Column

代表者住所非表示措置の全法人への拡大(商業登記規則等改正省令案・令和8年12月施行予定) ― 現行の代表取締役等住所非表示措置の要件と申出時期、持分会社・一般社団法人・各種法人・LPS/LLPへの拡大、融資・不動産取引への影響、与信管理・保証契約実務の見直し

商業登記において、会社の代表者の住所は登記事項とされ(会社法911条3項14号等)、登記事項証明書は何人も手数料を納付して交付を請求することができます(商業登記法10条1項)。この公示原則に対し、法務省は令和6年10月1日、株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人について、申出により登記事項証明書等における住所の表示を最小行政区画までにとどめる「代表取締役等住所非表示措置」(商業登記規則31条の3)を導入しました。そして令和8年7月24日から同年8月23日まで、この措置の適用対象をすべての会社および会社以外の法人等に拡大する「商業登記規則等の一部を改正する省令案」について意見募集が行われ、施行時期は令和8年12月予定とされています。本稿では、現行制度の要件と申出時期を確認したうえで、省令案の内容、非表示措置を利用する側および取引先を調査する側それぞれの実務上の影響、施行までに整えるべき対応を整理します。

1 現行制度:代表取締役等住所非表示措置の概要

(1) 制度の内容

代表取締役等住所非表示措置は、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)により創設され、令和6年10月1日から施行されています。対象は株式会社の代表取締役、代表執行役および代表清算人であり、措置が講じられると、登記事項証明書および登記事項要約書には、住所のうち行政区画以外の部分(丁目・番地等)が記載されず、市区町村(東京都の特別区、指定都市の区を含む)までの表示となります。登記情報提供サービスにおいても同様です。DV・ストーカー被害者等である会社代表者等について住所を非表示とする措置は令和4年9月1日から先行して設けられていましたが(商業登記規則31条の2)、代表取締役等住所非表示措置は被害の有無を問わず申出のみで利用できる点で性質を異にします。

(2) 申出の時期と添付書面

申出は独立した申請として行うことはできず、株式会社の設立の登記、本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記、代表取締役等の就任または住所変更による変更の登記、清算人の登記等の申請と同時に行う必要があります。上場会社以外の株式会社が申出をする場合には、①本店の実在性を確認した資格者代理人の書面または本店所在場所に宛てた配達証明郵便等の送付を証する書面、②代表取締役等の氏名・住所と同一の氏名・住所が記載された住民票の写し等、③資格者代理人が犯罪収益移転防止法に基づき確認した実質的支配者の本人特定事項を記載した書面等(実質的支配者情報一覧の保管の申出をしている場合を除く)の添付が求められます。

(3) 留意事項と実施状況

法務省は、措置を講じた場合、登記事項証明書によって代表取締役等の住所を証明することができなくなるため、金融機関から融資を受ける際に不都合が生じたり、不動産取引等において必要な書類が増えたりするなどの影響が想定されるとして、申出前に慎重な検討を求めています。また、措置が講じられている代表取締役等が住所を移転した場合には、住所変更の登記の申請と同時に改めて申出をしなければ新住所は非表示とならないこと、登記申請書には住所の記載を要すること、会社法上の登記義務は免除されないこと、官公署からの請求に対しては住所情報が提供される場合があることにも留意が必要です。

法務省民事局が公表する月報(暫定値)によれば、申出による実施件数は、令和6年10月の施行から令和8年8月までの累計で26,181件(うち設立登記と併せてされた申出によるもの5,735件、設立登記以外の登記と併せてされた申出によるもの20,446件)です。国税庁の令和6年度分会社標本調査における法人数が299万9,680社であることに照らすと、実施件数は法人数の1%に満たない水準にとどまっています。

2 省令案の内容:全法人への拡大(令和8年12月施行予定)

(1) 改正の概要

e-Govパブリック・コメントに掲載された「商業登記規則等の一部を改正する省令案の概要」によれば、改正の骨子は次のとおりです。

  • 商業登記規則の改正:株式会社に限られていた商業登記規則31条の3の規律の適用をすべての会社に拡大するとともに、措置の対象者を会社の代表者(清算人等を含む)および支配人に拡大する
  • 各種法人等登記規則等の改正:措置の対象を会社以外の法人、投資事業有限責任組合および有限責任事業組合に拡大するため、各種法人等登記規則、特定目的会社登記規則、投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約登記規則、投資法人登記規則、一般社団法人等登記規則において改正後の規定を準用する等の改正を行う
  • 電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則の改正:登記情報提供サービスにおいても同様の措置を講ずる
  • 施行時期:令和8年12月予定

省令案の条文では、対象となる「代表者等」について、合名会社または合資会社の社員、清算持分会社の清算人、会社の代表者が法人である場合における当該代表者の職務を行うべき者を含み、外国会社の日本における代表者を除くものとされています。措置の名称も「代表取締役等住所非表示措置」から「代表者等住所非表示措置」に改められ、附則において、施行時に現に講じられている措置は改正後の措置とみなす旨の経過措置、および特例有限会社への適用に関する規定が置かれています。各種法人等登記規則は組合等登記令に基づく法人(医療法人、学校法人、社会福祉法人、宗教法人、特定非営利活動法人等)の登記を規律する省令であり、一般社団法人等登記規則とあわせて改正されることにより、法人形態を問わず代表者の住所の一部非表示を申し出ることが可能となります。

(2) 申出時期の枠組み

省令案の商業登記規則31条の3第1項は、「代表者等の住所が登記すべき事項に含まれる登記の申請をする者」が措置を講ずるよう申し出ることができると規定しており、登記申請と同時に申出をするという現行の枠組みは維持されています。したがって、施行後も、設立、代表者の就任・住所変更、管轄外への本店移転等の登記申請の機会を捉えて申出を行う必要があると考えられます。もっとも、最終的な省令の規定および施行通達の内容によっては申出の要件・手続に変更が生じ得るため、公布後の確認が必要です。

3 非表示措置を利用する側の実務上の影響

(1) 持分会社・一般社団法人の代表者に対する保護の拡大

東京商工リサーチの調査によれば、令和7年(2025年)の新設法人は157,011社と過去最多を更新し、このうち株式会社が105,558社(構成比64.0%、前年比0.1%減)、合同会社が44,991社(構成比28.6%、前年比6.8%増、過去最多)、一般社団法人が6,480社(構成比4.1%)、医療法人が1,186社となっています。合同会社は定款の認証を要せず(会社法30条は株式会社の定款に関する規定)、設立の登録免許税の最低額も株式会社の15万円に対し6万円であることから、資産管理会社、スモールビジネス、副業の法人化等に広く利用されていますが、その代表社員はこれまで非表示措置の対象外でした。一般社団法人の代表理事、医療法人・学校法人の理事長等も同様です。省令案による拡大は、これらの法人の代表者にとって初めて利用可能となる保護であり、とりわけ患者・保護者等とのトラブルにより自宅住所の探索を受けるおそれのある医療機関・教育機関の長にとって実益が大きいものといえます。

(2) 複数法人の役員を兼任する経営者

株式会社のほかに資産管理用の合同会社を保有し、あるいは業界団体の一般社団法人の代表理事を兼ねる経営者は少なくありません。現行制度の下では、株式会社の登記について非表示措置を講じても、兼任先の合同会社・一般社団法人の登記から住所が判明するため、措置の実効性に限界がありました。全法人への拡大により、兼任するすべての法人について措置を講ずることで初めて実効的な保護が得られることになりますが、裏を返せば、一つでも申出を失念した法人があれば保護は不完全なものとなります。

(3) 申出のタイミング設計

申出が登記申請と同時に限られることから、いつ申出の機会が到来するかは法人形態によって異なります。株式会社の取締役の任期は原則2年(非公開会社では定款により最長10年まで伸長可。会社法332条1項・2項)であり、任期満了に伴う重任登記が定期的な申出の機会となります。これに対し、合同会社の業務執行社員・代表社員には法定の任期がなく、重任登記という定期的な機会が生じないため、代表者の住所変更や本店移転等の登記が生じない限り、申出の機会が到来しない可能性があります。一般社団法人の理事の任期は原則2年(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律66条)であり、株式会社に近い設計が可能です。兼任先の法人ごとに次回の登記申請の時期を把握し、申出の要否と時期をあらかじめ設計しておくことが実務上重要です。

(4) 開示継続という選択

非表示措置はあくまで申出による任意の制度であり、法務省が注意喚起する融資・不動産取引への影響を踏まえると、金融機関との取引や不動産取引が多い法人、あるいは取引先に対する透明性を信用の基礎とする法人にとっては、開示を継続することが合理的な場合があります。措置の要否は法人ごとに、業種特性、資金調達の予定、代表者の個人的な安全上の必要性を勘案して判断すべき経営判断事項です。

4 取引先を調査する側の実務上の影響

(1) 与信管理における登記情報の位置づけ

代表者の住所は、登記情報から取得できる数少ない代表者個人に関する情報として、同姓同名の別人との識別、反社会的勢力との関係の有無に関する調査、および代表者個人が連帯保証人となっている場合の保証債務の履行請求・強制執行の準備等において、与信管理および債権回収の実務上重要な手がかりとされてきました。全法人への拡大により、取引先が措置を講じている場合には、これらの手がかりを登記情報から得ることができなくなります。とりわけ合同会社は決算公告義務を負わず(会社法440条1項は株式会社を対象とする規定)、もともと外部から入手できる情報が限られている法人形態であるため、影響が大きいといえます。

(2) 契約実務における手当て

登記情報に依存しない与信管理体制への転換が求められます。具体的には、①新規取引先について、登記事項証明書に加え、決算書の徴求、代表者との面談、信用調査会社のレポートの取得等、多層的な確認を行うこと、②基本契約書に、代表者、本店所在地、実質的支配者等に変更が生じた場合の通知義務条項および違反時の解除・期限の利益喪失条項を設けること、③代表者個人を連帯保証人とする場合には、契約締結時に保証契約書に住所・連絡先を記載させ、本人確認書類の写しを受領することが挙げられます。保証契約は書面でしなければ効力を生じず(民法446条2項)、事業のために負担した貸金等債務を主債務とする第三者の保証には公正証書による保証意思の確認が必要となる場合があること(民法465条の6)もあわせて確認しておく必要があります。

(3) 措置が講じられている場合の住所の確認手段

法務省の説明によれば、非表示措置が講じられている場合であっても、官公署からの請求に対しては住所情報が提供される場合があります。もっとも、私人が訴訟提起等のために代表者の住所を把握する必要がある場合に、どのような手続により住所を確認し得るかは、施行通達等の内容に委ねられる部分があり、施行後の運用を注視する必要があります。契約時点で住所を把握しておくことの重要性は、この点からも高まります。

5 施行日までの実務対応

  • 登記の棚卸し:経営者が代表者・役員として登記されている法人(株式会社、合同会社、一般社団法人、医療法人、学校法人、NPO法人等)をすべて一覧化し、各法人における現在の住所の表示状況を確認する
  • 措置の要否の判断:法人ごとに、融資・不動産取引の予定、取引先との関係、代表者の安全上の必要性を勘案し、非表示措置を講ずるか開示を継続するかを決定する
  • 申出時期の設計:各法人の次回の登記申請(役員の任期満了、住所変更、本店移転等)の時期を把握し、申出と同時に行う登記申請のスケジュールを策定する。合同会社等、定期的な登記の機会がない法人については、代表者の住所変更等の機会を逃さない体制を整える
  • 添付書面の準備:本店の実在性を証する書面、代表者の住民票の写し等、実質的支配者に関する書面について、資格者代理人(司法書士等)と事前に準備の方法を確認する。実質的支配者情報一覧の保管の申出の活用も検討する
  • 与信管理規程・契約書式の改訂:取引先審査における確認事項の見直し、基本契約書の通知義務条項・解除条項の整備、保証契約書における住所・連絡先の記載欄と本人確認書類の受領手続の整備を行う
  • 既存取引先の情報の補完:継続的取引先について、現時点で登記から確認できる代表者住所を記録し、保証契約書等に反映しておく

点検事項

  • ① 経営者が役員として登記されている法人が、株式会社以外の法人形態を含めてすべて把握されているか
  • ② 各法人について、非表示措置を講ずることによる融資・不動産取引への影響が検討されているか
  • ③ 各法人の次回の登記申請の時期が把握され、申出との同時申請が可能なスケジュールとなっているか
  • ④ 措置を講じた代表者の住所移転時に、住所変更登記と同時に改めて申出をする運用が定められているか
  • ⑤ 取引先審査において、登記事項証明書以外の確認手段(決算書、面談、信用調査)が規程化されているか
  • ⑥ 基本契約書に代表者・実質的支配者の変更時の通知義務条項が設けられているか
  • ⑦ 保証契約書に保証人の住所・連絡先の記載欄が設けられ、本人確認書類の受領が手続化されているか
  • ⑧ 施行後の省令・施行通達の内容を確認し、申出の要件・手続の変更を反映する担当者が定められているか

よくあるご質問

Q. 現時点で合同会社の代表社員について住所非表示措置の申出をすることはできますか。

A. できません。現行の商業登記規則31条の3は株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人を対象としており、合同会社をはじめとする持分会社、一般社団法人その他の法人は対象外です。省令案による拡大は令和8年12月施行予定とされており、施行後、代表者の住所が登記すべき事項に含まれる登記の申請と同時に申出をすることが可能となる見込みです。

Q. 非表示措置を講じた後に、代表者が転居した場合はどうなりますか。

A. 措置が講じられている代表者が住所を移転した場合には、住所変更による変更の登記の申請と同時に改めて申出をする必要があります。申出をしなかった場合、新住所は非表示となりません。なお、住所変更の登記自体は、変更から2週間以内に申請する義務があり(会社法915条1項)、措置を講じていることによってこの登記義務が免除されるものではありません。

Q. 取引先が非表示措置を講じている場合、代表者個人に対する債権回収に支障はありますか。

A. 登記事項証明書から代表者の住所を把握できなくなるため、代表者個人を連帯保証人とする契約において、保証契約書に住所・連絡先の記載がなければ、履行請求や強制執行の準備に支障を生じるおそれがあります。契約締結時に保証人の住所・連絡先を保証契約書に記載させ、本人確認書類の写しを受領しておくことが対応の中心となります。

Q. 非表示措置を講ずれば、住所が第三者に一切知られなくなりますか。

A. 措置の効果は登記事項証明書・登記事項要約書および登記情報提供サービスにおける表示に限られます。登記申請書には住所の記載を要し、官公署からの請求に対しては住所情報が提供される場合があります。また、非表示となるのは行政区画以外の部分であり、市区町村までは表示されます。

参考資料

関連する取扱業務・関連コラム

本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

← コラム一覧へ戻る

代表者住所非表示措置の要否判断と申出時期の設計、兼任法人の登記の棚卸し、与信管理規程・基本契約書の通知義務条項・保証契約書の整備について、顧問契約を通じた継続的な支援を行っています。

電話 — 平日 10:30 – 17:00 03 - 6824 - 4639

メール でのお問い合わせは 24 時間受付