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非弁行為(弁護士法72条)と企業コンプライアンス ― 交渉代行・契約書作成・債権回収・示談・弁護士紹介ビジネスの適法性の境界

顧客サービスの一環として、「相手方への連絡」「契約書の確認」「条件の調整」を引き受けている事業会社は少なくありません。弁護士を名乗らず、訴訟にも関与していないため、当事者に違法の認識がないまま行われていることが多いのが実情です。しかし、弁護士法72条は、弁護士・弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うこと、およびこれらの周旋をすることを業とすることを禁じており、違反には2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科されます(同法77条3号)。いわゆる非弁行為の規制です。本コラムでは、非弁該当性の判断枠組みを確認したうえで、企業実務において問題となりやすい5つの行為類型 ― 交渉代行、退職代行・人材紹介における条件交渉、コンサルタントによる契約書の作成・修正、第三者の債権回収・記事削除・示談の代行、弁護士紹介の対価収受 ― の適法性の境界を、判例の枠組みに即して解説します。

非弁該当性の判断枠組み ― 名称ではなく実態で判断される

弁護士法72条違反の成否は、①報酬を得る目的の有無、②「事件」性(権利義務に関する争いの存在)、③法律事務該当性(代理・交渉・和解・法的判断への関与)、④業務性(反復継続性)の各要件から判断されます。留意すべきは、報酬目的について、当該行為単体の対価が無償であっても、その先の自社サービスの販売や紹介料等につながる場合には事業全体として報酬目的が認められ得ること、および、サービスの名称が「コンサルティング」「サポート」「代行」であっても、実態が法律事務であれば該当性判断に影響しないことです。

また、非弁行為の発覚経路として実務上最も多いのは、交渉の相手方に弁護士が就いた場面です。代理人弁護士から資格の有無を確認され、弁護士会・捜査機関への通報に至る例が典型であり、紛争が先鋭化するほど相手方に代理人が就く蓋然性は高まります。継続的な事業スキームの中で行われる非弁行為は、隠匿し続けられる性質のものではありません。

類型① 顧客に代わる相手方との「交渉」 ― 使者と交渉の分水嶺

依頼者が決定した意思をそのまま相手方に伝達する「使者」としての関与にとどまる限り、法律事務への該当は否定される余地があります。他方、相手方の出方を踏まえて減額幅・支払期限等の条件を調整すれば、それは交渉であり、法律事務です。最高裁平成22年7月20日決定は、不動産会社が、ビル所有者から委託を受けて多数の賃借人との立退き交渉を業として引き受けた事案について、立退き合意の成否・時期・立退料の額をめぐり「交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」の受託であったとして、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」該当性を認め、有罪を確定させました。紛争が顕在化していない段階の受託であっても、紛議の発生がほぼ不可避といえる案件であれば同条の射程に入ることを示した重要判例です。

類型② 退職代行・人材紹介における「条件交渉」

使者と交渉の分水嶺が最も先鋭に問われるのが退職代行業務です。民間事業者が「本人は○月○日での退職を希望している」旨を伝達することは使者の範囲に収まり得ますが、会社側が難色を示した際に退職日を調整し、年次有給休暇の消化や未払残業代の支払を求める段階に至れば、代理交渉として非弁行為該当性が問題となります。弁護士および団体交渉権を有する労働組合と民間事業者との決定的な相違はこの点にあります。人材紹介業においても、通常の採用条件のすり合わせは職業紹介業務の範囲内ですが、内定取消しや未払賃金など「紛争」化した案件について求職者を代理して交渉することは、これと質的に異なる法律事務です。

類型③ コンサルタントによる契約書の作成・修正

公開されたひな型の紹介や、自社が契約当事者となる契約書の自社内での作成・検討は、通常、非弁行為の問題を生じません。問題となるのは、顧客から個別の事情を聴取し、報酬を得る目的で、いずれの当事者に有利かの法的判断を伴いながら条項を作成・修正する行為です。とりわけ、既に発生したトラブルの解決文書である示談書・合意書の作成は、法律事件に関する法律事務該当性が肯定されやすい領域です。この点の参照基準として、法律資格を有する認定司法書士についてすら、最高裁平成28年6月27日判決が、裁判外の和解について代理し得る範囲は個別の債権ごとの価額が140万円を超えない場合に限られると判示していることが挙げられます。有資格者に対してこの制限が及ぶ以上、無資格のコンサルタントが個別紛争の解決文書に関与し得ないことは明らかというべきです。

類型④ 第三者の債権回収・記事削除・示談の代行

自社の売掛債権を自社で回収することに問題はありませんが、取引先から依頼を受けて第三者の債権を取り立てる行為は、弁護士または法務大臣の許可を受けた債権回収会社(サービサー)でなければ行えません。サービサーが取り扱えるのも、債権管理回収業に関する特別措置法が定める特定金銭債権(金融機関の貸付債権等)に限られており、一般の売掛金の回収を受託できる民間業者は制度上存在しません。インターネット上の誹謗中傷記事の削除代行についても、東京地裁平成29年2月20日判決は、業者による削除代行契約を弁護士法72条違反により無効とし、受領済み報酬約49万円の返還を命じています。非弁行為に基づく契約は民事上も無効とされ、報酬を返還したうえで刑事責任のリスクのみが残ることになります。

なお、自動車保険における保険会社の示談代行は、約款上被害者が保険会社に対する直接請求権を有する仕組みの下で、保険会社が自らの支払義務の範囲を確定する当事者として交渉するものと整理されており、導入時に日本弁護士連合会との協議を経てこの枠組みが確認された経緯があります。他人の紛争を代行処理するものではなく、一般の事業会社が模倣し得るスキームではない点に留意が必要です。

類型⑤ 弁護士紹介の対価収受(周旋・非弁提携)

顧客に弁護士を案内すること自体は適法ですが、これを収益化することには二重の違法リスクがあります。第一に、企業側について、報酬を得る目的で法律事件の取次ぎ(周旋)を業として行えば、それ自体が弁護士法72条違反となり得ます。第二に、弁護士側について、弁護士職務基本規程13条は依頼者紹介の対価の支払・受領をいずれも禁じており、広告料・システム利用料等の名目であっても実質が紹介の対価であれば同様に評価されます。さらに、弁護士の名義のみを借り、実際には無資格の担当者が相談対応・交渉を行ういわゆる名義貸し・非弁提携(同法27条)は、それ自体が別個の重大な違法行為です。

企業が整備すべき社内ルール

  • 顧客サポートの業務フローを棚卸しし、「伝言・事務案内・ひな型提供まで」と「交渉・法的判断・個別紛争文書の作成から先」の線引きを明文化する
  • 相手方との条件調整が必要になった案件は、自社で対応せず弁護士に引き継ぐエスカレーションルールを定める
  • 退職代行・人材紹介・コンサルティング等の隣接サービスを提供する場合、紛争化した案件の取扱手順をあらかじめ設計する
  • 弁護士の紹介について、対価・キックバックの授受を一切行わない方針を明確にする
  • 新規サービスの設計段階で、非弁該当性のリーガルチェックを受ける

よくあるご質問

Q. 無償で顧客のトラブル対応を手伝う場合も、非弁行為になりますか。

A. 当該対応自体が無償であっても、その先の自社サービスの販売や継続取引の獲得につながる場合には、事業全体として報酬目的が認められる可能性があります。報酬目的の判断は個別の対価の有無だけでは決まらないため、「無料サポートだから問題ない」という整理は危険です。

Q. 当社の売掛金の回収を、回収代行業者に依頼してもよいですか。

A. 一般の売掛金の取立てを業として受託できるのは、弁護士(弁護士法人)に限られます。法務大臣の許可を受けたサービサーが取り扱えるのは特定金銭債権に限られ、通常の商取引の売掛金は含まれません。「回収代行」を掲げる無許可業者への依頼は、依頼者側もトラブルに巻き込まれるリスクがあり、避けるべきです。

Q. 顧問先から「知り合いの会社のトラブルを見てほしい」と頼まれた場合、自社の法務部門で対応できますか。

A. 自社(グループ会社を含む自己の事件)の法律事務を社内で処理することは問題ありませんが、資本関係等のない第三者の法律事件を、対価を得て継続的に取り扱えば非弁行為となり得ます。第三者の紛争は弁護士に引き継ぐのが原則です。

まとめ

本稿の要点は次のとおりです。①非弁行為は「報酬目的・事件性・法律事務・業務性」の枠組みで実態に即して判断され、サービスの名称は考慮されないこと、②使者としての伝達はセーフの余地がある一方、条件を調整する交渉に踏み込めば法律事務となり、立退き交渉の受託について最高裁が有罪を確定させていること(最決平成22年7月20日)、③個別事情を踏まえた契約書・示談書の作成への関与は、認定司法書士ですら個別債権額140万円以下に制限されている領域であること(最判平成28年6月27日)、④第三者の債権回収・記事削除・示談の代行は弁護士またはサービサーの独占領域であり、非弁行為に基づく契約は民事上も無効とされること(東京地判平成29年2月20日)、⑤弁護士紹介の対価収受は企業側の周旋(弁護士法72条)と弁護士側の職務基本規程13条違反の双方の問題を生じること、の5点です。非弁規制は、法的判断を誤った「サポート」により顧客の権利が損なわれることを防ぐと同時に、事業者自身を刑事責任と契約無効のリスクから守る安全装置でもあります。当事務所では、顧客サポート・代行サービス等の事業スキームの非弁該当性チェック、業務フローの線引き設計、紛争案件のエスカレーション体制の整備をご支援しています。サービス設計の段階でのご相談をお勧めします。

参考資料

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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・判例は2026年8月時点の情報に基づきます。実際のご対応にあたっては、専門家にご相談ください。

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