Column

経営者の失敗事例にみる会社支配・共同創業・個人の刑事リスク ― 株式の安易な贈与と特別決議の拒否権(会社法309条2項)・生前贈与と遺留分侵害額請求(民法1044条・1046条)、共同創業者との合意の欠如と退任後の競業避止・営業秘密の秘密管理性(不正競争防止法2条6項)・50対50のデッドロック、不同意性交等罪(刑法177条)と期限の利益喪失による経営危機

企業の法的紛争の中には、契約や制度の不備そのものよりも、経営者個人の判断や私的な関係を起点とするものが少なくありません。経営者の私的な関係者に株式を贈与した結果、会社の意思決定が停止する。創業期からの共同経営者との間に何の取り決めもなく、離反とともに事業・ノウハウ・従業員が流出する。経営者個人が刑事事件の当事者となり、報道を契機に金融機関・取引先との関係が断たれる。いずれも当事者は「まさか自分が」と口にしますが、事後的にとり得る法的手段は極めて限られます。

本稿では、当事務所の代表弁護士が動画で紹介した3つの失敗事例(細部は守秘義務の観点から変えています)を素材に、①株式の安易な贈与と会社支配・相続の問題、②共同創業者・右腕との合意の欠如と競業・営業秘密・デッドロックの問題、③経営者個人の刑事リスクが会社の存続に及ぼす影響を整理し、平時に講じておくべき予防策を示します。

1 株式の安易な贈与 ― 特別決議の拒否権と相続

(1)事例の構造

オーナー経営者が、私的な関係にある第三者の将来を案じ、配当で生活できるようにと自己の保有株式を少しずつ贈与した結果、受贈者の持株比率が約34%に達していました。経営者が病気で早期に死亡した後、株式を保有していなかった配偶者ら相続人は初めてその事実を知り、受贈者は感情的な対立から会社にとって必要な議案にも反対するようになり、会社の意思決定が停滞しました。

(2)持株比率と株主の権利

株主総会の普通決議は、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数をもって行います(会社法309条1項。定足数は定款で変更可能)。これに対し、定款変更、事業譲渡、合併等の組織再編、解散など会社の基礎に関わる事項は特別決議を要し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(同条2項)。したがって、議決権の3分の1を超える株式を有する株主は、単独で特別決議を否決することができます。

また、議決権又は発行済株式の100分の3以上を有する株主には会計帳簿の閲覧・謄写請求権が認められ(同法433条1項)、議決権の10分の1以上を有する株主は、業務の執行に著しい困難が生じている等の場合に、やむを得ない事由があるときは会社の解散の訴えを提起することもできます(同法833条1項)。経営に関与しない第三者に相当割合の株式を移転することは、こうした権利を経営者以外の者に与えることを意味します。

(3)譲渡制限は「オーナー自身の譲渡」には歯止めにならない

非公開会社の多くは株式に譲渡制限を設けており、譲渡には株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認を要します(同法136条・139条1項)。しかし、承認機関を支配するオーナー自身が譲渡する場面では、この仕組みは実質的な歯止めになりません。また、定款で定めれば相続その他の一般承継により株式を取得した者に対して売渡しを請求できますが(同法174条)、この制度は一般承継を対象とするものであり、生前の贈与により株式を取得した者には及びません。

(4)相続人がとり得る手段の限界

受贈者は相続人ではないため、遺言がない限り相続財産を承継しませんが、生前に贈与された株式は相続財産から外れています。相続開始前の1年間にされた贈与、又は当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与は遺留分を算定するための財産に算入され(民法1044条1項)、相続人は受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます(同法1046条1項)。もっとも、これは金銭の請求であり、株式そのものを取り戻す手段ではありません。会社支配の問題は、相続法上の手当てでは解決しないのです。

(5)会社資産の私的利用

私的な関係者のために会社の資金で住居を賃借して住まわせるといった行為は、会社の資産の私的流用として、取締役の任務懈怠責任(会社法423条1項)の問題や税務上の問題を生じさせます。また、居住者がいる物件の明渡しを求めるには、相手方の任意の退去が得られない限り法的手続を要するのが原則であり、経営者の死亡後に残された会社と相続人が長期の紛争を抱えることになります。

(6)予防策

株式は会社の経営を承継する者に集中させることが原則です。経営者が生前にとるべき対応としては、株主構成の定期的な確認と家族・後継者との共有、遺言を含む事業承継計画の策定、非公開会社における議決権等の属人的な定め(同法109条2項)や種類株式の活用の検討などが挙げられます。少なくとも、特別決議の拒否権となる3分の1、普通決議を左右する過半数、特別決議を単独で可決できる3分の2の各ラインを意識せずに株式を移転することは避けるべきです。

2 共同創業者・右腕との合意の欠如 ― 競業、営業秘密、デッドロック

(1)事例の構造

創業期から経営者と二人三脚で事業を立ち上げてきた右腕的人物が、経営方針の対立を機に退社し、ほぼ同一の事業を開始しました。同人に現場のマネジメントを任せていたことから、従業員約15人のうち5人ほどが同人の下に移り、会社は事業の継続が困難な状態に陥りました。会社は従業員とは雇用契約書・業務委託契約書を締結していましたが、経営者と右腕の間には、地位、報酬、株式(約3%を保有)、退任時の扱いのいずれについても取り決めがありませんでした。

(2)競業避止義務の範囲

取締役が在任中に自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)で重要な事実を開示して承認を受ける必要があり(会社法356条1項1号・365条1項)、これに違反した取引により取締役等が得た利益の額は、会社の損害額と推定されます(同法423条2項)。しかし、退任後の競業を一般的に禁止する規定はなく、退任・退職後の競業避止義務は、原則として個別の合意によって初めて生じます。合意がある場合も、制限の期間・地域・対象業務の範囲や代償措置の有無などに照らして合理的な範囲でなければ有効性が否定され得るため、立場に応じた条項の設計が必要です。本件のように当人の法的地位(取締役か、従業員か、業務委託か)すら明確でない場合には、在任中の義務違反を問うことも容易ではありません。

(3)営業秘密の要件と情報管理

不正競争防止法上の「営業秘密」は、秘密として管理されている(秘密管理性)、事業活動に有用な(有用性)、公然と知られていない(非公知性)技術上又は営業上の情報をいいます(同法2条6項)。不正に取得・使用・開示された場合には差止めや損害賠償等の民事上の措置、一定の場合には刑事罰の対象となりますが、その前提として秘密管理性が認められなければなりません。本件では、販売戦略や顧客像に関する資料を全従業員が閲覧できる共有ドライブに置き、秘密である旨の表示やアクセス制限もなかったため、営業秘密としての保護を主張することは困難でした。経済産業省の「営業秘密管理指針」は、法的保護を受けるために必要となる最低限の水準の対策を示しています。

(4)従業員の移籍

退職した役員・従業員が元の同僚に転職を勧誘すること自体は、一般に直ちに違法となるものではなく、法的責任が問題となるのは勧誘の態様が社会的相当性を著しく欠く場合などに限られると考えられています。従業員の移籍は、契約による事前の手当てと、日常の組織運営(特定の人物にマネジメントを依存させない体制)の双方で備える必要があります。

(5)50対50のデッドロック

共同創業者が株式を50%ずつ保有する場合、普通決議の要件である過半数(同法309条1項)をいずれも単独では満たさないため、対立が生じると役員の選任・解任や計算書類の承認を含め、会社の意思決定が停止します。最終手段として解散の訴え(同法833条1項)がありますが、やむを得ない事由が要件とされ、認められたとしても会社の消滅という結果になります。

(6)予防策 ― 創業者間契約

共同創業者や中核人材との間では、関係が良好なうちに、次の事項を書面で合意しておくべきです。

  • 各人の法的地位(取締役・従業員・業務委託)と役割、報酬・利益分配の考え方
  • 株式の配分と、一定期間の在籍に応じて権利が確定する仕組み(いわゆるベスティング)
  • 退任・退職時の株式の譲渡義務と買取価格の算定方法
  • 在任中及び退任後の競業避止・従業員の勧誘禁止・秘密保持(期間・範囲・代償を含む)
  • 意見が対立し決議が成立しない場合の解消方法(一方による買取り等のデッドロック条項)

3 経営者個人の刑事リスクと会社の存続

(1)刑法改正と「不同意性交等罪」

同意のない性的行為が許されないことは言うまでもありません。令和5年法律第66号による改正刑法は2023年7月13日から施行され、強制性交等罪は不同意性交等罪に改められました(刑法177条)。暴行・脅迫(176条1項1号)のほか、アルコール若しくは薬物の影響(同項3号)、経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益の憂慮(同項8号)など8つの行為・事由その他これらに類する行為・事由により、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ又はその状態に乗じて性交等をした場合に成立し、婚姻関係の有無を問いません。飲酒の場や、部下・取引先など地位の差がある関係は、まさにこの類型に該当し得る場面です。

(2)事例の構造と対応

飲食店で資力を誇示した経営者が、店外で関係を持った翌日、相手方から「同意していない」として数百万円の支払を求められ、応じなかったところ被害届が提出されて逮捕に至った、という事例があります。密室での出来事であるため事実の立証は双方にとって困難であり、相手方が当初から金銭目的で証拠を準備している例も見られます。正当な権利行使の範囲を超えた不当な金銭要求は恐喝罪(刑法249条)に当たり得る一方、経営者側が事実関係を見誤ったまま安易に対応すれば、かえって状況を悪化させます。やり取りを消去せず保全し、当事者同士で交渉せずに速やかに弁護士へ相談することが不可欠です。

(3)会社への波及 ― 期限の利益喪失と取引停止

経営者の逮捕は、代表者の身柄拘束による業務の停滞にとどまらず、報道された場合には、結果的に嫌疑が晴れたとしても、評判を懸念する取引先からの取引停止を招くことがあります。さらに、民法上の期限の利益喪失事由は破産手続開始決定や担保の滅失等に限られますが(民法137条)、金融機関との融資契約には信用状態の変化等を事由とする約定の期限の利益喪失条項が置かれているのが通常であり、条項の文言によっては、金融機関から一括返済を求められる事態も想定されます。借入れに依存して事業を回している会社にとっては、経営者個人の問題が会社の破綻に直結し得るのです。

(4)予防策

経営者個人としては、飲酒の影響下にある相手や地位の差がある相手と関係を持たないこと、資力を吹聴しないことが基本です。会社としては、代表者が職務を執行できなくなった場合の権限の代行体制、金融機関・取引先・報道への対応方針、融資契約における期限の利益喪失条項の内容の把握など、「経営者個人の有事」を想定した危機管理を平時から整えておくことが、従業員と取引先を守ることにつながります。

企業が点検すべき事項

  • ① 株主名簿を定期的に確認し、3分の1・過半数・3分の2の各ラインに照らした株主構成を経営者・家族・後継者が把握しているか
  • ② 経営者が株式を第三者に移転する場合に、会社支配や事業承継への影響を事前に検討する仕組みがあるか
  • ③ 遺言を含む事業承継計画を策定し、株式を経営の承継者に集中させる方針が定まっているか
  • ④ 会社の資金・資産が経営者の私的な関係に用いられていないか
  • ⑤ 共同創業者・中核人材との間で、法的地位・役割・報酬・株式の扱いを書面で合意しているか
  • ⑥ 退任・退職時の株式の譲渡義務と買取価格の算定方法、競業避止・勧誘禁止・秘密保持の条項を定めているか
  • ⑦ 株式が50対50など意思決定が膠着し得る構成になっていないか。なっている場合にデッドロック条項を定めているか
  • ⑧ 重要な情報について、秘密である旨の表示とアクセス権限の限定により秘密管理性を確保しているか
  • ⑨ 現場のマネジメントや顧客との関係が特定の個人に過度に依存していないか
  • ⑩ 代表者が職務を執行できなくなった場合の権限代行、金融機関・取引先・報道対応の方針を定め、融資契約の期限の利益喪失条項の内容を把握しているか

よくあるご質問

Q. 株主の持株比率が3分の1を超えると、会社にどのような影響がありますか。

A. 定款変更、事業譲渡、合併、解散などの特別決議は、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を要するため(会社法309条2項)、議決権の3分の1を超える株式を有する株主は単独でこれを否決できます。経営に関与しない第三者がこの比率の株式を持つと、会社の重要な意思決定が停止するおそれがあります。

Q. 経営者が生前に第三者へ贈与した株式を、相続人が取り戻すことはできますか。

A. 原則として困難です。相続開始前1年間の贈与や、遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与については、相続人は受贈者に遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できますが(民法1044条1項・1046条1項)、株式そのものの返還を求める制度ではありません。また、定款に基づく売渡請求(会社法174条)は相続等の一般承継による取得者が対象であり、生前贈与の受贈者には及びません。

Q. 退職した共同創業者が同じ事業を始めました。差し止めることはできますか。

A. 取締役在任中の競業には株主総会(取締役会)の承認が必要ですが(会社法356条1項1号・365条1項)、退任後の競業を一般的に禁止する規定はなく、合理的な範囲の競業避止の合意がなければ差止めは困難です。持ち出された情報が不正競争防止法上の営業秘密(同法2条6項)に当たれば差止め等を求め得ますが、秘密管理性が認められることが前提となります。

Q. 経営者が刑事事件の当事者となった場合、会社として最初に何をすべきですか。

A. 経営者個人の弁護と会社の対応を切り分け、代表者不在時の業務執行体制を確保したうえで、金融機関・取引先・従業員への説明方針を定めることが必要です。融資契約の期限の利益喪失条項の内容を確認し、報道対応も含めて早期に弁護士へ相談してください。

まとめ

3つの事例に共通するのは、関係が近く良好な時期ほど取り決めがおろそかになり、関係が崩れた時点では法的に打てる手が極めて限られるという点です。株式の帰属、共同経営者との合意、情報の管理、経営者個人の有事への備えは、いずれも平時であれば比較的低いコストで手当てできます。「自分だけは大丈夫」ではなく「大丈夫ではないかもしれない」という前提に立ち、自社の株主構成と契約関係を一度点検されることをお勧めします。

参考資料

関連コラム

本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

← コラム一覧へ戻る

株主構成の点検と事業承継計画の策定、種類株式・属人的定めの設計、共同創業者・役員との創業者間契約や競業避止・秘密保持条項の整備、営業秘密管理の体制づくり、経営者個人のトラブル発生時の危機対応と金融機関・取引先への対応のご相談を承っております。

電話 — 平日 10:30 – 17:00 03 - 6824 - 4639

メール でのお問い合わせは 24 時間受付