健康・ヘルスケア関連の製品やアプリの開発が活発になるなか、その製品が医薬品医療機器等法(薬機法)上の「医療機器」に該当するかは、事業設計を左右する重要な分岐点です。医療機器に該当すれば、製造販売業の許可や、品目ごとの承認・認証・届出といった規制への対応が必要になります。一方、該当しなければ一般的な健康機器・雑貨等として扱える場合があります。判断を誤り、本来必要な手続を経ずに販売すると、無承認医療機器の販売として法令違反となるおそれがあります。本コラムでは、医療機器該当性の判断枠組みを、弁護士・医師の視点から整理します。
薬機法上の「医療機器」とは
薬機法上、医療機器は、人または動物の疾病の診断・治療・予防に使用されること、または身体の構造・機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等であって、政令で定めるものとされています。ポイントは、(1)「使用目的」(疾病の診断・治療・予防、または身体の構造・機能への影響)と、(2) 政令により医療機器として指定されていること、の2点です。
条文を確認すると、薬機法2条4項は、医療機器を「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるもの」と定義しています。この「機械器具等」にはプログラム(ソフトウェア)およびこれを記録した記録媒体が含まれており、単体のアプリも定義上は医療機器となり得ます。また、薬機法2条5項から7項は、不具合が生じた場合の人体へのリスクの程度に応じて、医療機器を高度管理医療機器・管理医療機器・一般医療機器に区分しており、この区分(クラス分類)が、後述する承認・認証・届出のいずれの手続が必要かを決定します。
該当性判断のポイント
「使用目的」が決め手になる
医療機器該当性は、製品の構造や機能だけで決まるわけではありません。表示・広告・説明資料などから客観的に認められる使用目的(標榜する効能・用途)が重要な判断要素となります。同じような装置であっても、疾病の治療や予防を標榜すれば医療機器に該当し得る一方、健康増進やリラクゼーションを目的とするにとどまれば非該当と整理される場合があります。
プログラム医療機器(SaMD)
単体のソフトウェアやアプリであっても、疾病の診断・治療等に用いられ、リスクに応じて「医療機器プログラム」として規制対象となり得ます。診断の補助や治療方針の決定支援を行うものは該当する可能性が高く、一般的な健康管理・記録にとどまるものは非該当と整理されることが多いといえます。
プログラムが規制対象に位置付けられたのは平成25年の薬事法改正(薬機法への改称時)からであり、薬機法2条13項は、医療機器のうちプログラムであるものを「医療機器プログラム」と定義しています。ただし、機能の障害等が生じた場合でも人の生命・健康に影響を与えるおそれがほとんどないもの(一般医療機器・クラスⅠ相当のプログラム)は、政令により医療機器の範囲から除外されています。実務では、厚生労働省の「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」(令和3年3月31日付け通知。その後改正)が判断の出発点となります。同ガイドラインには、該当・非該当の考え方に加えて具体例が多数掲載されており、自社製品と照合することで一次的な整理が可能です。
判断に迷う場合
グレーゾーンの製品については、厚生労働省・PMDAの示す考え方や、都道府県の薬務担当窓口への相談、関連する通知・ガイドラインの確認が有効です。事業の予見可能性を高めるため、グレーゾーン解消制度などの活用も選択肢となります。
医療機器に該当する場合の主な規制
医療機器に該当すると判断された場合、事業者には概ね次の規制対応が求められます。いずれも準備に相応の期間とコストを要するため、事業計画の初期段階から織り込んでおく必要があります。
- 品目ごとの手続 ― 一般医療機器は製造販売の届出(薬機法23条の2の12)、管理医療機器のうち認証基準が定められたものは登録認証機関の認証(薬機法23条の2の23)、高度管理医療機器等は厚生労働大臣の承認(薬機法23条の2の5)が必要です
- 業態の許可・登録 ― 製造販売業の許可(薬機法23条の2)、製造業の登録(薬機法23条の2の3)が必要です
- 品質管理・安全管理体制 ― QMS省令に基づく製造管理・品質管理、GVP省令に基づく製造販売後安全管理の体制整備が求められます
- 広告規制 ― 名称・製造方法・効能効果等に関する虚偽・誇大広告の禁止(薬機法66条)、承認前の医療機器の広告の禁止(薬機法68条)が適用されます
医療機器該当性は「何を目的として、どう表示・広告するか」で結論が変わります。製品の設計と同時に、表示・広告の作り方を検討することが重要です。
該当性判断を誤った場合のリスク
医療機器に該当する製品を、必要な許可・承認等を経ないまま製造販売・広告した場合のリスクは軽視できません。
- 行政上の措置 ― 廃棄・回収命令(薬機法70条)、改善命令(薬機法72条)、許可の取消し・業務停止命令(薬機法75条)などの対象となり得ます
- 刑事罰 ― 無許可での製造販売業の営業や無承認医療機器の製造販売には3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金(併科あり)が、虚偽・誇大広告(薬機法66条)や承認前広告(薬機法68条)の違反には2年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金(併科あり)が定められています
- 課徴金 ― 医薬品・医療機器等の虚偽・誇大広告については、令和元年薬機法改正により課徴金制度が導入されており、対象期間中の売上額の4.5%の課徴金納付命令を受けるおそれがあります(薬機法75条の5の2)
- 民事責任・事業上の影響 ― 取引先や利用者との関係での契約解除・損害賠償のほか、アプリストアからの配信停止、資金調達や上場審査への影響など、事業継続そのものに関わる損失につながり得ます
事業化前の実務チェックリスト
- 製品・アプリの使用目的を整理し、標榜したい効能・効果を書き出して該当性を検討する
- ウェブサイト・アプリストアの説明文・広告・営業資料の表現が、疾病の診断・治療・予防を示唆していないか確認する
- プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインの具体例と自社製品を照合する
- 該当し得る場合は、クラス分類の見当を付け、必要な手続(届出・認証・承認)と業許可・登録の要否を特定する
- 判断に迷う場合は、都道府県薬務主管課への該当性照会やグレーゾーン解消制度の活用を検討する
- 非該当と整理して販売する場合も、発売後の機能追加や広告表現の変更で結論が変わり得るため、継続的なチェック体制を設ける
よくあるご質問
Q. 健康管理アプリやフィットネスアプリも薬機法上の医療機器に該当しますか?
A. 日常的な健康管理や運動・体重・睡眠の記録にとどまるアプリは、疾病の診断・治療・予防を目的としないため、一般に医療機器プログラムには該当しないと整理されています。もっとも、測定データをもとに疾病のリスクを判定する、診断や治療方針の決定を支援するといった機能を持つ場合は該当し得ます。機能そのものに加え、アプリストアの説明文や広告で何を標榜しているかも判断要素となるため、表示内容を含めた確認が必要です。
Q. 医療機器に該当するかどうか判断に迷う場合、どこに相談すればよいですか?
A. まず厚生労働省の通知やプログラムの医療機器該当性に関するガイドラインに当てはめて社内で整理したうえで、都道府県の薬務主管課に該当性の照会を行うのが一般的です。新規性の高いビジネスモデルについては、産業競争力強化法に基づくグレーゾーン解消制度を利用して、規制の適用の有無について国の見解を得る方法もあります。照会にあたっては、使用目的・仕様・表示物を整理した資料の準備が重要です。
Q. 医療機器に該当する製品を承認や届出なしに販売した場合、どのような処分を受けますか?
A. 必要な製造販売業の許可や品目ごとの承認等を経ずに医療機器を販売した場合、行政指導や廃棄・回収命令等の対象となるほか、無許可での製造販売や無承認医療機器の製造販売には3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金(併科あり)という罰則が定められています。また、承認前の医療機器の広告も薬機法68条で禁止されており、違反には罰則があります。故意でなくても違反は成立し得るため、販売開始前の該当性確認が不可欠です。
まとめ
医療機器該当性は、使用目的が鍵を握り、製品の表示・広告の作り方が結論を左右します。事業の初期段階で該当性を見極めておくことが、後の手戻りや法令違反のリスクを避けるうえで重要です。当事務所では、医師免許を持つ弁護士が、医学的知見と規制の双方を踏まえて、製品の該当性判断から表示・広告の検討まで一貫して支援します。
参考資料
- 医薬品医療機器等法(薬機法)(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省 医薬品・医療機器
- 厚生労働省「プログラムの医療機器該当性に関するガイドラインについて」(令和3年3月31日付け通知)
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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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