東京商工リサーチの集計によれば、2025年の建設業の倒産は2,014件(前年比4.6%増)で4年連続の増加となり、2013年以来12年ぶりに2,000件を超えました。2026年上半期(1〜6月)も1,026件(前年同期比5.8%増)と5年連続で増加し、上半期として12年ぶりに1,000件を上回っています。帝国データバンクの集計でも2025年は2,021件(前年比6.9%増)で過去10年の最多であり、建設業の倒産増加は一過性の現象ではなく、構造的な局面に入っています。
他方で、同じ時期に大手ゼネコン4社は8年ぶりの最高益を計上しており、建設業の内部で「利益を確保できる企業」と「倒産に至る企業」の二極化が進行しています。本稿では、①建設業の倒産動向と構造変化、②倒産に至る中小建設業者に共通する法務上の問題(一社依存・工事別原価管理の欠如・追加工事の口頭合意)と建設業法の規律、③2025年12月12日に全面施行された改正建設業法および2026年1月1日に施行された取適法(中小受託取引適正化法)による価格交渉の法的枠組み、④受注者側の実務対応、⑤発注者側が施工業者の倒産に直面した場合の対応を整理し、企業が点検すべき事項とFAQを示します。
1 建設業の倒産動向と構造変化
(1)人手不足倒産・物価高倒産と価格転嫁の遅れ
帝国データバンクの分析では、2025年の建設業の倒産のうち、人手不足が直接の原因となった「人手不足倒産」は113件で、建設業として初めて100件を超えました。物価高を原因とする「物価高倒産」は240件で、全業種中で建設業が最多です。同社は、人件費・工期・建材価格のコストアップに対して請負単価への転嫁が追いついていないことを倒産増加の背景として指摘しています。受注量の不足ではなく、受注はあるが人員と単価が追いつかないという点に、建設業の倒産の特徴があります。
(2)倒産企業の属性 ― 従業員10人未満が91.4%、職別工事業が総合工事業を逆転
東京商工リサーチの分析によれば、2025年に倒産した建設業2,014件のうち、従業員10人未満の企業は1,873件(構成比91.4%)、代表者を含む従業員数1〜4人の企業は1,522件(同74.3%)を占めます。業種別では、内装・左官・塗装等の職別工事業が814件で、総合工事業の774件を2000年以降で初めて上回りました。倒産の大半は、元請から専門工事を請け負う小規模事業者で発生しています。
(3)2024年問題 ― 時間外労働の上限規制の適用
人手不足の背景には、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間、臨時的な特別の事情がある場合でも年720時間、災害時の復旧・復興事業を除き単月100時間未満・複数月平均80時間以内)が適用されたことがあります。従前は長時間労働により維持されていた施工体制が、同一の人員では法律上維持できなくなり、増員か受注抑制かの選択を迫られました。
(4)大手ゼネコンの最高益と「内製化」
日本経済新聞の報道(2026年5月8日)によれば、鹿島・大林組・大成建設・清水建設の大手4社の2026年3月期の連結営業利益は合計約7,300億円で前期比約5割増となり、東京五輪関連需要で膨らんだ2018年3月期の5,994億円を上回る8年ぶりの最高益でした。旺盛な建設需要を背景にコスト上昇分を発注者に転嫁できたことが要因とされています。さらに東京商工リサーチは、施工力が「希少資源」となる中で、積水ハウスが2023年から職人の正社員化を進めていること、RIZAPグループが2026年1月にグループ会社をRIZAP建設に改称し同年4月に建設業へ本格参入することを公表したことなど、発注側による施工力の内製化の動きを指摘しています。大手が価格転嫁と選別受注で利益を確保し、施工力を自社内に取り込む一方、価格転嫁も人員確保もできない小規模な専門工事業者が淘汰される。これが二極化の構造です。
2 倒産に至る中小建設業者に共通する法務上の問題
(1)一社依存と「発注保証」の不存在
建設業は元請・下請の重層構造を前提とするため、特定の元請に売上の大半を依存する事業者が多く存在します。しかし、元請との間に取引基本契約書が存在していても、通常、基本契約は個別の請負契約の共通条件を定めるにとどまり、元請に一定量の工事を発注する義務(発注保証)を課すものではありません。元請が選別受注や内製化に転じた場合、下請は契約上の根拠なく受注を失い、元請が倒産すれば売掛債権が一括して回収不能となって連鎖倒産に至ります。長年の取引実績は法的な受注の保証とはならず、受注先の分散は事業者自身が講じるほかありません。
(2)工事別原価管理の欠如と黒字倒産
建設業の倒産は、赤字の累積による漸進的な破綻よりも、損益上は黒字でありながら資金が枯渇する「黒字倒産」の形をとることが少なくありません。材料費と労務費は工事の進行に先立って支出される一方、請負代金の入金は工事完成後数か月を要するため、工事別の採算を把握していない事業者は、売上が増加するほど運転資金の不足が拡大します。
この資金負担の偏在に対し、建設業法は一定の規律を設けています。元請負人は、出来形部分または工事完成後の支払を受けたときは、下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、支払を受けた日から1か月以内でできる限り短い期間内に支払わなければならず、労務費に相当する部分は現金で支払うよう適切な配慮をしなければなりません(建設業法24条の3第1項・2項)。特定建設業者が注文者となる下請契約では、下請代金の支払期日は引渡しの申出の日から起算して50日以内に定めなければならず、一般の金融機関による割引が困難と認められる手形の交付は禁止され、期日までに支払わない場合は遅延利息が発生します(同法24条の6第1項・3項・4項)。また、注文者は取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金とする契約を締結してはなりません(同法19条の3第1項)。これらの規律は存在するものの、「次の受注を失う」という力関係の下で下請側が権利を主張しにくいのが実情であり、法による保護と事業者自身の分散・原価管理の双方が必要です。
(3)追加工事の口頭合意と建設業法19条の書面交付義務
建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際し、工事内容、請負代金の額、工事着手・完成の時期、前金払・出来形払の定め、設計変更や工事中止の申出があった場合の工期・請負代金の変更および損害負担の定め、価格等の変動または変更に基づく工事内容の変更または請負代金の額の変更およびその額の算定方法に関する定め、検査・引渡しの時期、工事完成後の支払時期・方法、契約不適合責任、遅延利息・違約金、紛争解決方法など法定の事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければなりません(建設業法19条1項各号)。契約内容のうち法定事項に該当するものを変更するときも、変更の内容を書面に記載して相互に交付する義務があります(同条2項)。相手方の承諾を得て電磁的方法によることも認められます(同条3項)。この義務は元請・下請間に限らず、発注者と受注者の間でも同様に適用され、国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン(元請負人と下請負人の関係に係るもの第12版、発注者・受注者間のもの第8版、いずれも令和8年1月改訂)でも、追加・変更工事における契約変更の書面化は重点項目です。
倒産に至る事業者に共通するのは、現場での口頭の指示により追加工事を施工し、変更契約書を作成していないことです。追加工事の合意内容と金額が書面化されていなければ、請求時に注文者から合意の存在を否認され、紛争となった場合にも立証手段を欠きます。請求権として成立しているはずの代金を取りこぼし、その累積が資金繰りを圧迫する。法令上作成が義務づけられている書面を整備していれば回避できた倒産が、現実には少なくありません。
3 改正建設業法・取適法による価格交渉の法的枠組み
(1)改正の経緯と施行
建設業法および公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第49号、いわゆる第三次・担い手3法)は、2024年6月14日に公布され、3段階の施行を経て2025年12月12日に全面施行されました。これに合わせ、中央建設業審議会は2025年12月2日に「労務費に関する基準」を作成してその実施を勧告し、建設工事標準請負契約約款も同日改正されて12月12日から施行されています。
(2)労務費に関する基準と著しく低い見積りの禁止
建設業者は、請負契約の締結に際し、材料費、労務費および適正な施工を確保するために不可欠な経費(材料費等)の内訳等を記載した見積書を作成するよう努めなければならず、その材料費等の額は、当該工事を施工するために通常必要と認められる額を著しく下回るものであってはなりません(建設業法20条1項・2項)。注文者は、建設業者が交付した見積書の材料費等の額について、通常必要と認められる額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならず(同条6項)、これに違反した発注者が変更後の見積りに基づき契約を締結した場合、国土交通大臣または都道府県知事は必要な勧告をすることができ、勧告に従わないときはその旨を公表することができます(同条7項・8項、19条の6第3項・4項)。「労務費に関する基準」は、この「通常必要と認められる労務費」の判断基準として機能します。
(3)原価割れ契約の禁止 ― 受注者側にも適用
従前から注文者による不当に低い請負代金での契約締結は禁止されていましたが(建設業法19条の3第1項)、改正により、建設業者の側も、自らが保有する低廉な資材を用いることができる等の正当な理由がある場合を除き、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金とする契約を締結してはならないこととされました(同条2項)。低価格による受注競争は、受注者側においても法令違反となり得ます。
(4)資材高騰の「おそれ情報」の通知義務と請負代金変更協議
建設業者は、請け負う建設工事について、主要な資材の供給の著しい減少や資材価格の高騰その他工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに、注文者に対しその旨を必要な情報とともに通知しなければなりません(建設業法20条の2第2項)。通知をした建設業者は、契約締結後に当該事象が発生した場合、注文者に対し、契約で定めた算定方法に従った工期・工事内容・請負代金の額の変更について協議を申し出ることができ(同条3項)、申出を受けた注文者は、申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応ずるよう努めなければなりません(同条4項)。公共工事の発注者には、入契法上、協議に応ずる義務が課されています。価格変動時の請負代金の変更方法が契約書の法定記載事項として明確化されたことと併せ、契約締結前の通知と契約書の変更条項の整備が、資材高騰時の代金変更請求の前提となります。
(5)取適法(中小受託取引適正化法)の施行
下請代金支払遅延等防止法は、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法、取適法)に改正され、2026年1月1日に施行されました。改正により、中小受託事業者から価格の協議を求められたにもかかわらず協議に応じず、または必要な説明を行わないまま一方的に代金を決定する行為が禁止され、支払手段としての手形払等が禁止されました。電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに手数料等を含む満額の代金を得ることが困難なものは禁止の対象です。建設工事の請負は取適法の適用対象ではなく建設業法の規律に服しますが、前述のとおり建設業法24条の6も割引困難な手形の交付を禁止し50日以内の支払を義務づけており、受注者に資金負担を転嫁する商慣行を許容しない方向で両法の規律が整合しています。
4 受注者側の実務対応
(1)請負契約書・下請契約書のひな形の改訂
建設業法19条1項各号の法定記載事項をすべて備えているか、とりわけ8号の価格変動時の請負代金の変更方法と、6号の設計変更・工事中止時の変更の定めが具体的に規定されているかを点検します。改正後の標準請負契約約款を参照し、追加・変更工事の変更契約書の書式を整備します。
(2)追加・変更工事の書面化の運用
現場での追加指示を受けた場合、着手前に工事内容・金額・工期を記載した変更契約書または注文書・請書を取り交わし、やむを得ず着手を先行させる場合も、当日中に指示内容を電子メール等の電磁的記録で確認する運用を定めます。建設業法19条3項により、相手方の承諾を得た電磁的方法による交付が認められています。
(3)工事別原価管理
現場ごとに見積原価と実際原価を突き合わせ、粗利を把握します。継続的に赤字となる発注者・元請が特定できれば、価格交渉か撤退かの判断が可能になります。大手ゼネコンが最高益を計上した要因が価格転嫁と選別受注にあったことは、中小事業者にも同じ判断が求められることを示しています。
(4)受注先の分散
一社の売上比率を5割以下に抑えることを目安に、元請の複数化、公共工事の入札参加、施主からの直接受注などにより受注先を分散します。基本契約に発注保証がないことを前提に、特定の元請の方針転換や倒産が自社の存続に直結しない体制を構築します。
(5)価格交渉の書面化
価格交渉は、労務費に関する基準に照らした労務費の積算と、資材価格の上昇を示す客観的資料を添えて、建設業法20条の2第3項に基づく協議の申出として書面で行います。契約締結前には同条2項の「おそれ情報」の通知を書面で行い、記録を残します。協議に応じない注文者に対しては、国土交通省・都道府県の建設業担当部局や公正取引委員会への相談が可能です。
(6)資金繰り悪化前の私的整理の検討
手元資金が残っている段階であれば、裁判所の手続によらない私的整理により、金融機関との間で返済条件を調整し、事業を継続する選択肢があります。資金が枯渇し、労務費や材料費の支払が停止した後では破産以外の選択肢が事実上失われるため、資金繰りの悪化が見込まれる段階での相談が、事業存続の可否を左右します。
5 発注者側の留意点 ― 施工業者の倒産リスクへの対応
受注が多く多忙に見える施工業者であっても、低価格受注と入金までの資金負担により自転車操業に陥っている場合があり、外形からは判別が困難です。発注者側は、契約前に、建設業許可の有無(請負代金500万円以上、建築一式工事では1,500万円以上の工事には許可が必要です。建設業法3条1項、同法施行令1条の2)を国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システム等で確認し、実績と評判を調査したうえで、前払金の割合を抑え、出来高に応じた分割払いとし、住宅であれば完成保証制度への加入を確認することが基本です。
施工業者が工事を中断し連絡が取れなくなった場合は、相当期間を定めて履行を催告し、期間内に履行がなければ債務不履行を理由に契約を解除して損害賠償を請求します。注文者は仕事の完成前であればいつでも損害を賠償して契約を解除できますが(民法641条)、相手方の債務不履行を理由とする解除の方が損害賠償請求の構成として有利です。請負が完成前に解除された場合でも、既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付により注文者が利益を受けるときは、請負人はその割合に応じた報酬を請求できる(民法634条2号)ため、出来高を精算したうえで、過払いとなっている前払金の返還を請求することになります。現場写真、支払記録、契約書類の保全が不可欠です。
施工業者について破産手続が開始された場合、双方未履行の請負契約については、破産管財人が契約を解除するか、債務を履行して相手方の債務の履行を請求するかを選択します(破産法53条1項)。注文者は、管財人に対し相当の期間を定めて確答を催告することができ、期間内に確答がないときは契約は解除されたものとみなされます(同条2項)。前払金の返還請求権は原則として破産債権となり、全額の回収は困難です。公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル)も、施工業者が破産した相談事例において、契約書や工事の進捗が分かる写真を準備したうえで早急に弁護士に相談するよう案内しています。
企業が点検すべき事項
- 直近の請負契約書・下請契約書に、建設業法19条1項各号の法定記載事項、とりわけ価格変動時の請負代金の変更方法(8号)と設計変更・工事中止時の変更の定め(6号)が具体的に記載されているか。
- 追加・変更工事について、着手前に変更契約書を取り交わす運用が定められ、現場での口頭指示を電磁的記録で確認する手順があるか。
- 見積書が材料費・労務費・必要経費の内訳を記載した形式になっており、労務費が「労務費に関する基準」に照らして著しく低い水準になっていないか。
- 契約締結前に、資材価格高騰等の「おそれ情報」を注文者に書面で通知し、記録を保存しているか。
- 工事ごとに見積原価と実際原価を突き合わせて粗利を把握し、継続的に赤字となる発注者・元請を特定できているか。
- 特定の元請への売上依存度が5割を超えていないか。超えている場合、受注先の分散に向けた具体的な計画があるか。
- 元請からの下請代金の支払が建設業法24条の3・24条の6の期間内に行われ、割引困難な手形による支払を受けていないか。
- 価格交渉を、労務費の基準と資材価格の根拠資料を添えた書面による協議の申出として行う体制があるか。
- 資金繰りの見通しを月次で把握し、悪化が見込まれる段階で金融機関との調整や私的整理を検討する判断基準と相談先があるか。
- (発注者側)施工業者の建設業許可・実績を契約前に確認し、前払金の割合の抑制、出来高払い、完成保証の確認を契約条件に組み込んでいるか。
よくあるご質問
Q. 元請との契約書に「価格変動時の代金の変更方法」が書かれていません。問題がありますか。
A. 価格等の変動に基づく請負代金の額の変更およびその算定方法に関する定めは、建設業法19条1項8号の法定記載事項であり、記載を欠く契約書は同条の要求を満たしていません。改正建設業法により、資材価格高騰のおそれ情報を契約前に通知した受注者は、高騰が現実化した場合に契約で定めた算定方法に従った請負代金の変更協議を申し出ることができますが、変更方法の定めがなければ協議の基準を欠くことになります。改正後の建設工事標準請負契約約款を参照して変更条項を追加し、変更内容を書面で相互に交付してください(同条2項)。
Q. 現場で元請の担当者から口頭で追加工事を指示され、施工しましたが、請求したところ「聞いていない」と言われました。請求できますか。
A. 追加工事の合意が成立していれば請求権は発生しますが、合意の存在と内容(範囲・金額)を立証する責任は請求する側にあり、書面がなければ立証は困難です。指示の経緯を示すメール・メッセージ、現場の写真、施工記録、担当者とのやり取りのメモなどを直ちに収集・保全してください。建設業法19条2項は契約内容の変更時に変更内容の書面交付を義務づけており、国土交通省の建設業法令遵守ガイドラインも追加・変更工事の書面化を求めています。今後は、着手前に変更契約書または注文書・請書を取り交わし、やむを得ず先行着手する場合も当日中に指示内容を電磁的記録で確認する運用を徹底することが不可欠です。
Q. 下請の立場で元請に値上げを求めると、取引を切られるのではないかと心配です。法律上の根拠はありますか。
A. あります。改正建設業法により、注文者は、受注者が交付した見積書の労務費等について通常必要と認められる額を著しく下回る変更を求めてはならず(建設業法20条6項)、違反した発注者には国土交通大臣等の勧告・公表の制度があります。資材価格の高騰については、契約前におそれ情報を通知していれば請負代金の変更協議を申し出ることができ、注文者は正当な理由がない限り誠実に協議に応ずる努力義務を負います(同法20条の2)。取引上の地位を不当に利用した原価割れの請負代金での契約締結も禁止されています(同法19条の3第1項)。価格交渉は、中央建設業審議会の「労務費に関する基準」に基づく労務費の積算と資材価格の根拠資料を添え、法令に基づく協議の申出として書面で行い、協議に応じない場合は国土交通省・都道府県の建設業担当部局や公正取引委員会への相談が可能です。
Q. 店舗の内装工事を発注し、代金の一部を前払いしましたが、施工業者が工事を中断して連絡が取れません。どう対応すべきですか。
A. まず、相当期間を定めて工事の履行を催告する内容証明郵便を送付し、期間内に履行がなければ債務不履行を理由に契約を解除して損害賠償を請求します。解除後は、完成している可分な部分の出来高に応じた報酬(民法634条2号)を精算したうえで、過払いとなっている前払金の返還を請求します。現場の写真、支払記録、契約書類を直ちに保全してください。施工業者が破産した場合は、破産管財人が契約の解除か履行かを選択するため(破産法53条1項)、期間を定めて確答を催告し(同条2項)、前払金返還請求権を破産債権として届け出ることになりますが、全額の回収は困難です。工事を引き継ぐ業者を選定する際は、建設業許可の有無と実績を確認し、前払金を抑えた出来高払いの契約条件とすることをお勧めします。
まとめ
建設業の倒産は2025年に2,014件と12年ぶりに2,000件を超え、2026年上半期も1,026件と増加が続いていますが、その91.4%は従業員10人未満の事業者であり、大手ゼネコン4社は同時期に8年ぶりの最高益を計上しています。人手不足・物価高・2024年問題というコスト上昇の中で、価格転嫁と選別受注、施工力の内製化に動く大手と、価格転嫁も人員確保もできない小規模な専門工事業者との二極化が、倒産急増の構造です。倒産に至る事業者には、一社依存(発注保証の不存在)、工事別原価管理の欠如による黒字倒産、追加工事の口頭合意という共通点があり、建設業法19条が義務づける契約書と変更契約書の書面交付を欠くことが、請求権の取りこぼしと立証不能を招いています。2025年12月12日全面施行の改正建設業法は、労務費に関する基準と著しく低い見積りの禁止、受注者側にも及ぶ原価割れ契約の禁止、資材高騰のおそれ情報の通知と請負代金変更協議、価格変動時の変更方法の法定記載事項化により、2026年1月1日施行の取適法は協議に応じない一方的な代金決定と手形払等の禁止により、受注者が法令に基づいて価格交渉を行う枠組みを整えました。当事務所では、請負契約書・下請契約書のひな形の改正法対応、追加・変更工事の書面化運用の設計、価格交渉書面の作成、受注先分散と取引条件の見直し、資金繰り悪化前の私的整理の検討、発注者側の工事請負契約の審査と施工業者倒産時の債権回収まで、顧問契約を通じて継続的に支援しています。
参考資料
- 東京商工リサーチ「2025年(令和7年)の全国企業倒産1万300件」/同「2026年上半期(1-6月)の全国企業倒産5,346件」/同「止まらない建設業の倒産、職別工事が総合工事を抜く〜施工力が『希少資源』、動き始めた内製化〜」
- 帝国データバンク「『建設業』の倒産動向(2025年)」/同「人手不足倒産の動向調査(2025年)」/同「『物価高』倒産動向調査(2025年)」
- 日本経済新聞「ゼネコン4社合計、8年ぶり最高益 価格転嫁進み五輪特需上回る」(2026年5月8日)
- 厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
- 建設業法(e-Gov法令検索)(第3条・第19条・第19条の3・第19条の6・第20条・第20条の2・第24条の3・第24条の6)/建設業法施行令(e-Gov法令検索)(第1条の2)/民法(e-Gov法令検索)(第634条・第641条)/破産法(e-Gov法令検索)(第53条)
- 国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」/同「労務費に関する基準」/同「価格転嫁」(第三次・担い手3法)/同「建設工事標準請負契約約款について」/同「建設業法令遵守ガイドライン」/同「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
- 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」/中小企業庁ミラサポplus「【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など『取適法』がもたらす変化」
- 公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル)「木造住宅を新築中だが、工事途中に施工業者が破産してしまった」
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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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