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シリーズAの投資契約で創業者が注意すべき重要条項

スタートアップがベンチャーキャピタル等から資金を調達する際には、投資契約株主間契約財産分配契約といった一連の契約を締結するのが一般的です。これらの契約には、創業者の経営の自由度や、将来のExit(M&Aや上場)における手取り額に大きく影響する条項が数多く含まれます。条件交渉に入る前に主要な論点を理解しておくことが、健全な資本政策の第一歩です。本コラムでは、シリーズA前後で特に注意したい重要条項を解説します。

優先株式(種類株式)の基本設計

近年の資金調達ラウンドでは、普通株式ではなく優先株式(種類株式)が用いられるのが一般的です。投資家は、普通株主に優先して残余財産の分配を受ける権利などを取得します。どのような優先内容を設計するかが、その後の各条項の前提となります。

投資契約を支える法制度 ― 会社法と金融商品取引法

優先株式は、会社法上の種類株式(会社法108条)として発行されます。剰余金の配当や残余財産の分配についての優先的な内容(同条1項1号・2号)、株主が会社に取得を請求できる取得請求権(同項5号)、一定の事由の発生により会社が取得できる取得条項(同項6号)、株主総会決議事項等についてのいわゆる拒否権(同項8号)などを組み合わせて設計し、その内容は定款に定める必要があります(同条2項)。定款変更には株主総会の特別決議(466条・309条2項11号)が必要であり、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある行為については種類株主総会の決議が求められる場合もあります(322条)。契約書に権利を書き込むだけでは足りず、契約・定款・登記の三者が整合して初めて設計どおりに機能する点が、投資契約実務の基本です。

また、投資家の事前承諾権は当事者間の契約上の合意(債権的な効力)にとどまるのに対し、拒否権付種類株式は会社法上の効力を持つ点で性質が異なります。同じ「拒否権」という言葉でも、違反した場合の効果(契約違反として損害賠償や株式買取請求の問題となるか、決議の効力自体が否定されるか)が大きく異なることを理解したうえで、どちらの形で定めるかを交渉することが重要です。

さらに、株式の発行は金融商品取引法の規律にも服します。株式の取得勧誘が同法上の「募集」(金融商品取引法2条3項)に該当する場合には、有価証券届出書等の開示規制が適用され得るため、実務上は勧誘の相手方を限定するいわゆる少人数私募等の枠内で調達を行うのが通常です。ラウンドを重ねて株主数が増えてきた場合や、株式投資型クラウドファンディング等を併用する場合には、適用関係を個別に確認する必要があります。

注意すべき主要条項

残余財産の優先分配(清算優先権)

会社の清算やExitの際に、投資家が投資額の何倍を優先的に回収できるか(1倍が一般的)、また優先分配後に普通株主と再度分配に参加するか(参加型/非参加型)を定めます。Exit時の分配額に直結する重要な条項です。

希薄化防止条項(アンチダイリューション)

次回ラウンドが前回より低い株価(ダウンラウンド)となった場合に、投資家の実質的な持株比率を調整する条項です。調整方法には「フルラチェット」と「加重平均」があり、創業者側の希薄化の程度が大きく変わります。

みなし清算条項

M&AによるExitを「清算」とみなし、清算優先権を適用する条項です。買収対価の分配方法に影響します。

取締役指名権・事前承諾権(拒否権)

投資家が取締役を指名する権利や、一定の重要事項(増資、重要な資産の処分、予算の決定など)について事前承諾権(拒否権)を持つ条項です。対象範囲が広すぎると、日常の経営判断にも影響しかねません。

先買権・共同売却権・強制売却権

株式譲渡に関する権利群です。先買権(他の株主が優先的に買い取る権利)、共同売却権(タグアロング)、強制売却権(ドラッグアロング)は、創業者自身の株式売却やExitの進め方にも影響します。

表明保証

会社や創業者が、財務・知的財産・労務などについて一定の事実を表明・保証する条項です。違反があった場合の補償責任の範囲を確認しておく必要があります。

創業者が意識すべき視点

  • 1回のラウンドだけでなく、複数回の調達を見据えた資本政策全体のなかで条件を評価する
  • 清算優先権や拒否権の範囲が、将来のExitや日常の経営判断を過度に制約しないかを確認する
  • 投資契約・株主間契約・定款など、関連書類の間で内容に矛盾がないかを確認する
投資契約の条項は一見定型的に見えても、その後の資金調達やExitに長期的な影響を及ぼします。ひな型をそのまま受け入れるのではなく、自社の状況と将来計画に照らして検討することが重要です。

典型的な失敗例と対策

創業者個人の株式買取義務を無限定に受け入れる

投資契約には、表明保証違反や重大な契約違反があった場合に、創業者個人が投資家の株式を買い取る義務(買取条項・買戻条項)が定められることがあります。発動事由が広く、価格の定めも投資額ベースとなっていると、事業がうまくいかなかった場合に創業者が個人資産では到底負担できない義務を負いかねません。発動事由を故意・重過失による重大な違反等に限定すること、対象となる違反の範囲や手続を明確にすることが交渉のポイントです。

事前承諾事項が広すぎて経営が停滞する

少額の支出や通常の採用まで事前承諾の対象とすると、日常の意思決定のたびに投資家への確認が必要となり、経営のスピードが失われます。また、ラウンドごとに異なる投資家と別個の契約を重ねると、承諾権者と対象事項が積み上がり、管理が困難になります。金額基準・重要性基準を設けて対象を絞り込むこと、後続ラウンドの際に契約を一本化して整理することが対策となります。

契約・定款・登記の不整合とシミュレーション不足

みなし清算条項を契約にのみ定めて定款に反映していない、優先分配の内容が定款と契約とで食い違っているといった不整合は、Exitの局面で深刻な紛争の火種となります。また、参加型・非参加型や優先倍率の違いが手取り額に与える影響は、実際に想定Exit金額での分配シミュレーション(ウォーターフォール計算)をしてみなければ実感しにくいものです。契約締結前に、関連書類の整合性確認と分配試算をセットで行うことをお勧めします。

契約締結前の実務チェックリスト

  • タームシート段階で、経済条件(バリュエーション・優先分配・参加型か否か)と支配条件(事前承諾・指名権)を区別して整理する
  • 希薄化防止条項の調整方式(加重平均か否か)と、ストックオプションプール等の例外の範囲を確認する
  • 投資契約・株主間契約・財産分配契約・定款・登記の相互整合性を確認する
  • 表明保証の対象範囲と、開示資料による除外(ディスクロージャー・スケジュール)の扱いを整理する
  • 創業者の専念義務・競業避止義務・株式譲渡制限の期間と範囲を確認する
  • 強制売却権(ドラッグアロング)の発動要件(賛成比率・最低対価等)を確認する
  • 想定Exit金額での分配シミュレーションを実施し、優先分配の影響を数値で把握する
  • 潜在株式(ストックオプション等)を含めた資本政策表を更新し、次回ラウンド後の持株比率を試算する

よくあるご質問

Q. 投資契約と株主間契約はどう違うのですか?

A. 投資契約は、当該ラウンドにおける出資の実行そのもの(払込金額、表明保証、払込みの前提条件など)を定める契約であり、株主間契約は、出資後の会社運営や株式の取扱い(事前承諾事項、取締役指名権、譲渡制限、情報提供義務など)を継続的に規律する契約です。残余財産やM&A対価の分配方法を定める財産分配契約が別に締結されることもあります。名称や書類の分け方は案件により異なりますが、全体を一体のパッケージとして検討する必要があります。

Q. 投資家から提示されたひな型の契約書は、どこまで交渉できるものですか?

A. 投資契約は定型的に見えても、優先分配の倍率や参加型か否か、事前承諾事項の範囲、買取条項の発動事由などは、案件ごとに実際に交渉されています。すべての条項を争うのではなく、自社の将来計画に照らして影響の大きい条項に優先順位をつけ、市場水準を踏まえた代替案を示して交渉することが現実的です。投資家との長期的な信頼関係を損なわない交渉の進め方も含めて、専門家に相談する価値のある場面です。

Q. ダウンラウンドになると創業者の持株比率はどうなりますか?

A. 前回より低い株価で新株を発行すること自体による希薄化に加え、希薄化防止条項が発動すると、既存投資家の優先株式の転換比率が調整され、創業者の持株比率はさらに低下します。フルラチェット方式は加重平均方式よりも創業者への影響が大きくなります。ダウンラウンドの局面では、条項の適用関係の確認とあわせて、既存投資家との調整(調整の一部放棄等)が交渉課題となることも少なくありません。

まとめ

シリーズAは、その後の成長と資本政策の方向性を定める重要なラウンドです。投資家との関係は長期にわたるため、条件交渉は対立ではなく、相互に納得できる着地点を探すプロセスでもあります。早い段階で専門家を交え、条項の意味と影響を正確に理解したうえで交渉に臨むことをお勧めします。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、専門家にご相談ください。

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