借入の返済のために新たな借入を重ねる、いわゆる自転車操業に陥った経営者の多くは、「新商品が当たれば」「大口の契約が決まれば」と一時の売上増による打開を期待します。しかし、自転車操業の資金繰りは、単発の利益増によって解消される構造にはなっていません。利益には課税があり、残った資金から元本の返済が先に引かれるためです。加えて、この状態が続くと、融資を受け続けるための粉飾決算や融通手形といった違法な手段に手が伸びやすく、会社の倒産にとどまらず経営者個人の再出発まで失われるおそれがあります。
東京商工リサーチによれば、2025年の全国企業倒産は1万300件で2年連続の1万件超となり、コロナ禍の実質無利子・無担保融資(いわゆるゼロゼロ融資)を利用した後の倒産は2025年に433件、累計2,225件に達しました。また、2025年に倒産した企業の有利子負債構成比率は70.2%と、生存企業の27.6%の2.5倍を超え、直近決算が赤字であった企業は64.3%、すなわち約3社に1社は黒字のまま倒産しています。本稿では、自転車操業の構造を税務と財務の両面から整理したうえで、5つの兆候、脱却のための3ステップ、粉飾決算等の法的リスク、法的整理の前に利用できる公的な選択肢について、経営者が押さえるべき法的留意点を解説します。
1 自転車操業の構造
(1)良い借入と悪い借入
借入そのものが問題なのではありません。設備、在庫、人材への投資など将来の利益を生むための借入は、返済しながら企業の収益力を高めます。1,000万円の借入で導入した機械が年300万円の利益を生むのであれば、返済と並行して財務は改善します。これに対し、過去の借入の返済や赤字の補填のための借入は、借りた資金が利益を生まないまま消えていきます。これを繰り返す状態が自転車操業であり、同じ借入でも、資金の使途が将来の利益に向いているか、過去の穴埋めに向いているかで、その意味はまったく異なります。
(2)元本返済は損金にならない(法人税法22条3項)
経営者が見落としがちなのが、借入の元本返済の税務上の扱いです。法人税法22条3項は、各事業年度の損金の額に算入すべき金額を、売上原価等の原価の額、販売費・一般管理費その他の費用の額、資本等取引以外の取引に係る損失の額と定めています。借入金の元本返済は、受け入れた資金を返還する取引にすぎず、原価・費用・損失のいずれにも該当しないため、損金になりません。損金になるのは借入のために要した利息のみです。元本返済を費用と同視して資金計画を立てると、使える資金の計算が狂い、納税資金や支払資金の不足として表面化します。
(3)黒字倒産の構造
元本返済が損金にならない以上、利益が出れば課税され、残った資金から元本返済が引かれます。単純化すれば、年間の利益が300万円であっても元本返済が600万円あれば、手元資金は減少します。損益計算書上は黒字で納税もしているため、経営者は「儲かっている」と錯覚しやすく、預金残高の減少に気づくのが遅れます。前記のとおり、2025年の倒産企業のうち直近決算が黒字であった企業は約3社に1社に上ります。仮に利益が倍増しても、税負担と元本返済が先行するため、経営者が期待するほど手元には残りません。「一発逆転」が構造的に成立しない理由はここにあります。
2 自転車操業の5つの兆候
自社が自転車操業に陥っているか否かは、次の5項目で点検することができます。1項目でも該当すれば注意、3項目以上該当すれば早急な見直しが必要と考えてください。
- ① 設備投資をしていないにもかかわらず、借入残高が毎年増加している。機械・店舗・人員を増やしていないのに借入だけが増えているなら、その資金は赤字と返済の補填に充てられています。
- ② 返済した金額とほぼ同額の融資を毎年受けている(いわゆる折り返し融資)。1,000万円を返済して1,000万円を借り入れる状態が常態化していれば、実質的に債務は減っていません。
- ③ 黒字であるのに預金残高が3年前より減少している。3期連続黒字でも預金残高が右肩下がりであれば、利益より返済が大きいことを意味します。
- ④ 「次の融資が実行されなければ数か月後の支払いが厳しい」と感じたことがある。資金繰りの主導権が自社ではなく金融機関の判断に移っている状態です。
- ⑤ 直近の借入の使途を一言で説明できない。「運転資金」としか説明できないのであれば、意味のある借入になっていない可能性があります。
3 脱却のための3ステップと法的留意点
(1)資金繰り表の作成
決算書は過去の成績表であり、資金繰り表は将来の預金残高の予定表です。毎月の入金と出金を書き出し、月末残高を6か月先まで並べることで、何か月後に残高が不足するかを事前に把握できます。自転車操業に陥った企業の多くはこの表を持たず、支払期日の直前になって金融機関に駆け込むことになります。様式は日本政策金融公庫が記入例つきで無料公開しており、まずこれを埋めることから始めるべきです。後述する条件変更の申込みや公的支援の利用も、資金繰り表と計画が前提となるため、必ず最初に取り組む必要があります。
(2)借入の一本化と条件変更(リスケジュール)
複数の借入を抱えている場合、これを一本にまとめて返済期間を延長し、月々の返済額を引き下げる方法があります。たとえば5本の借入で毎月合計100万円を返済している企業が、一本化と期間延長により毎月の返済を50万円に抑えるといった対応です。より厳しい場合には、金融機関に貸付条件の変更(リスケジュール)を申し込み、一定期間、元本の返済を猶予して利息のみの支払いとすることも選択肢になります。
条件変更を申し出ると取引を打ち切られるのではないかと懸念する経営者は少なくありませんが、金融機関にとっても、申出を拒否して倒産に至れば残債の回収ができなくなるため、合理的な計画が示されれば応じる例が多いのが実情です。政府は2025年11月27日付で金融関係団体等に対し、貸付条件の変更や借換えの申込みについて「申込みを断念させるような対応を取らないことは勿論のこと、事業者に寄り添った迅速かつ柔軟な対応を継続すること」、融資判断に当たっては「決算状況・借入状況や条件変更の有無等のみで機械的・硬直的に判断せず」対応することを要請しています。なお、条件変更には返済計画の提示が求められるほか、変更契約の内容(猶予期間、期間経過後の返済額、期限の利益喪失条項の扱い等)を確認しておく必要があります。
(3)資金の流れの改善と手元資金の積上げ
事業モデル自体の収益性に問題がある場合は別として、自転車操業の企業には、効果の乏しい固定費や、経営者の私的な支出が会社の資金を圧迫している例が多くみられます。高額な飲食費、付き合いで加入した保険、見直されないままの賃料や契約などを洗い出し、不要なものを削減して、浮いた資金を手元資金として積み上げることが、脱却の根本的な方法です。経営者自身は「削れるところまで削った」と考えていても、第三者から見れば削減余地が残っていることが多く、客観的な視点を入れることが有効です。
法的な観点からは、経営者の私的な支出を会社が負担している場合、その支出が役員貸付金として計上されていれば、金融機関からは経営者への資金流出として厳しく評価され、融資判断や条件変更の交渉に不利に働きます。会社と経営者の資金を明確に区分することは、後述する経営者保証ガイドラインの適用においても前提となります。手元資金の目安としては一般に月商の2〜3か月分が安心とされますが、業種や取引条件により異なるため、資金繰り表に基づいて自社の必要額を把握することが重要です。
4 粉飾決算・融通手形の法的リスク
前記2の④に該当する企業では、次の融資を通すために決算書を実態より良く見せる粉飾決算や、取引先との間で実体のない手形を振り出して割り引く融通手形に手を出す例が、自転車操業の末期に典型的に現れます。粉飾した決算書を提示して金融機関から融資を受ける行為は、人を欺いて財産上不法の利益を得るものとして詐欺罪(刑法246条、10年以下の拘禁刑)に該当し得ます。融通手形についても、実体のない手形を用いて金融機関から資金を引き出せば、同様に詐欺の問題が生じます。
さらに、会社の借入を連帯保証している経営者が、会社の破産に伴い個人として破産に至った場合、破産法252条1項は、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、その事実がないと信じさせるため詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと(同項5号)、業務及び財産の状況に関する帳簿、書類等を隠滅・偽造・変造したこと(同項6号)を免責不許可事由と定めています。裁判所の裁量による免責(同条2項)の余地はあるものの、粉飾によって受けた融資は、自己破産をしても債務が消えないリスクを伴います。粉飾は、会社の倒産を先送りするどころか、経営者個人の再出発の道まで閉ざしかねない行為であることを、経営者は認識しておく必要があります。
5 法的整理の前に利用できる選択肢
3ステップによっても資金繰りの改善が見込めない場合であっても、直ちに破産や民事再生といった法的整理に進む必要はありません。次の選択肢を検討する余地があります。
(1)中小企業活性化協議会
中小企業活性化協議会は、すべての都道府県に設置された公的機関であり、弁護士・公認会計士・税理士などの専門家や地元の金融機関と連携して、収益力改善、再生支援、再チャレンジ支援を行っています。相談は無料で秘密は厳守され、金融支援を伴う経営改善計画の策定や、保証債務に悩む経営者の再チャレンジに向けた支援も実施しています。なお、民事再生・破産等を申し立てた後の企業は支援の対象外となるため(保証人による保証債務整理の相談は可能)、申立ての前に相談する必要があります。
(2)中小企業の事業再生等に関するガイドライン
2022年4月15日から適用されている「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、裁判所を利用せず、金融機関との協議により債務を整理する私的整理手続(中小企業版私的整理手続)を定めたものです。対象債務者・対象債権者から独立した第三者支援専門家(弁護士等)が事業再生計画案の相当性や実行可能性を調査する仕組みであり、平時からの適時適切な情報開示が手続利用の前提とされています。
(3)経営者保証に関するガイドライン
会社の借入を経営者が連帯保証している場合、会社が法的整理や私的整理に至っても、「経営者保証に関するガイドライン」に基づいて保証債務を整理することにより、経営者個人の破産を回避できる可能性があります。このガイドラインによる整理では、破産の場合に残せる自由財産に加え、経済合理性の範囲内で、一定期間の生計費に相当する額の資産(一定期間×月額33万円)や華美でない自宅等の「インセンティブ資産」を手元に残せる可能性があり、信用情報機関への報告・登録もされません。ただし、対象債権者全員の同意を要すること、主債務者及び保証人が弁済について誠実であり、財産状況等を適時適切に開示していることが要件とされています。
これらの選択肢に共通するのは、早期に、かつ誠実に動いた経営者ほど利用できる手段が多いということです。資産を隠し、あるいは粉飾によって金融機関を欺いた後では、金融機関の協力は得られず、ガイドラインの要件も満たせません。前記2の④、すなわち次の融資に不安を感じた時点が、専門家への相談のタイミングです。
6 弁護士への相談が有効な場面
金融機関との条件変更の交渉は、資金繰り表と再建計画の信頼性が結果を左右します。弁護士が関与することで、計画の法的な実現可能性の検証、変更契約の条項の確認、複数の金融機関との調整を適切に進めることができます。また、資金繰りの悪化局面では、租税・社会保険料の滞納、特定の債権者への偏った弁済、独断での資産処分など、後の手続において問題となる行為を避ける必要があり、早期の相談が選択肢を広げます。
当事務所は、資金繰り表に基づく返済計画の点検、金融機関との条件変更・借入一本化の交渉、中小企業活性化協議会や事業再生ガイドラインを用いた再建、経営者保証ガイドラインによる保証債務の整理、粉飾決算等のコンプライアンス上の懸念が生じた場合の初動対応を、顧問契約に基づき継続的に支援しています。
企業が点検すべき事項
- ① 直近の借入の使途が、将来の利益を生む投資(設備・在庫・人材)か、過去の返済・赤字の補填かを区分して把握しているか
- ② 借入の元本返済が損金にならないこと(法人税法22条3項)を前提に、納税額と元本返済額を織り込んだ資金計画を立てているか
- ③ 設備投資をしていないのに借入残高が増加していないか、返済額とほぼ同額の融資を毎年受けていないか
- ④ 黒字決算が続いているにもかかわらず、預金残高が3年前より減少していないか
- ⑤ 毎月の入金・出金と月末残高を6か月先まで示した資金繰り表を作成し、定期的に更新しているか
- ⑥ 複数の借入の一本化・期間延長や条件変更(リスケジュール)を、計画とともに金融機関に相談する準備ができているか
- ⑦ 固定費や経営者の私的支出を第三者の視点で洗い出し、会社と経営者の資金を明確に区分しているか(役員貸付金の有無)
- ⑧ 融資を受けるために決算書の数値を操作する、実体のない手形を振り出すといった行為が社内で行われていないか(刑法246条・破産法252条1項)
- ⑨ 中小企業活性化協議会、事業再生ガイドライン、経営者保証ガイドラインの内容と利用要件(早期・誠実な開示)を把握しているか
- ⑩ 次の融資に不安を感じた時点で、金融機関や専門家に相談する体制があるか
よくあるご質問
Q. 借入の元本返済は経費として処理できないのですか。
A. できません。法人税法22条3項が損金の額に算入すべきものとして定めるのは、原価、費用、損失であり、借入金の元本返済はそのいずれにも当たりません。損金になるのは利息のみです。したがって、損益計算書上の利益が出ていても、課税後の資金から元本返済が引かれるため、元本返済が利益を上回れば手元資金は減少します。資金計画は、納税額と元本返済額を織り込んで立てる必要があります。
Q. 金融機関にリスケジュールを申し込むと、今後の取引に悪影響がありますか。
A. 条件変更の事実は金融機関の融資判断に影響し得ますが、政府は金融機関に対し、条件変更の申込みを断念させるような対応をとらず、事業者に寄り添った迅速かつ柔軟な対応を継続すること、条件変更の有無等のみで機械的・硬直的に判断しないことを要請しています。申込みを先送りして資金が枯渇し、租税の滞納や粉飾に至るほうが、はるかに深刻な結果を招きます。資金繰り表と再建計画を整えたうえで、早期に相談することが重要です。
Q. 粉飾決算で融資を受けた場合、どのような責任を負いますか。
A. 実態と異なる決算書で金融機関を欺いて融資を受ける行為は、詐欺罪(刑法246条)に該当し得ます。また、経営者が連帯保証に基づき個人として破産する場合、詐術を用いた信用取引による財産の取得や帳簿の偽造・変造は免責不許可事由(破産法252条1項5号・6号)に当たり、裁量免責が認められない限り、粉飾によって生じた債務が消えないリスクがあります。
Q. 会社が立ち行かなくなった場合、連帯保証をしている経営者は必ず自己破産することになりますか。
A. 必ずしもそうではありません。「経営者保証に関するガイドライン」に基づいて保証債務を整理することにより、個人破産を回避し、一定期間の生計費や華美でない自宅等を手元に残せる可能性があります。信用情報機関への登録もされません。ただし、対象債権者全員の同意や、財産状況の誠実かつ適時適切な開示が要件であり、資産の隠匿や粉飾があれば利用できません。早期に専門家へ相談することが、残せる資産と選択肢を広げます。
まとめ
自転車操業は、借入の元本返済が損金にならず、課税後の資金から返済が先行するという構造の上に成り立っており、単発の売上増による一発逆転では解消されません。設備投資なしの借入増加、折り返し融資、黒字下での預金減少、次の融資への不安、借入使途を説明できないという5つの兆候に該当する企業は、資金繰り表の作成、借入の一本化と条件変更、固定費と私的支出の削減による手元資金の積上げを、この順序で進める必要があります。粉飾決算や融通手形は、詐欺罪と免責不許可事由という形で経営者個人の将来まで奪いかねない行為です。資金繰りの改善が見込めない場合でも、中小企業活性化協議会、事業再生ガイドライン、経営者保証ガイドラインといった選択肢があり、早期に誠実に動くことが、会社と経営者の双方を守る唯一の道となります。
参考資料
- 東京商工リサーチ「2025年(令和7年)の全国企業倒産1万300件」(2026年1月13日)
- 東京商工リサーチ「2025年『ゼロゼロ融資』利用後倒産 433件」(2026年1月13日)
- 東京商工リサーチ「2025年の倒産企業は、7割が“債務超過” 3期連続経常赤字 最終赤字は6割超」(2026年3月31日)
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード」(資金繰り表・資金繰り表(記入例))
- 金融庁「金融の円滑化に向けた取組及び事業者支援の徹底について」(2025年11月27日 要請文)/同「中小企業等に対する金融円滑化対策について」
- 中小企業庁「中小企業活性化協議会(収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援)」
- 金融庁「『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』について」
- 金融庁・中小企業庁「経営者保証に関するガイドラインを活用してみませんか」
- 法人税法(e-Gov法令検索)/刑法(e-Gov法令検索)/破産法(e-Gov法令検索)
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