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フランチャイズ契約が紛争化しやすい構造的要因と法的規律 ― 公正取引委員会実態調査にみる入口・途中・出口の3段構造、中小小売商業振興法11条の法定開示書面、独占禁止法の優越的地位の濫用とフランチャイズ・ガイドライン(令和3年改正)、金沢地裁平成15年4月28日判決(情報提供義務違反)・セブン-イレブン見切り販売排除措置命令と東京高裁平成25年8月30日判決・大阪地裁令和4年6月23日判決(時短営業オーナーへの契約解除)、加盟希望者側と本部側の契約前の実務対応

フランチャイズ契約をめぐる紛争は、コンビニエンスストア、飲食、学習塾、買取店など業種を問わず継続的に発生しており、本部(フランチャイザー)と加盟者(フランチャイジー)の双方から相談が寄せられる分野です。一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の2024年度統計調査によれば、国内のフランチャイズは1,291チェーン、店舗数25万4,478店、売上高29兆2,826億円で、売上高は4年連続で増加しています。本部と加盟者という立場の異なる独立した事業者が、相当額の初期投資を伴う長期の継続的契約で結ばれる以上、紛争の母数が大きいこと自体は避けられませんが、紛争の発生箇所と原因には明確な傾向があり、その多くは契約締結前の段階で予防可能です。

本稿では、公正取引委員会が2020年に公表したコンビニエンスストア加盟店5万7,524店を対象とする実態調査の結果を手がかりに、①フランチャイズ契約の法的性質と紛争の3段構造、②中小小売商業振興法11条の法定開示書面および独占禁止法・フランチャイズ・ガイドラインによる規律、③入口・途中・出口それぞれの段階で争われた裁判例・審決例、④加盟希望者側および本部側が契約締結前に講じるべき実務対応を整理し、企業が点検すべき事項とFAQを示します。

1 フランチャイズ契約の法的性質と紛争の3段構造

(1)独立した事業者間の継続的契約であること

フランチャイズ契約は、本部が加盟者に対し、商標・商号等の使用と営業ノウハウの提供、継続的な経営指導を行い、加盟者がその対価として加盟金・ロイヤルティ等を支払う継続的契約です。法律上の特別の契約類型ではなく、本部と加盟者は対等・独立の事業者として契約を締結するものと位置づけられるため、労働契約における労働者保護や消費者契約における消費者保護のような、交渉力の格差を前提とした一般的な保護法制は存在しません。したがって、営業時間、仕入先、販売方法、契約期間、中途解約時の違約金、契約終了後の競業避止義務といった条項は、原則として契約書に記載されたとおりの効力を持ちます。後述の東大阪の事件で、契約所定の損害賠償金1,450万8,024円の支払いがそのまま命じられたのは、この原則の帰結です。

(2)公正取引委員会の実態調査にみる紛争の3段構造

公正取引委員会は令和2年9月2日、大手コンビニエンスストアチェーンの全加盟店5万7,524店を対象とするWebアンケート(回答1万2,093店・回答率21.0%)と本部8社等への聞取りによる実態調査報告書を公表しました。同報告書の数値から、フランチャイズ紛争の発生箇所は次の3段階に整理できます。

第1に、入口(加盟前の情報提供)です。本部から示された予想売上げ・予想収益の額(モデル収益・収益シミュレーションを含む)について、「加盟前に受けた説明よりも実際の状況の方が悪かった」との回答が41.1%、「説明を受けていない」が18.4%でした。差異が生じた理由(複数回答)は、来店客数の過大見積り63.3%、人件費の過少見積り47.0%、廃棄ロス・棚卸ロス等の過少見積り43.8%であり、収支予測の前提となる3つの変数に集中しています。加盟希望者の判断材料が本部提供の資料にほぼ限られるという情報の非対称性が、紛争の根本原因です。

第2に、途中(加盟後の取引関係)です。本部から強く推奨され意に反して仕入れている商品が「ある」との回答が51.1%、77.1%の店舗が深夜帯は赤字と回答し、66.8%のオーナーが時短営業への切替えや実験を希望していました。1次商圏内に同一チェーンの店舗が追加出店した際に「本部からは何も提案されなかった」との回答が62.3%にのぼり、本部への満足度は「あまり満足していない」「全く満足していない」の合計が44.4%でした。

第3に、出口(契約の終了)です。経営不振を理由に撤退しようとしても、契約期間中の中途解約には違約金が、契約終了後には競業避止義務と店舗の明渡義務が課されます。入口で情報が偏り、途中で不満が蓄積し、出口で違約金と競業避止が負担としてのしかかる。この3段構造が、フランチャイズ契約が訴訟に至りやすい構造的要因です。

2 フランチャイズ取引を規律する法的枠組み

(1)中小小売商業振興法11条 ― 法定開示書面の交付・説明義務

中小小売商業振興法11条1項は、主として中小小売商業者(飲食業を含む小売業者)を加盟者とする連鎖化事業のうち、約款に加盟者に特定の商標・商号等を使用させる旨および加盟に際し加盟金・保証金等を徴収する旨の定めがあるもの(特定連鎖化事業)を行う者に対し、加盟しようとする者と契約を締結しようとするときは、あらかじめ、①加盟に際し徴収する加盟金・保証金等に関する事項、②商品の販売条件、③経営の指導に関する事項、④使用させる商標・商号等に関する事項、⑤契約の期間並びに更新・解除に関する事項、⑥経済産業省令で定める事項を記載した書面を交付し、その記載事項について説明することを義務づけています。同法施行規則10条が定める⑥の事項は18項目にわたり、本部の直近3事業年度の貸借対照表・損益計算書、加盟店舗数の推移、立地条件が類似する加盟店の直近3事業年度の収支、直近5事業年度に本部が加盟者に対して提起した訴訟および加盟者から提起された訴訟の件数、テリトリー権の有無、契約期間中・終了後の競業禁止等の規定の有無と内容、契約違反時の違約金の額または算定方法などが含まれます。施行規則11条は各事項について最低限記載すべき内容を定め、たとえば契約の解除については「契約解除によつて生じる損害賠償金の額又は算定方法その他の義務の内容」の記載を要求しています。

留意すべきは適用範囲です。同法の対象は小売業・飲食業のフランチャイズに限られ、学習塾、フィットネス、買取店、美容、介護等のサービス業フランチャイズには法定開示書面の交付義務がありません。中小企業庁も、対象外の場合であっても、公正取引委員会のガイドラインが示す開示項目に沿って重要事項を事前に書面で開示・説明することが重要であるとしています。

(2)独占禁止法とフランチャイズ・ガイドライン

独占禁止法19条は事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止し、同法2条9項5号は、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、継続して取引する相手方に取引対象以外の商品・役務を購入させること、経済上の利益を提供させること、取引の条件を設定・変更し又は取引を実施することなどを優越的地位の濫用として定めています。違反行為に対して公正取引委員会は排除措置命令(20条)を発することができ、排除措置命令等が確定した場合、被害者は無過失責任である25条に基づく損害賠償請求が可能です。

公正取引委員会は「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」(平成14年4月24日策定、令和3年4月28日最終改正)において、本部と加盟者の取引のどのような行為が独占禁止法上問題となるかを具体化しています。加盟者募集に関しては、予想売上げ・予想収益を提示する場合には「類似した環境にある既存店舗の実績等根拠ある事実,合理的な算定方法等に基づくことが必要であり,また,本部は,加盟希望者に,これらの根拠となる事実,算定方法等を示す必要がある」とし、既存店舗の平均値等から作成したモデル収益・収益シミュレーションを提示する場合は、厳密な意味での予想売上げではないことが加盟希望者に十分理解されるよう対応する必要があるとしています。重要事項について十分な開示を行わず、虚偽・誇大な開示により実際よりも著しく優良・有利であると誤認させる場合は、ぎまん的顧客誘引(一般指定8項)に該当します。

契約締結後の取引に関しては、令和3年改正により、ロイヤルティ算定の基礎となる売上総利益に廃棄ロス原価が算入されない方式のもとで正当な理由なく見切り販売を制限し廃棄を余儀なくさせること、契約期間中でも合意すれば営業時間の短縮が認められるとしているにもかかわらず、24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由に時短を希望する加盟者との協議を正当な理由なく一方的に拒絶すること、ドミナント出店を行わない旨の事前の取決めに反してドミナント出店を行うこと、本部の商権の維持やノウハウの保護に必要な範囲を超える地域・期間・内容の競業禁止義務を課すことなどが、優越的地位の濫用に該当し得る行為として例示されました。また、契約全体としての評価要素として、加盟者に解約権を与えず又は解約の場合に高額の違約金を課していないか、契約期間が投資回収に足る期間を著しく超えていないかといった点が挙げられています。

(3)信義則上の情報提供義務

法定開示書面の対象外であっても、また開示義務の違反が直ちに私法上の効果を生じさせるものでなくても、裁判例は、本部が加盟希望者に売上予測等を提示する以上、信義則上、客観的かつ適正な情報を提供すべき義務を負うとし、その違反を不法行為または契約締結上の過失として損害賠償責任の根拠と認めています。次章の金沢地裁判決がその典型です。もっとも、加盟者も独立の事業者として自らの判断で加盟した以上、認められる賠償額は投下資本の全額には及ばず、大幅に限定されるのが実情です。

3 裁判例・審決例 ― 入口・途中・出口

(1)入口:金沢地裁平成15年4月28日判決 ― 売上予測の情報提供義務違反

コンビニエンスストア本部の店舗開発担当者が、金沢市内の出店候補地について商圏内の世帯数・人口・通行量等を所定の採点方式で評価し、初年度1億300万円の売上予測値を記載した「出店計画地調査書」を作成し、これを基礎とする利益計画書(初年度年商1億950万円・営業利益379万5,000円等)を加盟希望者に示して加盟契約を締結させたところ、実際の売上が予測を大きく下回り閉店に至った事案です。加盟者側は3,228万4,583円の損害賠償を請求しました。

裁判所は、本部は加盟希望者に対し適正な売上予測を示す信義則上の義務を負っていたとし、利益計画書の欄外に「この加盟店利益計画は参考に作成したものであり、本書内容を当社が保証するものではありません」との記載があっても、それ自体は当然のことであって義務を免れる理由にはならないと述べたうえで、売上予測が適正でなかったことについて本部に過失がなかったことが立証されない限り過失を推認すべきであるとして、本部の情報提供義務違反を認めました。もっとも、因果関係のある損害として認容されたのは133万9,000円にとどまり、請求額の約4%です。本部の情報提供義務違反が認められた事案であっても、加盟者が独立の事業者として自ら加盟を判断した責任は免れず、投下資本の回収を裁判に期待することは現実的でないことを示す事例です。

(2)途中:公正取引委員会平成21年6月22日排除措置命令と東京高裁平成25年8月30日判決 ― 見切り販売の制限

公正取引委員会は平成21年6月22日、株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対し、消費期限が迫ったデイリー商品の見切り販売を行おうとする加盟者に対して見切り販売の取りやめを余儀なくさせ、加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせていた行為が、優越的地位の濫用(当時の一般指定14項4号)として独占禁止法19条に違反するとして、排除措置命令(平成21年(措)第8号)を発しました。同命令は、行為の取りやめと取締役会決議、加盟者・従業員への周知、独占禁止法遵守の行動指針の改定、見切り販売の方法に関する資料の作成、定期的な研修と監査等を命じています。

排除措置命令の確定後、加盟店オーナー4名が独占禁止法25条に基づき本部に損害賠償を請求した事件で、東京高裁平成25年8月30日判決(平成21年(ワ)第5号)は、本部の経営相談員らの「見切り販売はできない」旨の言動等は加盟店オーナーの有する商品の価格決定権の行使を妨げ見切り販売の取りやめを余儀なくさせたものとして排除措置命令にいう違反行為に当たるとし、加盟店オーナーらは本部との取引を継続できなくなれば各店舗の経営上大きな支障を来すため本部からの要請に従わざるを得ない立場にあることから本部の取引上の地位は優越しており、その地位を利用した見切り販売の妨害行為は正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えたものであると認定して、損害賠償請求を一部認容しました。行政処分に続いて民事の損害賠償責任まで認められた、加盟者側が勝訴した代表例です。

(3)出口:大阪地裁令和4年6月23日判決 ― 時短営業オーナーに対する契約解除

大阪府東大阪市でコンビニエンスストアを経営していた加盟者が、平成31年2月1日、人手不足を理由に午前1時から午前6時までの営業を休止する時短営業を開始したところ、本部は同日、時短営業が加盟店基本契約に違反すること、および利用客に対する発言・態度について平成28年度56件・平成29年度70件・平成30年度56件の苦情が寄せられておりその内容・件数が異常であることを指摘して是正を求める通知書を交付しました。加盟者はその後、平成31年4月から令和元年11月にかけてツイッターで本部に関する投稿を繰り返し、本部は令和元年12月20日、異常な顧客対応と各投稿が契約所定の解除事由に該当するとして10日以内に信頼関係を回復する措置を講じるよう催告したうえ、同月31日に契約を解除し、建物の引渡しと契約所定の損害賠償金の支払いを求めて提訴しました。加盟者側は、解除は時短営業に対する意趣返しであり優越的地位の濫用に当たると主張して、契約上の地位確認等を求める反対の訴えを提起しました。

大阪地裁は、本件店舗に対する苦情の申立ては全国平均(1店舗当たり年4.68件)の12倍以上という異常な割合であり、加盟者は本部からの繰り返しの是正指示に応じず、催告後も信頼関係の回復に努めるどころか催告書記載の解除事由とは異なる事実を述べるなど信頼関係を徹底的に破壊する措置をとり続けたとして、催告解除時点で両者の信頼関係は回復不可能な程度に破壊されていたと認定し、解除を有効と判断しました。そのうえで、加盟者に対し、建物の引渡し、契約所定の損害賠償金1,450万8,024円およびこれに対する遅延損害金、解除日の翌日以降引渡済みまで1日当たり11万0,321円の支払いを命じ、加盟者側の請求はいずれも棄却しました。解除が時短営業を理由とする優越的地位の濫用であるとの主張については、解除は異常な顧客対応等を理由とするものであって時短営業を理由とするものではないとして排斥しています。なお、報道によれば、本判決は控訴審(大阪高裁令和5年4月27日判決)および上告審(最高裁令和6年4月17日決定)を経て確定しています。

(4)裁判例から導かれる示唆

第1に、契約条項は力関係にかかわらず原則としてそのまま効力を持ちます。契約所定の損害賠償金は、公序良俗違反等の特段の事情がない限り減額されずに認容されます。第2に、本部の情報提供義務違反や優越的地位の濫用が認められた事案でも、加盟者に認められる賠償は限定的であり、加盟者が独立の事業者として負う自己責任は免れません。第3に、フランチャイズ紛争は売上や営業時間といった経済的な問題を発端としつつ、最終的には加盟者の接客態度やSNS投稿、本部の是正要請への対応といった当事者の行為態様と信頼関係の破壊の有無によって決着します。感情的対立が契約解除の決定打となるという構造を、本部側・加盟者側の双方が理解しておく必要があります。

4 加盟希望者側の実務対応

(1)費用面 ― 収支予測を「根拠」で検証する

本部が提示する収支シミュレーションは、金額ではなく前提条件を検証します。来店客数は何店舗の実績からどのような方法で算出されたのか、人件費は現在の最低賃金と深夜割増を織り込んでいるか、廃棄ロス・棚卸ロスは何%で見込まれているか。公正取引委員会の調査で説明と実態の差異の原因とされたのはこの3つであり、ガイドライン上、本部は予想売上げの根拠となる事実と算定方法を示す義務があります。根拠の説明を求めて回答できない本部は、加盟候補から除外すべきです。

(2)契約面 ― 法定開示書面と契約書の4条項

小売・飲食業のフランチャイズであれば、中小小売商業振興法11条に基づく法定開示書面の交付と説明を受け、特に類似立地店舗の収支、加盟店舗数の推移(解除・非更新の件数)、直近5事業年度の訴訟件数、違約金の額・算定方法、競業禁止の内容を確認します。対象外業種では契約書そのものの精査が唯一の手段となります。最低限確認すべき条項は、①契約期間と中途解約の条件・違約金の額と算定方法、②契約終了後の競業避止義務の期間・地域・内容、③テリトリー(近隣への同一チェーンの出店可否と出店時の配慮)、④営業時間・仕入れ・販売方法に関する本部の指示権の範囲の4つであり、いずれも前記の裁判例・審決例で現実に争点となった事項です。

(3)本部の体制 ― 財務・スーパーバイザー・既存加盟店

法定開示書面または決算書で本部の財務状況を確認し、スーパーバイザーの担当店舗数、研修・経営指導の具体的内容と頻度、既存加盟店への直接のヒアリングの可否を確認します。加盟後のトラブルについては、まずスーパーバイザー、次に本部、それでも解決しない場合は業界団体の相談窓口や公正取引委員会の地方事務所、弁護士へという順序で対応します。一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会のフランチャイズ相談センターには2025年度に186件の相談が寄せられ、うち139件が本部と加盟店間のトラブルで、主な相談内容は「契約終了・更新・解除」「解約」とされています。

5 本部側の実務対応

(1)予想売上げの根拠と算定方法の書面化

予想売上げ・モデル収益を提示する場合は、根拠となる既存店舗の実績と算定方法を書面で示し、モデル収益であることを明示します。「参考値であり保証しない」との注記のみで義務を免れることができないことは金沢地裁判決が示すとおりであり、公正取引委員会の調査報告書も、経営経験のない加盟希望者は「参考」と説明されても予想として受け止める傾向を指摘しています。

(2)法定開示書面と加盟契約書の整備

対象業種であれば施行規則10条・11条の全項目を網羅した法定開示書面を整備し、対象外業種であってもガイドラインの開示項目に沿った事前開示書面を作成します。加盟契約書は、ロイヤルティの算定方法(売上総利益の定義と廃棄ロス原価の取扱いを含む)、営業時間と時短営業の協議手続、追加出店時の配慮、中途解約の条件と違約金の算定根拠、契約終了後の競業避止義務の範囲、解除事由と催告手続を明確に規定します。他社の契約書を流用した結果、自社のロイヤルティの仕組みと違約金の計算が整合せず、紛争時に条項が機能しない例は実務上少なくありません。

(3)違約金・競業避止義務を必要な範囲に限定する

中途解約の違約金は算定根拠を明確にし、投資回収と本部の損失補填に必要な範囲にとどめます。過大な違約金は裁判で減額されるリスクがあるだけでなく、加盟者の反発を招きSNS等での紛争の公然化を誘発します。競業避止義務も、商権の維持とノウハウ保護に必要な地域・期間・内容に限定します。

(4)協議窓口とスーパーバイザー体制の構築

時短営業や追加出店に関する協議の窓口と手続を契約上および運用上整備し、スーパーバイザーの担当店舗数を適正に保ちます。公正取引委員会の調査が示すとおり、加盟者の不満の多くは「相談したのに何も返ってこなかった」ことに起因し、それが訴訟に転化します。

(5)本部構築の順序と顧問弁護士の関与

本部を立ち上げる際は、①社長が不在でも別の場所・別の人員で同等の利益を再現できることを直営店で証明し、②チェーン名称の商標登録を完了し、③マニュアル・研修・スーパーバイザー体制を整備したうえで、④法定開示書面と加盟契約書を作成するという順序が重要です。中身が固まらない段階で契約書だけ作成しても機能しません。他方、契約書は本部の生命線であり、何十店・何百店と同一のものを使用するため、1か所の不備がそのまま多数の紛争に転化します。本部構築時の契約書作成と、店舗数の増加やガイドライン改正に応じた定期的な見直しには、顧問弁護士の継続的な関与が不可欠です。

企業が点検すべき事項

  1. (加盟側)本部提示の収支シミュレーションについて、来店客数・人件費・廃棄ロスの算出根拠と対象店舗の実績を書面で確認したか。
  2. (加盟側)小売・飲食業であれば中小小売商業振興法11条の法定開示書面の交付と説明を受け、類似立地店舗の収支・解除件数・訴訟件数を確認したか。対象外業種であれば、ガイドラインの開示項目に沿った事前開示を求めたか。
  3. (加盟側)契約期間と中途解約の条件、違約金の額と算定方法を確認し、撤退時の負担額を試算したか。
  4. (加盟側)契約終了後の競業避止義務の期間・地域・内容、テリトリーの有無と追加出店時の配慮、営業時間・仕入れに関する本部の指示権の範囲を確認したか。
  5. (加盟側)本部の財務状況、スーパーバイザーの担当店舗数、既存加盟店への直接ヒアリングの可否を確認し、人材管理を含む店舗経営の責任を自ら負う覚悟があるか。
  6. (本部側)予想売上げ・モデル収益の提示にあたり、根拠となる既存店舗の実績と算定方法を書面で示し、モデル収益である旨を明示しているか。
  7. (本部側)法定開示書面が施行規則10条・11条の全項目を網羅しているか。対象外業種でもガイドラインの開示項目に沿った事前開示書面を整備しているか。
  8. (本部側)加盟契約書のロイヤルティ算定方法、時短営業の協議手続、追加出店時の配慮、解除事由と催告手続が自社の運用と整合しているか。他社契約書の流用になっていないか。
  9. (本部側)中途解約の違約金と契約終了後の競業避止義務が、投資回収・商権維持・ノウハウ保護に必要な範囲に限定されているか。
  10. (本部側)時短営業・追加出店等に関する協議窓口とスーパーバイザー体制が整備され、加盟者からの相談に対する対応記録を残しているか。契約書の定期的な法的レビューの体制があるか。

よくあるご質問

Q. 本部の売上予測を信じて加盟しましたが、実際の売上は半分以下です。本部に損害賠償を請求できますか。

A. 本部が売上予測を示す以上、信義則上、客観的かつ適正な予測を示す義務を負うとするのが裁判例の立場であり、予測の算定根拠や方法が合理性を欠いていた場合には、情報提供義務違反を理由とする損害賠償請求が認められる余地があります。「参考値であり保証しない」との注記があっても、それだけで本部が義務を免れるわけではありません。ただし、金沢地裁平成15年4月28日判決では、情報提供義務違反が認められながら、認容額は請求額約3,228万円に対し133万9,000円にとどまりました。加盟者は独立の事業者として自ら加盟を判断した責任を負うため、投下資本の全額回収を期待することは現実的ではなく、予測の算定根拠や説明内容を示す資料・記録の有無が結論を左右します。

Q. 当社は学習塾のフランチャイズ本部です。中小小売商業振興法の法定開示書面は必要ですか。

A. 同法11条の対象は、主として中小小売商業者(飲食業を含む小売業者)を加盟者とする特定連鎖化事業に限られるため、学習塾等のサービス業フランチャイズには法律上の交付義務はありません。しかし、公正取引委員会のガイドラインは業種を問わず本部が契約前に開示することが望ましい項目(加盟後の商品等の供給条件、経営指導の内容、使用させる商標、ロイヤルティの額・算定方法、契約期間・更新・解除の条件、テリトリー、競業禁止等)を示しており、重要事項について十分な開示を行わず実際よりも著しく優良・有利と誤認させる勧誘はぎまん的顧客誘引として独占禁止法上の問題となります。また、開示が不十分なまま加盟者の売上不振が生じれば、信義則上の情報提供義務違反を理由とする損害賠償請求を受けるリスクがあります。法定開示書面に準じた事前開示書面を整備することが実務上の標準です。

Q. 加盟店が契約に反して深夜営業をやめました。契約を解除できますか。

A. 契約書に24時間営業の義務が定められていれば、時短営業は形式的には契約違反に当たります。しかし、公正取引委員会のガイドラインは、24時間営業等が損益の悪化を招いていることを理由に時短営業を希望する加盟者に対し、正当な理由なく協議を一方的に拒絶し従前の営業時間を受け入れさせることを優越的地位の濫用に該当し得る行為として例示しており、協議に応じないまま直ちに解除に踏み切ることには独占禁止法上のリスクがあります。大阪地裁令和4年6月23日判決で解除が有効とされたのは、時短営業そのものではなく、全国平均の12倍以上の苦情を招いた異常な顧客対応とSNS投稿について繰り返し是正を求めても改善されず、信頼関係が回復不可能な程度に破壊されたと認定されたためです。時短営業の申入れを受けた本部は、まず協議の場を設け、人手不足の状況や損益を確認したうえで対応を検討し、その経過を記録しておくことが必要です。

Q. フランチャイズ本部を立ち上げる予定です。契約書はいつ、どのように準備すればよいですか。

A. 契約書の作成は本部構築の最終段階に位置づけるべきです。まず直営店で社長不在でも別の人員が同等の利益を再現できることを証明し、チェーン名称の商標登録を済ませ、マニュアル・研修・スーパーバイザー体制を整備したうえで、法定開示書面(対象外業種でも準じた開示書面)と加盟契約書を作成します。契約書では、ロイヤルティの算定方法と廃棄ロス原価の取扱い、営業時間と時短営業の協議手続、追加出店時の配慮、中途解約の違約金の算定根拠、契約終了後の競業避止義務の範囲、解除事由と催告手続を自社の運用と整合させて定めます。契約書は多数の加盟店に同一のものを使用するため、1か所の不備が多数の紛争に直結します。他社契約書の流用は避け、店舗数の増加やガイドライン改正に応じて定期的に見直す体制を、顧問弁護士とともに構築してください。

まとめ

フランチャイズ契約は本部と加盟者という独立した事業者間の継続的契約であり、契約条項は力関係にかかわらず原則としてそのまま効力を持ちます。公正取引委員会の実態調査が示すとおり、紛争は入口(加盟前の説明と実態の乖離・41.1%)、途中(意に反する仕入れ51.1%・本部への不満44.4%)、出口(違約金・競業避止・店舗明渡し)の3段構造で発生し、その根底には情報の非対称性があります。これを規律するのが中小小売商業振興法11条の法定開示書面、独占禁止法の優越的地位の濫用規制とフランチャイズ・ガイドライン、判例法理としての信義則上の情報提供義務ですが、裁判例は、本部が情報提供義務違反や優越的地位の濫用で敗訴する場合でも加盟者への賠償は限定的であること、他方で契約所定の損害賠償金は加盟者にそのまま課されること、そして紛争の決着は当事者の行為態様と信頼関係の破壊の有無によることを示しています。加盟希望者は収支予測の根拠、法定開示書面と契約書の4条項、本部の体制を契約前に検証し、本部は予想売上げの根拠の書面化、開示書面と契約書の整備、違約金・競業避止の限定、協議窓口の構築をその裏返しとして整えることが求められます。当事務所では、加盟希望者に対する加盟契約書・開示書面の事前チェック、本部に対する法定開示書面・加盟契約書の作成と既存契約書の見直し、加盟者との協議・契約解除・訴訟対応まで、顧問契約を通じて継続的に支援しています。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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