顧問弁護士は、数年単位で付き合う相手です。契約書の一文、従業員への一通の通知、取引先からの一本の電話について、日常的に判断を仰ぐ存在であるため、「知り合いの紹介だから」「事務所が近いから」という理由だけで選ぶと、後に相談しづらさや専門分野の不一致に悩むことになります。本コラムでは、顧問弁護士を選ぶ際の7つの比較観点、初回面談で確認すべき質問、そして既存の顧問弁護士から乗り換える場合の手順を整理します。
顧問弁護士を選ぶ7つの比較観点
① 企業側の代理人としての経験
弁護士の取扱分野は多様です。個人の離婚・相続・刑事事件を主に扱う弁護士と、企業の契約・労務・取引紛争を会社側の代理人として扱ってきた弁護士では、同じ相談に対する回答の実務的な精度が異なります。事務所のWebサイトで弁護士の経歴と取扱分野を確認し、企業法務、特に労務と契約について会社側で対応した経験があるかを見てください。
② 回答の速さと連絡手段
経営判断は待ってくれません。メールのみの対応か、Slack・Chatworkなどのチャットツールに対応しているか、電話やオンライン面談が可能か、担当弁護士が直接応答するか、簡易な質問への回答の目安は当日から翌営業日か、契約書レビューは何営業日か。契約前にこれらを具体的に確認してください。回答の速さは、顧問契約の満足度を最も左右する要素です。
③ 自社の業種と規制への理解
医療、IT、建設、不動産、人材、介護、美容、飲食・ECなど、業種ごとに規制と紛争の類型は大きく異なります。医療法・建設業法・宅建業法・労働者派遣法・薬機法といった業法に精通しているか、同業種の顧問経験があるか、業種別の情報発信をしているかを確認してください。当事務所では業種別の顧問弁護士サービスを案内しています。
④ 他の専門家との連携
登記は司法書士、商標・特許は弁理士、税務は税理士と、会社の課題は複数の士業にまたがります。事務所内に各専門家が在籍しているか、連携先が確立しているかによって、「弁護士に聞いたら別の専門家を探すよう言われた」という手戻りの有無が変わります。
⑤ 利益相反の有無
弁護士は、依頼者と利害が対立する相手方の事件を受任できません(弁護士法25条、弁護士職務基本規程27条・28条)。主要な取引先や競合が既にその事務所の顧問先である場合、将来の紛争で代理を受けられない可能性があります。契約前に、取引先や競合の名称を伝えて利益相反の確認を依頼してください。地域の事業者同士が同じ事務所の顧問先になっているケースでは、あえて地域外の事務所を選ぶという判断もあります。
⑥ 顧問料に含まれる業務の透明性
顧問料の金額そのものより、顧問料に何が含まれ、何が別料金かが明確であることが重要です。相談の方法と回数、契約書チェックの分量、就業規則や利用規約など分量の多い文書の扱い、訴訟や交渉を依頼した場合の優遇の有無を、書面で確認してください。顧問弁護士の費用相場と料金の決まり方で詳しく整理しています。
⑦ 契約期間と解約条件
契約期間、更新の方法、中途解約の予告期間、違約金の有無を確認してください。1年程度の契約期間で、1か月前程度の予告で解約できる条件であれば、相性が合わない場合の見直しが容易です。長期の契約期間と高額な違約金を求める契約は慎重に検討すべきです。
初回面談で確認すべき質問
多くの事務所は顧問契約の初回面談を無料で行っています。面談では、次の質問を投げかけると、その事務所の対応の実像が見えます。
- 担当弁護士は固定か。不在時は誰が対応するか。
- チャットツールでの相談は可能か。簡易な質問の回答はどのくらいで返るか。
- 契約書のレビューはどのような形(修正履歴・コメント)で、何営業日で返るか。
- 自社と同じ業種の顧問先はあるか。業種特有の規制についてどう対応しているか。
- 労働審判や訴訟になった場合、顧問先の費用はどう優遇されるか。
- 司法書士・弁理士・税理士との連携はどうなっているか。
- 主要な取引先・競合との利益相反はないか。
- 法改正の情報はどのように提供されるか。
- 契約開始後、最初に取り組むべきことは何だと考えるか。
最後の質問への回答は特に重要です。自社の契約書ひな型や就業規則を持参し、その場で優先して見直すべき点を指摘してもらえれば、その弁護士の実務感覚と説明の分かりやすさが分かります。
既存の顧問弁護士から乗り換える手順
「顧問弁護士はいるが、レスポンスが遅い」「専門外の分野を相談しづらい」「代替わりで関係が薄くなった」という理由で乗り換えを検討する企業は少なくありません。手順は次のとおりです。
① 現在の顧問契約書を確認する
契約期間、自動更新の有無、中途解約の予告期間、違約金の有無を確認します。予告期間が3か月前などと定められている場合は、解約通知の時期から逆算して新しい契約の開始時期を決めます。
② 新しい事務所で利益相反の確認と初回面談を済ませる
解約を通知する前に、新しい事務所で利益相反の確認と初回面談を行い、顧問料と業務範囲の見積りを受け取ります。空白期間を作らないためです。
③ 進行中の案件の引継ぎを整理する
訴訟や交渉が進行中の場合、その案件は現在の弁護士が完了まで担当し、顧問契約のみを新しい事務所に移す方法が一般的です。案件ごとに、どちらの弁護士が担当するかを明確にしてください。
④ 解約の通知と資料の引取り
契約書に従って書面で解約を通知し、預けている契約書原本や登記関係書類、過去の相談記録の引取りを依頼します。長年の関係がある場合は、感謝を伝えたうえで、事業の変化に伴う体制の見直しであることを説明すれば、円満に移行できます。
乗り換えではなく「併用」という選択肢
既存の顧問弁護士との関係を維持したまま、分野を分けて別の事務所と契約する方法もあります。例えば、日常の労務や契約は既存の顧問弁護士に、M&A・資金調達・知的財産・医療法務など専門性の高い分野は別の事務所に、という分担です。また、既存の顧問弁護士の回答について第二の意見(セカンドオピニオン)を求めることも可能であり、重要な経営判断の場面では複数の視点を得る価値があります。
選ぶ前に整理しておくべき自社の情報
初回面談を有意義にするため、次の情報を整理しておくと、事務所側から具体的な提案を受けられます。
- 事業内容と業種、許認可の有無
- 従業員数(正社員・パート・業務委託の内訳)
- 月に発生する契約書の通数と種類
- 過去に経験したトラブルと、現在抱えている課題
- 今後1〜2年の予定(新規事業、資金調達、M&A、拠点展開)
- 現在の顧問弁護士の有無と、変更を検討している理由
よくあるご質問
Q. 顧問弁護士を選ぶときに最も重視すべき点は何ですか。
A. 企業側の代理人として契約・労務・取引紛争を扱ってきた経験と、回答の速さです。加えて、自社の業種の規制に精通しているか、他士業との連携があるか、顧問料に含まれる業務が明確かを確認してください。
Q. 今の顧問弁護士を変えたいのですが、どう進めればよいですか。
A. 現在の顧問契約書の契約期間・解約予告期間・違約金の有無を確認し、新しい事務所で利益相反の確認と初回面談を済ませてから、解約の通知と進行中の案件の引継ぎを行います。分野を分けて併用する方法もあります。
Q. セカンドオピニオンだけを依頼することはできますか。
A. はい。既存の顧問弁護士の回答について第二の意見を求める形や、M&A・知財・医療法務など専門性の高い分野のみを別の事務所に依頼する形が可能です。
まとめ
顧問弁護士は、企業側の経験、回答の速さと連絡手段、業種への理解、他士業との連携、利益相反、料金の透明性、契約条件の7つの観点で比較し、初回面談で具体的な質問を投げかけて選ぶべきです。既存の顧問弁護士からの乗り換えは、契約書の解約条件を確認し、新しい事務所での利益相反確認と面談を済ませてから、案件の引継ぎを整理して進めます。分野を分けた併用やセカンドオピニオンも有効な選択肢です。当事務所の顧問弁護士サービスでは、初回面談で上記の質問すべてにお答えしています。
参考資料
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本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。
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