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「節税」と「脱税」の境界線 ― 重加算税・査察・脱税罪のリスクからみた税務スキームの点検ポイント

SNSやウェブ記事を通じて、「役員社宅でほぼ無償居住」「法人を複数設立して利益を分散」「役員報酬を賞与に寄せて社会保険料を圧縮」「従業員の外注化による社会保険料削減」といった“節税スキーム”が経営者の間に広く流通しています。しかし、これらの多くは、制度そのものは適法であっても、実態を伴わない利用によって否認・追徴のリスクを抱えるものであり、事実の仮装・隠蔽にまで踏み込めば重加算税、さらには刑事罰の対象となり得ます。本コラムでは、税額計算・申告実務という税理士の領域には立ち入らず、弁護士の視点から、「節税」と「脱税」を分ける法的な境界線と、境界を越えた場合に生じる制裁、経営者が行うべき点検ポイントを整理します。

境界線の基準 ― 仮装・隠蔽と「偽りその他不正の行為」

税負担の軽減行為は、法的には段階的に評価されます。税法が予定する制度を実態どおりに利用する節税は適法です。他方、課税標準等の計算の基礎となる事実の全部または一部を仮装し、または隠蔽した場合には、本税に加えて重加算税(過少申告の場合35%、無申告の場合40%。国税通則法68条)が課されます。過去5年内に同様の無申告・仮装隠蔽を繰り返した場合には、さらに10%が加重されます。また、「偽りその他不正の行為」がある場合、更正・決定の期間制限は通常の5年から7年に延長され(国税通則法70条)、延滞税と併せ、長期にわたる遡及課税を受けることになります。

経費の公私混同(家族旅行・私物の経費計上)、実態のないコンサルタント料・人件費等の架空経費、売上の除外・翌期への繰延べ、二重帳簿・隠匿口座・無申告は、この意味で「一発アウト」の類型です。「申告しなければ発覚しない」という認識は誤りであり、税務当局は代表者個人の口座や金融機関窓口での手続履歴まで調査する権限を有します。国税不服審判所の裁決例でも、売上を除外して代表者名義の口座に留保した事案について、7年の遡及と重加算税が繰り返し認められています。

そして、悪質・多額の事案は、国税局査察部によるいわゆる査察調査(犯則調査)を経て検察官に告発され、「偽りその他不正の行為」により税を免れた逋脱犯として、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金に処され、または併科されます(法人税法159条、所得税法238条、消費税法64条)。免れた税額が1,000万円を超える場合には、情状により罰金額をその額まで引き上げることが可能とされています。国税庁の公表によれば、令和6年度の査察は151件に着手、98件が告発され、把握された脱税総額は約112億7,000万円にのぼります。追徴により金融機関の融資が停止して資金繰りが破綻し、従業員の離職を招くなど、事実上の制裁も甚大です。

役員社宅スキーム ― 制度の適法性と運用の適法性は別問題

役員社宅は、①会社が賃借人となって賃貸人に賃料を支払い、②役員から国税庁の定める「賃貸料相当額」を収受する、という二つの要件を満たす限り、会社負担分が給与として課税されない適法な制度です(国税庁タックスアンサーNo.2600)。問題は運用です。役員個人が契約した住宅の家賃を会社が事後に補填する形式は、補填分の全額が給与とみなされ、現金で支給する住宅手当も同様に全額給与課税となります。「ほぼ無償で居住できる」という言説を鵜呑みにし、賃貸料相当額の計算・収受を経ないまま無償・著しい低額で貸与すれば、差額は役員に対する経済的利益(現物給与)として課税され、源泉徴収漏れの指摘を受けます。小規模な住宅であれば賃貸料相当額は固定資産税の課税標準額を基礎とする算式により低額に算定できますが、床面積240㎡を超える等のいわゆる豪華社宅については、賃貸料相当額ではなく通常支払うべき使用料(時価)により評価されるため、そもそも想定されたような節税効果はありません。

法人の複数設立 ― 実態を伴わない利益分散は否認・重加算税の対象

「黒字法人から赤字法人へ外注費を支払って利益を圧縮する」等、複数法人を利用した利益分散のスキームも流通しています。しかし、税法には実質課税の原則があり、事業実態のない法人間取引は架空経費として全額否認されます。相場から乖離した取引価格も否認の端緒となります。また、同族会社については、税負担を不当に減少させる結果となる行為・計算を税務署長が否認できる同族会社等の行為計算否認規定(法人税法132条)が設けられています。加えて、法人を増やせば、赤字であっても法人住民税の均等割(最小規模でも年約7万円)が法人数分発生し、税理士報酬等の管理コストも増加するほか、将来の株式評価の上昇を通じて相続税負担が増大するリスクもあります。分社化が許容されるのは、事業部門の独立、責任・許認可の分離等、税負担軽減以外の経営上の合理性を説明できる場合です。

事前確定届出給与による社会保険料削減 ― 1日・1円の齟齬で全額損金不算入

役員報酬の月額を極端に低く(例えば月額5.8万円程度に)設定し、事前確定届出給与として届け出た高額の賞与(例えば573万円)を年1〜2回支給することで、社会保険料の上限の仕組みを利用して保険料負担を圧縮するスキームも流通しています。しかし、事前確定届出給与が損金算入されるのは、届け出た支給日・支給金額のとおり、1日・1円の齟齬もなく支給された場合に限られ、届出と異なる支給をすれば、差額ではなく当該賞与の全額が損金不算入となります(法人税法34条、国税庁タックスアンサーNo.5211)。業績悪化を理由とする減額・不支給も原則としてやり直しが利かず、月額報酬を最低水準まで引き下げているため、賞与を支給できなければ役員の生活資金すら確保できない事態に陥ります。否認された場合には、法人税の追徴に加え、役員個人に対する給与課税が生じるという二重の負担が発生します。税務署のみならず年金事務所からも注視される類型であり、推奨できません。

従業員の外注化 ― 税務と労務の双方から生じる責任

就労実態を変えないまま、従業員との契約形式のみを業務委託に切り替えて社会保険料や消費税の負担を削減するスキーム(偽装外注)は、近時とりわけリスクの高い類型です。労働者性・給与該当性は契約の名称ではなく、諾否の自由、時間的・場所的拘束、指揮命令の有無、代替性、報酬の性質等の実態により総合的に判断されます。この区分基準を示したのが最高裁昭和56年4月24日判決(弁護士顧問料事件)であり、厚生労働省の労働者性の判断基準と併せて用いられます。裁判例でも、社会保険料の控除を嫌った従業員2名を「外注先」に切り替えて外注費として処理した塗装工事会社について、東京地裁令和3年2月26日判決が、実態は従業員と同様であり時間的・場所的拘束を受けて指揮命令に服していたとして支払を給与と認定し、消費税の仕入税額控除を全額否認しています。給与と認定された場合、仕入税額控除の否認、源泉所得税の追徴(不納付加算税・延滞税を含む)という税務上の負担に加え、社会保険の遡及加入、未払残業代請求、労働基準監督署・年金事務所の調査対応という労務上の負担が同時に発生します。フリーランス取引適正化の法整備が進んだ現在、行政の監視はむしろ強化されている領域であり、「保険料が浮く」という短期的な計算に見合うリスクではありません。

税務調査で問われるのは、突き詰めれば「なぜこの形式を選んだのか」を実態に即して説明できるかどうかです。①スキームの目的が税負担軽減以外に説明できるか、②契約書・議事録・算定資料等の裏付けが整備されているか、③実態(資金の流れ・業務の実施状況・就労実態)が書面と一致しているか。この三点のいずれかが欠ける場合、そのスキームは再点検を要します。

よくあるご質問

Q. 税務調査で「重加算税の対象」と指摘された場合、どう対応すべきですか。

A. 重加算税の賦課には「仮装・隠蔽」の事実認定が必要であり、単なる計上誤り・見解の相違との区別が争点となります。指摘に安易に応じる前に、事実関係と証拠資料を整理し、仮装・隠蔽の認定根拠を確認することが重要です。認定の当否は、修正申告・更正への対応方針や、その後の不服申立て(再調査の請求・審査請求・税務訴訟)の可否にも直結するため、税理士と連携しつつ、争訟の見通しについては弁護士にもご相談ください。

Q. 顧問税理士が提案したスキームであれば、否認されても責任は問われませんか。

A. 納税義務者はあくまで会社・経営者自身であり、専門家の提案であったことは追徴課税を免れる理由にはなりません。仮装・隠蔽への関与が認定されれば重加算税や刑事責任のリスクも経営者に及びます。提案の前提となる「実態」を作り、維持する責任は経営側にあることを前提に、疑問のあるスキームはセカンドオピニオンを取得すべきです。

Q. 過去の処理に不安がある場合、先に取るべき対応はありますか。

A. 税務調査の通知前に自主的に修正申告を行えば、過少申告加算税が課されない、または軽減される余地があります(国税通則法65条)。問題の性質(単純誤り・グレーゾーン・仮装隠蔽該当のおそれ)により取るべき対応が異なるため、放置せず、早期に税理士・弁護士に相談のうえ方針を決めることをお勧めします。

まとめ

「制度が適法であること」と「自社の使い方が適法であること」は別問題です。否認リスクを伴わない税負担の適正化は、採用・広告宣伝・設備投資等の将来の成長につながる投資の前倒しと、勤務実態・取引実態・算定根拠を裏付ける証拠の整備という王道に尽きます。ネット上の節税情報は成功例のみが流通しますが、その裏では、実態を伴わないスキームが税務調査で否認され、重加算税と延滞税により資金繰りを毀損した企業が確実に存在します。当事務所では、税理士と連携しながら、節税スキームの適法性の検証、契約書・社内資料の整備による実態の裏付け、業務委託化に伴う労働者性の点検、税務調査・査察対応や課税処分に対する不服申立てまで、税務に関する法的リスク対応を支援しています。自社のスキームが境界線のどちら側にあるか不安のある場合は、お早めにご相談ください。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。税率・数値等は2026年8月時点の情報に基づきます。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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