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若手社員の意欲低下と企業側の構造的要因 ― 成長志向の低下と事業所規模別の早期離職、時間外労働の上限規制(労働基準法36条)と中間管理職の負担増による育成機会の減少、業務の棚卸しと失敗を許容する育成設計、賃金制度の見直しにおける不利益変更の規律(労働契約法9条・10条、労働基準法89条)と注意指導・パワーハラスメントの境界(労働施策総合推進法31条)

「新卒の社員にやる気が感じられない」「電話に出ない、メモを取らない」という相談は、規模や業種を問わず多くの経営者・管理職から寄せられます。しかし、若手社員の意欲の低下を個人の資質の問題として扱い、叱責や処遇の引下げで対処しようとすれば、ハラスメントや労働条件の不利益変更をめぐる紛争を招くおそれがあります。

パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」によれば、「働くことを通じた成長は重要」と回答した20代の割合は、2023年の76.4%から2026年には67.6%へ、30代は76.1%から64.5%へと低下しました。他方で、厚生労働省の令和7年版労働経済白書は、若年層ほど仕事内容よりも賃金水準を重視し、自己成長への関心も高いと分析しています。また、令和4年3月卒の大卒就職者の3年以内離職率は33.8%ですが、事業所規模5人未満では57.5%、5〜29人では52.0%に達します。本稿では、若手社員の意欲低下を企業側の構造の問題として整理したうえで、業務の見直し、育成の設計、賃金制度の変更と指導の方法について、労働法上の留意点を示します。

1 若手社員の意欲低下をめぐるデータ

(1)成長志向と自己研鑽の低下

前記定点調査では、20代で「働くことを通じた成長は重要」とする回答は2019年の82.2%から2026年の67.6%まで低下しており、2023年以降の3年間で約1割の減少となっています。同研究所は、勤務先以外での学習・自己啓発について「とくに何も行っていない」と回答する若手社員が2022年から2025年にかけて約10ポイント増加したことも報告しています。

(2)「成長への関心」と「会社への期待」の乖離

一方で、令和7年版労働経済白書(第Ⅱ部第3章)は、若年層では継続的な雇用を望む意識が相対的に低く、仕事内容よりも賃金水準を重視する傾向があること、自己成長への関心も高いことを指摘しています。これらを併せて読めば、若手社員は成長そのものに無関心なのではなく、現在の勤務先で働くことが自身の成長や処遇の向上につながるという期待を持てていない、と理解するのが適切です。

(3)事業所規模による定着率の差

厚生労働省が2025年10月に公表した新規学卒就職者の離職状況によれば、令和4年3月卒の大卒就職者の3年以内離職率は33.8%であり、事業所規模別では1,000人以上の27.0%に対し、5人未満で57.5%、5〜29人で52.0%となっています。中小企業では、意欲の低下が早期離職として顕在化しやすく、採用・育成に投じた費用が回収されないまま人材が流出する構造にあります。

2 意欲低下を招く企業側の構造

(1)時間外労働の上限規制と「量による成長」の後退

労働基準法36条は、時間外労働の限度時間を原則として1か月45時間・1年360時間とし(同条3項・4項)、臨時的な特別の事情がある場合でも、時間外・休日労働を1か月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、時間外労働を年720時間以内とする上限を定めています(同条5項・6項)。中小企業には2020年4月から適用されています。この規制は労働者の健康確保のために不可欠ですが、売上目標や業務量を据え置いたまま労働時間のみを削減すると、従来の「業務量をこなして習熟する」育成経路が失われ、代替の育成手段がないまま若手社員が放置されることになります。リクルートワークス研究所の調査では、大手企業の新入社員の週労働時間は1999〜2004年卒の49.6時間から2019〜2021年卒の44.4時間に減少する一方、「不安だ」とする回答は75.8%に上り、48.9%が「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないか」と感じていると報告されています。

(2)中間管理職の業務負担と育成機会の減少

パーソル総合研究所の2019年の調査では、働き方改革が進んでいる企業群の中間管理職の62.1%が自らの業務量の増加を、56.9%が時間不足により付加価値を生む業務に着手できないことを挙げています。リクルートワークス研究所も、大手企業の若手社員のうち一定の教育プログラムに基づく指導(計画的なOJT)を受けた者の割合が、2015年の40.9%から2021年の30.3%に減少したと報告しています。指導の時間を確保できない管理職が叱責に頼るようになれば、育成の不全に加え、ハラスメントのリスクも高まります。

(3)処遇への反映の弱さ

前記白書は、新卒時から同一企業に勤続する労働者の賃金プロファイルが長期的にフラット化していることを指摘しています。成果や努力が賃金にほとんど反映されず、時間外労働の上限により割増賃金で差が生じる余地も小さくなれば、若手社員が必要最小限の働き方を選ぶことは、ある意味で合理的な行動となります。

3 企業が講ずべき対策と法的留意点

(1)業務の棚卸し

労働時間に上限がある以上、増やせないのは時間であり、減らせるのは業務です。読まれていない日報、重複する報告や転記、慣行として続いているだけの資料作成などを洗い出し、経営者の権限で廃止・簡素化することにより、指導と習熟のための時間を確保します。こうした見直しは中間管理職の裁量では進みにくいため、経営者が主導することが重要です。業務の見直しは、労働時間の適正な把握(労働安全衛生法66条の8の3)や割増賃金の適正な支払の前提となる業務実態の把握にも資します。

(2)失敗を許容する育成の設計

若手社員の不安は、自ら判断して業務を完遂した経験によって解消されます。金額や案件の種類、関与の回数等により「単独で判断してよい範囲」と「上司に相談すべき場面」をあらかじめ明確にし、その範囲内での失敗は組織として受け止める設計とすることで、成功体験の機会を確保します。任せる範囲を文書化しておくことは、後日の評価や指導の根拠を明確にするうえでも有益です。

(3)賃金制度の見直しと不利益変更の規律

意欲の向上を目的に賃金制度を見直す場合、まず注意すべきは労働条件の不利益変更の規律です。使用者は、労働者と合意することなく、就業規則の変更により労働者の不利益に労働条件を変更することはできず(労働契約法9条)、例外的に、変更後の就業規則を周知させ、かつ、変更が労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的なものである場合に限り、変更後の就業規則による労働条件の変更が認められます(同法10条)。基本給を引き下げて成果給へ移行する、あるいは評価結果によって基本給が減額され得る制度へ改めるといった変更は、個々の労働者にとって不利益となる可能性があり、合理性の判断に耐えられるかを慎重に検討する必要があります。

また、一律に基本給を大幅に引き上げると、業績悪化時にこれを引き下げることは上記の規律により容易ではありません。成果の反映は、基本給を維持したうえでの賞与の配分や成果手当の新設など、上乗せの形で設計するのが比較的安全です。賃金の決定・計算方法や昇給に関する事項、賞与等の臨時の賃金を定める場合の事項は就業規則の記載事項であり、常時10人以上の労働者を使用する事業場では変更の都度、労働基準監督署長への届出が必要です(労働基準法89条2号・4号)。評価基準、支給要件、算定方法を明確に定めておかなければ、支給の可否や金額をめぐる紛争の原因となります。あわせて、若手社員が自らの行動で達成できる指標(提案件数、訪問件数等)を評価項目に組み込むことが、制度の実効性を高めます。

(4)注意指導とパワーハラスメントの境界

労働施策総合推進法31条(改正前の30条の2)は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。業務上の必要に基づき具体的な行動を指示し改善を求めることはパワーハラスメントに当たりませんが、厚生労働省のいわゆるパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)が類型として示す「精神的な攻撃」のように、人格を否定する言動や、必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前での威圧的な叱責の繰り返しは、相当な範囲を超えると評価されるおそれがあります。注意指導は、①求める行動とその業務上の理由をあわせて伝える、②短時間・個別に行う、③日時と内容を記録する、という方法で行うことが、ハラスメントの予防と、改善がみられない場合の配置転換や処分の検討の基礎の双方に資します。

4 弁護士への相談が有効な場面

賃金・評価制度の変更は、その内容によっては労働契約法10条の合理性が争われ、変更前の基準による差額賃金の請求を受けるおそれがあります。制度設計の段階で、不利益の有無と程度、経過措置や代償措置の要否、従業員への説明の方法を検討しておくことが、紛争の予防につながります。また、管理職による指導がハラスメントとして申し立てられた場合には、事実関係の調査、行為者・相談者への対応、再発防止策の策定を、措置義務の内容に沿って迅速に行う必要があります。

当事務所は、評価・賃金制度の見直しに伴う就業規則の改定と不利益変更の検討、管理職向けのハラスメント研修、指導記録の整備、ハラスメントの申立てを受けた場合の初動対応を、顧問契約に基づき継続的に支援しています。

企業が点検すべき事項

  • ① 若手社員の「意欲の低さ」とされる言動が、業務の手順や社内のルールを教えていないことに起因していないか
  • ② 新卒社員の3年以内離職の状況を把握し、退職理由を記録・分析しているか
  • ③ 時間外労働の削減に合わせて、業務量や目標の見直しを行っているか(労働基準法36条)
  • ④ 読まれていない日報、重複する報告・転記など、廃止・簡素化できる業務を経営者主導で洗い出しているか
  • ⑤ 中間管理職に、部下の指導に充てる時間が実際に確保されているか
  • ⑥ 若手社員が単独で判断してよい範囲と、相談すべき場面が明確になっているか
  • ⑦ 成果を処遇に反映する仕組みがあり、その評価基準・支給要件が就業規則等に明記されているか(労働基準法89条)
  • ⑧ 賃金・評価制度の変更に当たり、不利益変更に該当するか、該当する場合に合理性を基礎付ける事情(必要性・相当性・経過措置・説明)を検討しているか(労働契約法9条・10条)
  • ⑨ 管理職が、注意指導とパワーハラスメントの境界を理解し、人格や世代を攻撃する言動を避けているか(労働施策総合推進法31条)
  • ⑩ 注意指導の日時と内容を記録し、改善がみられない場合の対応の基礎としているか

よくあるご質問

Q. 若手社員のやる気がないのは、本人の資質の問題ではないのですか。

A. 個人差はありますが、世代全体の傾向として成長志向の低下がみられる一方、若年層は賃金水準を重視し自己成長への関心も高いとの分析があります。時間外労働の削減による育成経路の喪失、管理職の負担増による指導機会の減少、成果が賃金に反映されにくい処遇といった企業側の構造が、意欲の低下や早期離職の要因となっている可能性を検討することが重要です。

Q. 意欲を高めるために、基本給を下げて成果給を導入することはできますか。

A. 労働者の合意なく就業規則の変更によって基本給を引き下げることは、不利益変更として原則として許されず、変更の必要性、不利益の程度、内容の相当性、交渉の状況等に照らして合理的といえる場合に限り認められます(労働契約法9条・10条)。基本給を維持したうえで賞与の配分や成果手当を上乗せする設計とするほうが、紛争のリスクを抑えられます。いずれの場合も、就業規則の改定と、常時10人以上の事業場では届出が必要です(労働基準法89条)。

Q. 電話に出ない、メモを取らないといった新人を注意すると、パワハラになりますか。

A. 業務上の必要に基づき、求める行動を具体的に指示して改善を求めることは、正当な指導であってパワーハラスメントには当たりません。ただし、人格や世代を否定する発言、長時間の叱責、他の従業員の面前での威圧的な叱責の繰り返しなどは、業務上必要かつ相当な範囲を超えると評価されるおそれがあります(労働施策総合推進法31条)。行動と理由をあわせて伝え、短時間・個別に行い、記録を残すことが有効です。

Q. 中小企業でも、若手の定着のためにできることはありますか。

A. あります。不要な業務を経営者の権限で廃止して指導の時間を確保すること、若手に任せる範囲を明確にして成功体験の機会をつくること、成果を賞与や手当に反映させる仕組みを就業規則に明記することは、規模を問わず実施できます。制度変更に当たっては、不利益変更やハラスメントに関する法的な線引きを踏まえて設計することが重要です。

まとめ

若手社員の意欲低下は、個人の資質だけでなく、時間外労働の上限規制のもとでの育成経路の喪失、中間管理職の疲弊、処遇への反映の弱さという企業側の構造に起因している面があります。業務の棚卸しによる指導時間の確保、失敗を許容する育成の設計、成果を処遇に反映する仕組みの整備は、いずれも経営者が主導して取り組むべき事項です。他方で、賃金制度の変更には労働契約法9条・10条の規律が、注意指導には労働施策総合推進法31条のパワーハラスメントの規律が及びます。若手社員を変えようとする前に会社の構造を見直し、その際には法的な線引きを踏まえて制度を設計することが、人材の定着と紛争の予防を両立させる出発点となります。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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