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商業登記の懈怠と経営者の責任 ― 会社法915条の2週間ルール、976条の過料(取締役等個人に100万円以下)、472条の休眠会社のみなし解散(令和7年度25,195社)、908条の対抗力、弁護士・司法書士の役割分担と社内点検事項

商業登記は、会社の設立時に一度行えば足りる手続と誤解されがちですが、会社法は登記事項に変更が生じるたびに2週間以内の変更登記を義務付けており(915条1項)、その懈怠に対しては会社ではなく取締役等の個人に100万円以下の過料が科されます(976条1号)。さらに、最後の登記から12年を経過した株式会社は休眠会社として法務省の整理作業の対象となり、所定の届出も登記もしなければ解散したものとみなされます(472条)。法務省の公表によれば、令和7年度の整理作業で解散したものとみなされた株式会社は25,195社に上ります。本コラムでは、中小企業において頻出する登記懈怠の類型を整理したうえで、過料・みなし解散・対抗力の各リスク、弁護士と司法書士の役割分担、企業が点検すべき事項を解説します。

1 商業登記の機能と変更登記義務

(1)登記事項と公示機能

株式会社の設立登記における登記事項は会社法911条3項に列挙されており、目的、商号、本店および支店の所在場所、資本金の額、発行可能株式総数、発行済株式の総数、取締役の氏名、代表取締役の氏名および住所などが含まれます。登記事項証明書は法務局において何人でも取得でき(オンライン請求の場合、送付で1通520円、窓口交付で490円)、金融機関の与信審査、取引先の信用調査、M&Aにおけるデュー・ディリジェンスの出発点として参照されます。登記は、会社の同一性と代表権の所在を対外的に公示する制度的基盤であり、その記載が実態と乖離していること自体が企業の信用評価に直結します。

(2)2週間以内の変更登記義務(915条1項)

会社法915条1項は、911条3項各号等に掲げる事項に変更が生じたときは、2週間以内に本店の所在地において変更の登記をしなければならないと定めます。中小企業において懈怠が生じやすい類型は次のとおりです。

  • 役員の重任・退任・就任 ― 取締役の任期は原則として選任後2年以内に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時まで(332条1項)。非公開会社は定款で選任後10年以内まで伸長可能(同条2項)。監査役は原則4年、非公開会社は最長10年(336条1項・2項)。同一人が再任される場合も重任登記を要する
  • 本店移転 ― 本店所在場所の変更登記
  • 代表取締役の住所変更 ― 代表取締役は氏名のみならず住所も登記事項であり、転居のたびに変更登記を要する
  • 商号・目的の変更 ― 定款変更の株主総会特別決議を経たうえで登記
  • 資本金の額・発行済株式総数の変更 ― 募集株式の発行等に伴う変更登記

登録免許税は、役員変更が申請1件につき1万円(資本金の額が1億円を超える会社は3万円)、本店移転が1か所につき3万円、商号・目的の変更が申請1件につき3万円です(国税庁タックスアンサーNo.7191、令和8年4月1日現在)。費用負担自体は限定的であり、懈怠の主因は制度への無理解と管理体制の不備にあります。

2 登記懈怠のリスク①――取締役等個人に対する過料(976条1号)

(1)名宛人は会社ではなく個人

会社法976条は、発起人、取締役、監査役、執行役、清算人等が「この法律の規定による登記をすることを怠ったとき」(1号)に100万円以下の過料に処する旨を定めます。名宛人として列挙されているのはいずれも自然人であり、過料は会社に対してではなく、登記義務を負う取締役等の個人に対して科されます。法務省も、登記申請を怠った代表者等は裁判所から100万円以下の過料に処される可能性がある旨を明示しています。過料は行政上の秩序罰であって刑罰ではなく前科にはなりませんが、裁判所の過料決定という形式で個人に到達する点で、経営者に与える心理的・経済的影響は小さくありません。

(2)懈怠が顕在化する契機

過料の端緒となるのは、遅滞して申請された登記の内容そのものです。役員の重任登記において就任日と申請日との間に長期の間隔があれば、登記官は懈怠の事実を容易に把握できます。長期間放置した後にまとめて登記を申請する場合ほど、懈怠期間が登記記録上明確になる構造にあります。

3 登記懈怠のリスク②――休眠会社のみなし解散(472条)

(1)制度の構造

会社法472条1項は、株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過したもの(休眠会社)について、法務大臣が2か月以内に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出をしないときは、2か月の期間の満了時に解散したものとみなす旨を定めます。ただし、期間内に当該会社に関する登記がされたときはこの限りでなく(同項ただし書)、登記所は公告があったときは休眠会社に対し通知を発しなければなりません(同条2項)。

法務省は毎年この整理作業を実施しています。令和7年度は10月10日に官報公告と管轄登記所からの通知書の発送が行われ、12月10日までに必要な登記申請または「まだ事業を廃止していない」旨の届出がなかった会社について、12月11日付けで登記官が職権により解散の登記をしました。法務省の公表によれば、解散したものとみなされた株式会社数は、令和7年度25,195社、令和6年度26,885社、令和5年度27,887社、令和4年度28,615社であり、毎年2万5,000社を超える規模で推移しています。

(2)非公開会社における現実的リスク

役員任期を定款で10年に伸長している非公開会社は少なくなく、10年目の重任登記を失念すれば、その後2年で休眠会社の要件を充足します。加えて、登記所からの通知は登記記録上の本店所在地に宛てて発送されるため、本店移転の登記を懈怠している会社には通知自体が到達せず、経営者が認識しないままみなし解散に至る事態が生じます。

(3)みなし解散後の継続と残存する責任

解散したものとみなされた会社は、3年以内に限り、株主総会の特別決議により会社を継続することができ、その場合は継続の登記を2週間以内に申請する必要があります。もっとも、法務省が明示するとおり、届出により解散を免れた場合であっても、その後も登記申請がなければ翌年度以降も整理作業の対象となり、本来申請すべき時期に登記を怠った事実は消滅しないため、過料の対象となる可能性は残ります。通知を受けた段階での対応は、届出にとどまらず、未了の登記をすべて完了させることを目標とすべきです。

4 登記懈怠のリスク③――対抗力と信用上の影響(908条)

会社法908条1項は、登記すべき事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗することができないと定めます。取締役の退任登記を懈怠していれば、退任の事実を知らない第三者に対して退任を主張することが困難となり、退任者の行為について会社が責任を問われる局面が生じ得ます。また、同条2項は、故意または過失により不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗できない旨を定めており、登記記録と実態との乖離は会社側の法的地位を不安定にします。

実務上より頻繁に顕在化するのは信用上の影響です。登記記録上の本店に郵便が到達しない、登記上の代表者と実際の経営者が異なる、役員の任期が長期にわたり満了したまま放置されているといった事情は、金融機関の融資審査、補助金・許認可の申請、取引先の与信管理、M&Aのデュー・ディリジェンスにおいて必ず指摘され、企業のガバナンス水準を示す指標として評価されます。

5 弁護士と司法書士の役割分担

(1)登記手続の代理

登記または供託に関する手続の代理は、司法書士法3条1項1号に定める司法書士の業務であり、同法73条1項は司法書士でない者による当該業務の遂行を禁止しつつ、「他の法律に別段の定めがある場合」を除外しています。弁護士法3条1項は弁護士の職務として「一般の法律事務」を掲げており、弁護士も登記申請の代理を行うことができると解されていますが、定型的な登記手続を日常的に取り扱っているのは司法書士であり、役員変更、本店移転、商号・目的の変更、通常の募集株式発行など、決議内容に争いのない登記は司法書士への依頼が迅速かつ確実です。

(2)弁護士が関与すべき局面

登記は法律関係の結果を公示する手続であり、その前提には株主総会・取締役会の決議や契約が存在します。弁護士の役割は、この前提となる法律関係の適法性と設計にあります。具体的には、①招集手続や決議要件に瑕疵がないかの確認、②種類株式・新株予約権・ストックオプションの設計、③M&A・組織再編に伴う一連の登記の順序と効力発生日の管理、④株主間に対立がある場合の総会運営、⑤みなし解散後の継続手続や過料への対応、⑥退任登記を拒む取締役や所在不明株主への対応などです。実務上は、弁護士が決議・契約を確定させ、司法書士が登記を申請するという連携が一般的であり、顧問弁護士がいれば、登記の要否の判断と依頼先の振り分けを含めて相談することができます。

企業が点検すべき事項

  • ① 直近の登記事項証明書を取得し、商号・本店・目的・資本金・役員構成・代表取締役の住所が現在の実態と一致しているか
  • ② 定款上の役員任期(2年か、伸長して10年か)を把握し、次回の任期満了日と重任登記の期限(定時株主総会終結日から2週間)を管理簿・カレンダーに登録しているか
  • ③ 本店移転、代表取締役の転居、商号・目的の変更、増資の各事象について、発生から2週間以内に登記申請する社内フロー(担当者・司法書士への連絡経路)が定まっているか
  • ④ 登記記録上の本店所在地に郵便物が確実に到達する状態か(登記所からの通知の受領可能性)
  • ⑤ 最後の登記の日付を確認し、休眠会社の要件(12年)に接近していないか
  • ⑥ 株主総会・取締役会の議事録が適法に作成・保管され、登記申請の添付書類として利用可能な状態か
  • ⑦ 登記の前提となる決議や契約について、弁護士が事前に確認する体制があるか

商業登記は収益に直結せず、懈怠しても直ちに不利益が顕在化しないため、後回しにされやすい領域です。しかし、その帰結は取締役等個人に対する過料、会社の信用低下、そして最終的にはみなし解散という形で現実化します。定時株主総会の時期に合わせて登記事項の点検を年次で実施し、決議・設計の段階から弁護士が関与する体制を整えることが、最も費用対効果の高い予防策です。

よくあるご質問

Q. 取締役の任期満了後に重任の登記をしていません。どのような法的責任がありますか。

A. 取締役の任期は原則として選任後2年以内に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時までであり(会社法332条1項)、非公開会社は定款により最長10年まで伸長できます(同条2項)。任期満了後に再選された場合も重任の変更登記が必要で、変更から2週間以内に登記しなければ(915条1項)、登記を怠った取締役等は976条1号により100万円以下の過料の対象となります。過料は会社ではなく取締役等の個人に科されます。

Q. 「休眠会社のみなし解散」とはどのような制度ですか。

A. 最後の登記から12年を経過した株式会社を休眠会社といい、法務大臣が2か月以内に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告し、登記所が通知を発した後、期間内に届出も登記もされないときは、期間満了時に解散したものとみなされます(会社法472条)。法務省は毎年整理作業を実施しており、令和7年度は10月10日に公告・通知、12月10日が届出期限、12月11日付けで職権による解散登記がされ、25,195社が解散したものとみなされました。みなし解散後3年以内は株主総会の特別決議により継続が可能ですが、登記懈怠の事実は消滅せず、過料の対象となり得ます。

Q. 登記は弁護士と司法書士のどちらに依頼すべきですか。

A. 登記手続の代理は司法書士法3条1項1号に定める司法書士の業務であり、役員変更・本店移転・商号や目的の変更など決議内容に争いのない定型的な登記は司法書士への依頼が合理的です。弁護士も弁護士法3条の一般の法律事務として登記申請を行うことができると解されていますが、弁護士の役割は登記の前提となる法律関係の整理にあります。決議の有効性、種類株式・新株予約権の設計、M&Aや組織再編に伴う登記の順序、株主間の対立、みなし解散後の継続や過料への対応などは弁護士が関与し、司法書士と連携して登記を完了させる体制が確実です。

参考:e-Gov法令検索「会社法」(332条・336条・472条・908条・911条・915条・976条)e-Gov法令検索「司法書士法」(3条・73条)e-Gov法令検索「弁護士法」(3条)法務省「令和7年度の休眠会社等の整理作業(みなし解散)について」法務省「休眠会社・休眠一般法人の整理作業について」国税庁 タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」法務省「商業・法人登記関係の登記手数料」

本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。法令・統計は法務省・国税庁・e-Gov法令検索の公表資料(2026年8月時点)に基づきます。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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