東京商工リサーチの集計によれば、2025年(1〜12月)の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)は1万300件(前年比2.9%増)で、2024年に続き2年連続で1万件を超え、2022年から4年連続の増加となりました。負債額別では負債1億円未満が7,892件(同5.5%増)で構成比76.6%と過去30年間で最高となり、小規模・零細企業を主体とする倒産が特徴です。法人の倒産は、中小企業の経営者にとって最も現実的なリスクの一つといえます。
法人が倒産した場合に経営者個人の資産がどこまで責任財産となるかは、法人と経営者の法人格の分離、経営者が連帯保証人となっているか否か、破産手続において自由財産として残る範囲、および経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の利用可能性によって大きく異なります。本稿では、これらの法的枠組みを整理したうえで、平時における経営者保証の解除交渉、危機時における早期決断の意義、および危機時に行ってはならない財産移転について解説します。
1 法人の債務と経営者個人の責任 ― 連帯保証の存否が分岐点
(1) 株主有限責任の原則
株式会社は法人であり(会社法3条)、その債務は法人自身の債務です。株主の責任はその有する株式の引受価額を限度とし(同法104条)、代表取締役であっても、法人の債務について当然に個人責任を負うことはありません。法人の借入金が経営者個人の債務となるのは、経営者が当該借入について保証人(実務上はほぼ連帯保証人)となっている場合です。保証契約は書面(または電磁的記録)によらなければ効力を生じず(民法446条2項・3項)、保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときに履行責任を負います(同条1項)。連帯保証人は催告の抗弁および検索の抗弁を有しないため(同法454条)、主債務者である法人が期限の利益を喪失すれば、金融機関は法人の財産の換価を待たずに、残債務の全額について直ちに保証人に履行を求めることができます。
(2) 経営者保証に依存しない融資の拡大
中小企業金融においては、経営者が法人の借入について個人保証を提供する「経営者保証」が長く慣行とされてきましたが、2013年12月に全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」を公表し(2014年2月1日適用開始)、2022年12月23日には金融庁・経済産業省・財務省が「経営者保証改革プログラム」を策定して、この慣行の見直しが進んでいます。金融庁の公表資料によれば、民間金融機関(529機関)の新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資」(無保証融資および停止条件付保証契約・解除条件付保証契約・ABL等の代替的手法を活用した融資)の割合は、2015年度の12.2%から、2023年度47.6%、2024年度52.9%、2025年度55.7%へと上昇しています。新規融資の半数以上が経営者保証を伴わずに実行されている現状において、経営者が「会社の借入には当然に自分の保証が付いている」と考える前提自体が、既に正確ではありません。
(3) 保証債務の棚卸し
保証の有無は融資ごとに判断されます。過去の借入には保証が付され、近時の借入や借換え後の借入には保証が付されていないという混在は珍しくありません。また、信用保証協会の保証付き融資においても、協会の保証とは別に経営者の連帯保証が求められているか否かは、信用保証委託契約書および金融機関との契約内容によって異なります。金銭消費貸借契約書、保証契約書(保証約定書)、信用保証委託契約書、リース契約書等を融資ごとに確認し、保証の有無、保証の種類(特定債務保証か根保証か)、極度額、保証期間を一覧化する作業が、経営者個人の資産リスクを把握する出発点となります。
2 経営者個人の破産手続と自由財産
(1) 破産財団の範囲と自由財産(破産法34条)
破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、原則として破産財団に属します(破産法34条1項)。しかし、①民事執行法131条3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭、および②差押えが禁止される財産は破産財団に属しません(同条3項1号・2号)。民事執行法131条3号の額は「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額」であり、民事執行法施行令1条により66万円とされているため、破産者の手元に残る金銭は99万円までとなります。差押禁止財産には、債務者等の生活に欠くことができない衣服・寝具・家具・台所用具等(民事執行法131条1号)のほか、給料等の4分の3相当部分(同法152条)などが含まれます。
さらに裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後1か月を経過する日までの間、破産者の申立てによりまたは職権で、破産者の生活の状況、破産手続開始時に有していた自由財産の種類および額、収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができます(破産法34条4項)。この「自由財産の拡張」の運用として、預貯金、保険の解約返戻金、自動車等について一定の範囲で拡張を認める取扱いが各裁判所で行われています。他方、不動産のような高額の財産は破産手続では原則として換価され、債権者への配当原資となります。
(2) 免責の効力と例外(破産法253条)
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について責任を免れます(破産法253条1項本文)。ただし、租税等の請求権(同項1号)、破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(同項2号)、故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同項3号)、夫婦間の扶助義務・子の監護に関する義務・扶養義務に係る請求権(同項4号)、破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(同項6号)等は免責の対象外です。経営者個人の税金・社会保険料の滞納がある場合、これらは免責によっても消滅しないため、破産後の生活設計において考慮を要します。
(3) 手続の概要と費用
法人の破産は、弁護士による受任通知の送付、裁判所への破産手続開始の申立て、破産管財人の選任、財産の換価・配当、法人格の消滅という流れで進み、経営者個人が保証債務を履行できない場合には法人と個人の破産を同時に申し立てることが一般的です。東京地方裁判所民事第20部が公表する「破産事件の手続費用一覧」(令和5年4月1日現在)によれば、申立手数料は個人の自己破産および免責申立てで1,500円、法人の自己破産申立てで1,000円、予納金は同時廃止事件で11,859円、管財事件(自己破産申立事件)では法人・個人とも最低20万円(これに法人1件につき14,786円、個人1件につき18,543円を加算)とされ、事案に応じて増額されます。法人の破産は原則として管財事件となるため、予納金に弁護士費用を加えた手続費用を確保できる段階で申立ての準備に着手する必要があり、資金が完全に枯渇した後では手続費用の捻出自体が困難となります。
3 経営者保証に関するガイドラインの活用
(1) 保証を求めない融資・保証解除の3要件
経営者保証に関するガイドライン4項(1)は、主たる債務者が経営者保証を提供することなしに資金調達を希望する場合に求められる経営状況として、①法人と経営者との関係の明確な区分・分離(法人の業務、経理、資産所有等に関し法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等の資金のやりとりを社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制の整備)、②財務基盤の強化(法人のみの資産・収益力で借入金の返済が可能と判断し得る財務状況)、③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保の3点を挙げています。金融機関は、これらの要件の充足度合いに応じて、経営者保証を求めないことや、停止条件付保証契約等の代替的手法の活用を検討することとされ、既存の保証契約についても、主たる債務者から保証契約の解除等の申入れがあった場合には、要件の充足状況を踏まえて真摯かつ柔軟に検討することが求められます。
(2) 経営者保証改革プログラムに基づく説明・記録
経営者保証改革プログラムを受けた監督指針の改正により、民間金融機関は、経営者保証を徴求する場合には、どの要件が充足されていないために保証が必要となるのか、どのような改善を図れば保証の解除が可能となるのかを事業者・保証人に対して個別具体的に説明し、その内容を記録することが求められています。金融庁の公表資料では、新規融資に占める「経営者保証に依存しない融資」と「有保証融資のうち適切な説明を行い記録した融資」の合計の割合は、2025年度実績で99.9%に達しています。借換え・期限更新・追加融資の各局面は、保証解除を申し入れる機会であり、上記3要件の充足状況を決算書・月次試算表・資金繰り表等により示すことが交渉の基礎となります。
(3) 保証債務の整理 ― 早期決断のインセンティブ
ガイドライン7項は、主たる債務の整理局面における保証債務の整理手続を定めています。保証人は、破産手続における自由財産に加え、対象債権者の経済合理性の範囲内で、一定期間の生計費に相当する額(雇用保険の給付期間を参考に、年齢等に応じて月額33万円を基礎として約100万〜360万円)や華美でない自宅等をインセンティブ資産として残存資産に含めることを希望することができ、対象債権者はこれを真摯かつ柔軟に検討することとされています。インセンティブ資産の上限は、経営者たる保証人による早期の事業再生等の着手の決断により、将来清算した場合と比較して法人からの回収見込額が増加した額であり、事業が毀損する前に整理に着手するほど残存資産が増加し得る構造です。残存資産を除く財産を処分・換価して弁済した後に残る保証債務は原則として免除され、保証人が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報は信用情報登録機関に報告・登録されません。
利用要件として、主債務者である法人が法的整理(破産、民事再生等)または準則型私的整理手続を申立済みであること、対象債権者に経済合理性が期待できること、主債務者および保証人が弁済について誠実であり財産状況等を適時適切に開示していることが求められ、インセンティブ資産を求める場合には法人の破産等の手続終了までにガイドライン利用の意思表示をする必要があります。手続は対象債権者全員の同意を要する私的整理であり、中小企業活性化協議会等の支援機関または弁護士が関与して弁済計画を策定します。廃業を選択する場合については、「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」(2022年3月公表、2023年11月改定)が指針を示しています。
4 危機時の財産移転に対する否認と免責不許可
資金繰りの悪化後に自宅を配偶者名義に移転し、または自動車等を親族に低廉な価格で譲渡する行為は、法的にも実務的にも経営者の資産を守る手段になりません。破産法160条3項は、破産者が支払の停止等があった後またはその前6か月以内にした無償行為およびこれと同視すべき有償行為を、破産手続開始後、破産財団のために否認できると定めています。相当の対価を得た処分であっても、当該処分が財産の種類の変更により隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせ、破産者が対価について隠匿等の処分をする意思を有し、相手方がこれを知っていたときは否認の対象となり、相手方が破産者の親族または同居者であるときは、破産者の意思を知っていたものと推定されます(同法161条1項・2項3号)。否認権が行使されれば、移転した財産は破産財団に復帰します。
加えて、債権者を害する目的で、破産財団に属しまたは属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたことは免責不許可事由に該当し(同法252条1項1号)、破産手続において裁判所が行う調査に対する説明拒否・虚偽説明(同項8号)も同様です。財産の移転を図った結果、本来残るはずであった自由財産の確保も免責による再出発も失うことになりかねず、ガイドラインに基づく保証債務整理においても、財産状況の適時適切な開示という利用要件を欠くことになります。
5 実務対応 ― 平時の準備と危機時の判断時期
平時においては、第一に、前記1(3)の保証債務の棚卸しにより、融資ごとの保証の有無・種類・極度額を一覧化します。第二に、役員貸付金・仮払金の解消、法人資産と個人資産の分離、役員報酬の適正化により法人と経営者の区分・分離を進め、月次試算表・資金繰り表の整備と金融機関への定期的な情報開示により経営の透明性を高めます。第三に、借換え・更新・追加融資の各局面で保証解除または停止条件付保証契約への切替えを申し入れ、金融機関の説明内容を記録に残します。
危機時においては、判断時期が残存資産の多寡を左右します。借入金の返済のために新たな借入を検討し始めた時点、租税・社会保険料の納付を遅延させ始めた時点は、事業再生・廃業のいずれを選択するにせよ複数の選択肢が残っている段階であり、この段階で弁護士および中小企業活性化協議会等に相談することにより、ガイドラインに基づく保証債務整理の利用可能性、法人の手続選択、手続費用の確保について検討することができます。取引先への支払停止や手元資金の枯渇に至った段階では、選択肢が破産に限られるだけでなく、手続費用の確保も困難となります。
点検事項
- ① 融資ごとに、金銭消費貸借契約書・保証約定書・信用保証委託契約書を確認し、経営者保証の有無、特定債務保証か根保証か、極度額、保証期間を一覧化しているか
- ② 信用保証協会の保証付き融資について、協会保証とは別に経営者の連帯保証が付されているか確認しているか
- ③ 役員貸付金・仮払金・法人名義の個人的支出が存在せず、法人と経営者の資産・経理が区分・分離されているか
- ④ 月次試算表・資金繰り表を作成し、金融機関に対して適時に財務情報を開示しているか
- ⑤ 借換え・期限更新・追加融資の際に保証解除または代替的手法への切替えを申し入れ、金融機関から説明を受けた内容を記録しているか
- ⑥ 経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の要件(法人の手続申立て・経済合理性・誠実な開示)とインセンティブ資産の意思表示の時期を把握しているか
- ⑦ 借入金返済のための新規借入や租税・社会保険料の納付遅延が生じた時点で、弁護士等に相談する体制があるか
- ⑧ 資金繰り悪化後に、親族への財産移転、特定債権者への偏頗弁済、帳簿の改ざん等の否認・免責不許可事由に該当し得る行為を行っていないか
- ⑨ 法人・個人の破産申立てに要する予納金(東京地裁の管財事件で最低20万円)および弁護士費用を確保できる段階で判断ができる資金管理となっているか
よくあるご質問
Q. 会社が破産した場合、代表者個人は会社の借入金を返済する義務を負いますか。
A. 株式会社の株主の責任はその有する株式の引受価額を限度とし(会社法104条)、法人の債務について代表者が当然に個人責任を負うことはありません。代表者個人が返済義務を負うのは、代表者が当該借入について連帯保証人となっている場合(民法446条)であり、連帯保証人は催告の抗弁・検索の抗弁を有しないため(同法454条)、主債務者である法人が期限の利益を喪失すれば残債務の全額について直ちに履行を求められます。保証の有無は融資ごとに異なるため、金銭消費貸借契約書・保証契約書・信用保証委託契約書を個別に確認する必要があります。
Q. 代表者個人も破産した場合、財産はすべて処分されるのですか。
A. 破産手続開始時に破産者が有する一切の財産は原則として破産財団に属しますが(破産法34条1項)、民事執行法131条3号に規定する額(民事執行法施行令1条により66万円)に2分の3を乗じた額、すなわち99万円までの金銭および差押禁止財産は破産財団に属しません(同条3項)。さらに裁判所は、破産者の生活の状況、収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができます(同条4項)。免責許可決定が確定すれば、租税等の請求権など同法253条1項各号に掲げる請求権を除き、破産債権について責任を免れます。
Q. 経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務の整理では、破産と比べて何が異なりますか。
A. ガイドラインに基づく保証債務の整理は、対象債権者全員の同意を要する私的整理ですが、破産手続で認められる自由財産に加え、早期の事業再生・事業清算の着手により法人からの回収見込額が増加した場合には、その増加額を上限として、一定期間の生計費に相当する額(雇用保険の給付期間を参考に、年齢等に応じて約100万〜360万円)や華美でない自宅等をインセンティブ資産として保証人の残存資産に含めることが検討されます。残存資産を除く財産を処分・換価して弁済した後の保証債務の残額は原則として免除され、保証人が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報は信用情報登録機関に報告・登録されません。利用には、主債務者である法人が法的整理または準則型私的整理の手続を申し立てていること、対象債権者に経済合理性が期待できること、財産状況等の適時適切な開示などの要件があります。
Q. 会社の資金繰りが悪化してから、自宅を配偶者名義に変更することは可能ですか。
A. 推奨できません。破産者が支払の停止等があった後またはその前6か月以内にした無償行為およびこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産管財人が破産財団のために否認することができます(破産法160条3項)。相当の対価を得た処分であっても、破産者が対価について隠匿等の処分をする意思を有し、相手方がこれを知っていた場合には否認の対象となり、相手方が破産者の親族または同居者であるときは悪意が推定されます(同法161条1項・2項3号)。さらに、債権者を害する目的で破産財団に属すべき財産の隠匿、債権者に不利益な処分その他破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたことは免責不許可事由に該当し(同法252条1項1号)、免責が認められないおそれがあります。
参考資料
- 東京商工リサーチ「2025年(令和7年)の全国企業倒産1万300件」(2026年1月13日)
- 金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績について(2025年度の実績)」(令和8年6月26日)
- 金融庁「『経営者保証改革プログラム』の策定について」(令和4年12月23日)
- 金融庁「経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策等について」
- 中小企業庁「経営者保証」
- 金融庁・中小企業庁「経営者保証に関するガイドラインを活用してみませんか ~早期廃業と再チャレンジ~」(PDF)
- 経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」(全国銀行協会・PDF)
- 東京地方裁判所民事第20部「破産事件の手続費用一覧」(令和5年4月1日現在・PDF)
- 破産法(e-Gov法令検索)
- 民事執行法(e-Gov法令検索)/民事執行法施行令(e-Gov法令検索)
- 会社法(e-Gov法令検索)/民法(e-Gov法令検索)
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