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個人事業者・フリーランスに対する安全衛生保護の拡大と発注企業の実務対応 ― 建設アスベスト最高裁判決(令和3年5月17日)、省令改正と令和7年改正労働安全衛生法(2026年4月から順次施行)、フリーランス法の発注者義務、偽装請負と労働者性、雇用によらない働き手への安全配慮義務

労働契約法5条の安全配慮義務も労働安全衛生法上の諸義務も、伝統的には「労働者」を保護の対象としてきました。しかし、建設アスベスト訴訟最高裁判決(令和3年5月17日)が労働安全衛生法22条は労働者以外の者も保護する趣旨であることを明らかにして以降、危険有害作業の請負人・一人親方等への保護措置の義務化(2023年4月施行)、保護場面の拡大(2025年4月施行)、そして個人事業者等を法律上の保護対象・義務主体として正面から位置づける令和7年法律第33号による労働安全衛生法改正(関係規定は2026年4月から順次施行)へと、雇用によらない働き手の安全衛生をめぐる法制度は急速に整備されています。並行して、取引面ではフリーランス法(令和6年11月1日施行)が発注事業者に取引条件の明示や就業環境の整備を義務付けました。本コラムでは、これらの制度の全体像と、偽装請負における労働者性の判断、雇用によらない働き手への安全配慮義務の判例法理を整理したうえで、フリーランス・個人事業者を活用する企業が点検すべき事項を解説します。

1 保護拡大の起点――建設アスベスト最高裁判決と判例法理

(1)労働安全衛生法22条の保護対象

最高裁は、建設アスベスト訴訟において、労働安全衛生法22条(健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置)は、労働者に該当しない者であっても、同じ場所で作業に従事する一人親方等を保護する趣旨の規定であるとの解釈を前提に、国の規制権限不行使の違法を認めました(令和3年5月17日)。「事業者に使用される労働者」か否かという形式的な線引きによって、同一の危険にさらされる者の保護に差を設けることの不合理が、最高裁レベルで明確にされたものです。

(2)雇用によらない働き手への安全配慮義務

民事上の安全配慮義務についても、雇用契約の存在は必須ではありません。最高裁は、下請企業の労働者が元請の管理する設備・工具を用い、事実上元請の指揮監督を受けて、元請従業員とほとんど同じ内容の作業に従事していた事案において、元請企業は当該労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったものとして、信義則上の安全配慮義務を負うと判断しています(三菱重工業神戸造船所事件・最判平成3年4月11日)。この法理は、自社の事業場に常駐させ、自社の設備を使用させ、実質的に作業を管理しているフリーランス・業務委託先との関係にも妥当し得るものであり、「委託だから民事責任も負わない」という整理は実態次第で覆ります。

2 法令整備の現在地――省令改正から令和7年改正労働安全衛生法へ

(1)2023年4月施行の省令改正

上記最高裁判決を受けた労働安全衛生規則等の改正(2023年4月1日施行)により、危険有害な作業を行う事業者には、①作業の一部を請け負わせる請負人(一人親方等)に対し、局所排気装置等の設備の稼働への配慮、作業方法の周知、保護具使用の必要性の周知等を行うこと、②同じ場所で作業する労働者以外の者にも一定の保護を及ぼすことが義務付けられました。2025年4月からは、退避、立入禁止、事故現場等の表示といった場面の保護措置についても、作業に従事する労働者以外の者・一人親方等が対象に加えられています。

(2)令和7年法律第33号による労働安全衛生法改正

令和7年5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)は、労働者と同じ場所で働く個人事業者等を、法律レベルで労働安全衛生法による保護の対象および義務の主体として位置づけました。注文者等が講ずべき措置、個人事業者等自身が講ずべき措置等が規定され、個人事業者等に関する政省令を含む関係規定は2026年(令和8年)4月から順次施行されています。省令による部分的な手当てから、法律本体による正面からの規律への移行であり、個人事業者を活用する企業にとっては、安全衛生管理の対象範囲を「雇用する労働者」から「自社の管理する場所・作業で働く者」へ広げて設計し直すことが求められる段階に入っています。

3 取引面の規律――フリーランス法の発注者義務

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)は令和6年11月1日に施行され、フリーランス(特定受託事業者)に業務委託する発注事業者に対し、次の義務を課しています。

  • 書面等による取引条件(業務内容・報酬額・支払期日等)の明示
  • 給付を受領した日から原則60日以内の報酬支払
  • 一定期間以上の業務委託における受領拒否・報酬の減額・返品・買いたたき等の禁止
  • 募集情報の的確な表示
  • ハラスメント対策のための相談体制の整備、一定期間以上の委託における育児介護等との両立への配慮
  • 一定期間以上の業務委託の中途解除等における原則30日前の予告

違反に対しては、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省による報告徴収・立入検査、指導・助言、勧告、命令、公表の枠組みが設けられています。発注書面のひな形、支払サイト、相談窓口の整備状況を含め、発注フロー全体の点検が必要です。

4 偽装請負――労働者性が認められた場合の全面適用

以上の規律は、契約形式が業務委託であることを前提としたものですが、実態が雇用であれば、そもそも入口が変わります。労働基準法9条の「労働者」該当性は契約の名称ではなく、指揮監督下の労働か、報酬が労務対償性を有するか等の実態によって判断されます。時間・場所を拘束し、業務の遂行方法を具体的に指示し、諾否の自由を認めない態様で「業務委託」の相手方を就労させていれば、労働者と判断され、労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法・労災保険関係が全面的に適用されるリスクがあります。この場合、未払割増賃金の遡及請求、社会保険の遡及適用、労働災害発生時の事業主責任等が一体として顕在化するため、フリーランス法対応の前提として、委託先の就労実態の点検が不可欠です。

企業が点検すべき事項

  • ① 業務委託先ごとに、諾否の自由・指揮命令・時間場所の拘束・報酬の算定方法等の就労実態を確認し、労働者性のリスクを評価しているか
  • ② フリーランスへの発注について、取引条件の書面等による明示、60日以内の支払、中途解除時の予告等のフローが整備されているか
  • ③ ハラスメント相談体制がフリーランス・業務委託先を対象に含めて運用されているか
  • ④ 危険有害作業・現場作業を請け負わせる一人親方等への保護措置(作業方法・保護具の必要性の周知、退避・立入禁止の運用等)が実施されているか
  • ⑤ 自社事業場に常駐・混在して働く個人事業者等について、令和7年改正労働安全衛生法の施行スケジュールを踏まえた安全衛生管理体制の見直しに着手しているか
  • ⑥ 業務委託契約書に、安全衛生に関する協力事項、事故発生時の対応・報告、保険加入(労災保険特別加入等)の取扱いが規定されているか

フリーランス・個人事業者の活用は、人材確保の柔軟性という観点から今後も拡大が見込まれる一方、その安全と取引条件をめぐる規律は、判例・法改正の双方から急速に厚みを増しています。「雇用でないこと」を責任回避の理由とする発想は、法制度の現在地とすでに乖離しています。委託スキームの設計段階から、労働者性の評価、フリーランス法対応、安全衛生管理の範囲設定を一体で行うことが、最も確実な予防法務です。

よくあるご質問

Q. 業務委託先のフリーランスに対して、会社は安全配慮義務を負いますか。

A. 雇用契約の不存在をもって直ちに否定されるものではありません。最高裁は、下請企業の労働者が元請の管理する設備・工具を用い、事実上その指揮監督を受けて稼働していた事案において、元請企業が信義則上の安全配慮義務を負うと判断しています(三菱重工業神戸造船所事件・最判平成3年4月11日)。自社の設備を使用させ、実質的に作業を管理している常駐型・現場型の委託先に対しては、契約形式にかかわらず安全配慮義務を負う可能性を前提に体制を整えるべきです。

Q. 個人事業者等への安全衛生上の保護措置は、法令上いつから義務付けられていますか。

A. 建設アスベスト訴訟最高裁判決(令和3年5月17日)を受けた労働安全衛生規則等の改正(2023年4月1日施行)により、危険有害な作業を行う事業者には、作業を請け負わせる一人親方等および同じ場所で作業する労働者以外の者への保護措置(作業方法・保護具の必要性の周知等)が義務付けられました。2025年4月からは退避・立入禁止等の場面にも対象が拡大され、令和7年法律第33号による労働安全衛生法改正が個人事業者等を法律上の保護対象・義務主体として位置づけ、関係規定が2026年4月から順次施行されています。

Q. フリーランス法により発注企業にはどのような義務がありますか。

A. 書面等による取引条件の明示、給付受領日から原則60日以内の報酬支払、ハラスメント対策のための相談体制の整備等が義務付けられ、一定期間以上の業務委託については受領拒否・報酬減額・返品・買いたたき等の禁止、育児介護等との両立への配慮、中途解除時の30日前予告等も求められます。違反に対しては公正取引委員会等による指導・助言、勧告、命令、公表の措置があります。

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(22条ほか)e-Gov法令検索「労働契約法」(5条)e-Gov法令検索「労働基準法」(9条)厚生労働省「一人親方等の安全衛生対策について」厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」政府広報オンライン「フリーランス・事業者間取引適正化等法」

本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・制度は厚生労働省・公正取引委員会・e-Gov法令検索の公表資料(2026年9月時点)に基づきます。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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