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MS法人(メディカルサービス法人)を活用する際の留意点

医療機関の経営において、しばしば登場するのが「MS法人(メディカルサービス法人)」です。医療法人の周辺業務を担い、経営の効率化や事業承継に役立つ一方、設計や運用を誤ると、医療法人の非営利性に反すると判断されたり、税務上のリスクが生じたりするおそれがあります。本コラムでは、MS法人を活用する際の法務上の留意点を、弁護士・医師の視点から整理します。

MS法人とは

MS法人とは、医療法人や医療機関に対して、医療行為以外のサービスを提供する一般の営利法人(株式会社・合同会社等)を指す通称です。法令上の正式な類型ではありません。医療法人は非営利性が求められ、剰余金の配当が禁止されているほか、行える業務の範囲にも制約があります。そこで、収益事業や周辺業務を切り出す受け皿として、MS法人が活用されることがあります。

前提となるのが、医療法が定める医療の非営利原則です。医療法7条は、営利を目的として病院・診療所を開設しようとする者に対しては開設許可を与えないことができると定め、医療法54条は「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と明記しています。また、医療法人が行える業務は、本来業務である病院・診療所等の開設・運営と、定款の定めに従った附帯業務(医療法42条)等に限られています。こうした制約の外側にある業務の受け皿として、MS法人が用いられるのです。

具体的には、次のような業務をMS法人が担うことがあります。

  • 医薬品・診療材料などの仕入れ・販売
  • 医療機器・備品のリース、不動産の賃貸
  • 人材の採用・労務管理、給与計算などの事務受託
  • 経営コンサルティング・広報などの周辺業務

MS法人を活用するメリット

  • 周辺業務を専門化・効率化し、医療に専念できる体制を整えられる
  • 医療法人では行いにくい収益事業の受け皿となる
  • 資産管理や事業承継の選択肢が広がる

注意すべき法務ポイント

取引条件の適正性(非営利性との関係)

最も重要なのが、医療法人とMS法人との取引条件です。医療法人からMS法人へ不当に利益を移転するような取引(実態に見合わない高額な賃料・委託料など)は、医療法人の非営利性に反すると判断されるおそれがあります。取引価格・条件は、第三者間の取引と比べて経済的合理性のある水準とする必要があります。

法的な根拠は医療法54条です。同条が禁止する剰余金の配当には、形式的な配当だけでなく、実態を伴わない取引を通じた実質的な利益移転も含まれると解されています。さらに、平成27年改正医療法により、医療法人は、事業報告書等に加えて、理事長の親族が経営する法人など一定の「関係事業者」との取引の状況に関する報告書を作成し(医療法51条1項)、都道府県知事に届け出ること(医療法52条)が義務付けられました。MS法人との取引は、この報告を通じて行政の目に触れることを前提に設計する必要があります。

利益相反・関係者間取引

医療法人の理事長やその親族が、MS法人の役員や株主を兼ねるケースは少なくありません。この場合、利益相反取引として理事会の承認などの手続が必要となり、取引条件の適正性についても説明できるようにしておく必要があります。

医療法上も、理事と医療法人との利益が相反する事項については当該理事は代理権を有せず、特別代理人の選任が必要とされています。また、厚生労働省の通知(医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について)は、医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人の役職員と医療機関の開設者・役員との兼務を原則として認めない立場を示しています。理事長の親族がMS法人の代表を務めるといった体制をとる場合には、都道府県の運用を確認したうえで、利益相反手続の履践と取引の透明性確保が不可欠です。

行政の指導・監査

都道府県による医療法人の指導監査では、MS法人との取引はよく確認される項目です。契約書を整備し、取引の実態を伴わせておくことが重要です。

監督権限の法的な裏付けとして、都道府県知事等は、医療法63条に基づき医療法人に対して業務・会計の状況に関する報告を求め、検査を行うことができ、法令・定款違反等がある場合には、医療法64条に基づく措置命令、業務停止命令や役員の解任勧告を行うことができます。重大な場合には、医療法65条に基づく設立認可の取消しに至る可能性もあります。また、保険診療を行う医療機関については、不正・不当な診療報酬請求等があれば、健康保険法80条に基づく保険医療機関の指定取消しという経営上決定的な処分もあり得ます。MS法人を介した資金の流れの不透明さは、こうした監督権限行使の端緒となり得ます。

税務上のリスク

不相当に高額な対価の支払いは、税務上、寄附金と認定されたり、損金算入が否認されたりするリスクがあります。取引条件の根拠を文書化しておくことが望まれます。

具体的には、法人税法37条により寄附金の損金算入には限度があるため、適正額を超える支払部分が寄附金と認定されると、その部分の損金算入が認められず、追徴課税につながります。また、MS法人が同族会社である場合には、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)により、税負担を不当に減少させると認められる取引の計算が否認されるおそれもあります。「税務調査でも説明できる価格設定か」という視点での事前検証が不可欠です。

名義貸し・脱法的利用の禁止

MS法人を隠れ蓑にした実質的な配当や、非医師がMS法人を通じて医療機関を実質的に支配すること(いわゆる「名義貸し」)は認められません。MS法人は、あくまで実態のある周辺業務を担う存在である必要があります。

MS法人の可否を分けるのは、「取引に実態があり、条件が適正かどうか」です。形式だけを整えても、実態が伴わなければ否認のリスクは避けられません。

適切に活用するために ― 実務チェックリスト

  • 取引条件を第三者目線で適正に設定し、その根拠(近隣相場・見積り比較等)を文書化する
  • 契約書を整備し、実際の業務の実態を伴わせる
  • 業務日報・成果物・請求明細など、役務提供の実態を示す記録を残す
  • 関係事業者との取引の状況に関する報告書の対象取引を洗い出し、届出内容と整合させる
  • 医療法人役員とMS法人役員の兼務関係を整理し、利益相反となる取引には所定の手続を踏む
  • 定期的に取引内容・条件の妥当性を見直し、見直しの経緯を記録する

よくあるご質問

Q. 医療法人の理事長や役員がMS法人の役員を兼務することはできますか?

A. 厚生労働省の通知(医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について)では、医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人の役職員との兼務は原則として認められないとされています。ただし、物品購入や賃貸借など商取引がある場合でも、取引額が少額であるなど医療機関の非営利性に影響を与えるおそれがない場合等には、例外的に認められる余地があります。兼務が避けられない場合は、都道府県の運用も確認しつつ、利益相反への手当てと取引条件の適正性を説明できる資料を整えておくことが重要です。

Q. MS法人との取引について、行政への報告は必要ですか?

A. 医療法51条1項により、医療法人は、事業報告書等とともに、理事長の親族が経営する法人など一定の関係事業者との取引の状況に関する報告書を作成し、医療法52条に基づき都道府県知事に届け出る必要があります。MS法人が関係事業者に該当する場合、一定の取引は報告の対象となり、都道府県の指導監査でも確認されます。取引ごとに契約書と価格の根拠資料を整備しておくことが、報告と監査対応の両面で有効です。

Q. MS法人への委託料や賃料が高すぎると、どのような問題が生じますか?

A. 実態に見合わない高額な委託料・賃料は、医療法人からMS法人への実質的な利益配当として、剰余金の配当を禁止する医療法54条に抵触すると評価されるおそれがあります。都道府県の指導監査で改善を求められるほか、税務上も、適正額を超える部分が寄附金等と認定されて損金算入が否認され、追徴課税につながるリスクがあります。近隣相場や第三者間取引の水準など、金額の根拠を文書化しておくことが重要です。

まとめ

MS法人は、適切に設計・運用すれば医療機関の経営に有用な仕組みですが、医療法人の非営利性や税務との関係で慎重な検討が欠かせません。当事務所では、医師免許を持つ弁護士が、医療現場の実情を踏まえて、MS法人のスキーム設計から契約整備、取引条件の検討までを一貫して支援します。MS法人の設立・見直しをご検討の際は、お早めにご相談ください。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的・税務的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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