示する必要がある業務は雇用とし、成果物と納期を定めて遂行方法を委ねられる業務は業務委託とするという切り分けを、事業設計の段階で行うことが重要です。人数が少ない段階で線を引いておけば、是正の負担は大きくなりません。

(3)フリーランス法への対応

発注書・取引条件明示書のひな形を整備し、支払期日の設定、禁止行為の社内周知、ハラスメント相談体制の整備等を行ってください。

(4)定期的な点検と是正の進め方

業務委託人員の全員について、少なくとも年1回、契約内容と就業実態を点検することが望まれます。既に労働者性が疑われる運用がある場合には、雇用への切替え、業務の範囲や指示の在り方の見直し、過去分の精算の要否などを、個別の事情に応じて検討する必要があります。是正の進め方を誤ると紛争を誘発するおそれもあるため、着手前に専門家に相談することをお勧めします。

企業が点検すべき事項

  1. 業務委託人員の人数と、そのうちシフトや業務の指示を受けている人数を把握しているか。
  2. 業務委託人員が仕事の依頼を断ることが、実際に可能な運用になっているか。
  3. 業務の遂行方法や作業時間・場所を、会社が具体的に指示していないか。
  4. 報酬が成果ではなく時間を基準に算定されていないか、最低保証と時間不足による減額が組み合わされていないか。
  5. 店舗・器具・材料等をすべて会社が提供し、業務委託人員が事業者としての負担やリスクを負っていない状態になっていないか。
  6. 契約書・マニュアル・ハンドブックに、「出勤」「遅刻」「始末書」等の雇用を前提とする文言が残っていないか。
  7. 業務委託人員への支払を外注費として処理する前提となる実態(独立性)を、税務上も説明できるか。
  8. フリーランス法3条の取引条件の明示を、発注ごとに書面または電磁的方法で行っているか。
  9. 報酬の支払期日を、給付の受領日から60日以内で定めているか。
  10. 無償の作業依頼、報酬の減額、受領後のやり直し等、フリーランス法5条の禁止行為に当たる運用がないか。

よくあるご質問

Q. 業務委託人員が何人を超えると違法になるのでしょうか。

A. 人数による基準はありません。労働者性は1人ひとりの就業の実態で判断されます。ただし、人数が多いほど品質管理のための指示や時間管理が行われやすく、同一の契約書・運用で問題が全員に波及し、未払賃金や社会保険料の遡及額も人数に比例して大きくなるため、大量活用のモデルほど慎重な設計と定期的な点検が必要です。

Q. 美容室やリラクゼーションサロンのように、業務委託が一般的な業種であれば問題ありませんか。

A. 業種によって労働者性が否定されるわけではありません。同じ職種でも、施術者が器具や材料を負担し独自に集客する形態では事業者性が肯定されやすく、店舗側がシフト・予約・価格を管理する形態では労働者性が肯定されやすいなど、具体的な運用によって結論が分かれます。大阪地裁令和元年10月24日判決(イヤシス事件)は、リラクゼーションサロンの施術者について労働者性を肯定しています。

Q. 業務委託の報酬が給与と認定された場合、税務上どのような影響がありますか。

A. 給与等の支払は消費税の課税仕入れに当たらないため、外注費として行っていた仕入税額控除が否認されます。また、給与であれば源泉徴収すべきであったとして、源泉所得税の納税告知や不納付加算税が課される可能性があります。国税不服審判所平成12年2月29日裁決では、マッサージ師に対する外注費が給与と判断され、仕入税額控除を否認した処分が適法とされています。

Q. 契約書の文言を修正すれば、労働者性の問題は解消されますか。

A. 文言の修正だけでは解消されません。労働者性は契約の名称や文言ではなく実態で判断されるため、指示の在り方、時間・場所の拘束、報酬の決め方、器具や費用の負担といった運用そのものを見直す必要があります。運用を改めることが難しい業務については、雇用契約への切替えを検討すべきです。

まとめ

業務委託契約は適法な取引形態ですが、多数の人員を同一の契約書と運用で抱える事業モデルでは、1人について労働者性が認められた場合の影響が全体に波及し、未払賃金・社会保険料の遡及、外注費の給与認定、フリーランス法上の勧告・公表といった複数の不利益が連鎖的に生じるおそれがあります。労働者性は業種ではなく実態で判断されることを前提に、指示を要する業務は雇用、委ねられる業務は業務委託という切り分けを人数が少ない段階で行い、契約書と運用の一致、フリーランス法への対応、定期的な点検を継続することが重要です。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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