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金融機関による定期預金等の要請への対応 ― 融資先に対する協力預金要請の構造(債権保全)、実質資金コストの試算、独占禁止法2条9項5号(優越的地位の濫用)と公正取引委員会ガイドライン・金融庁監督指針上の歩積両建預金、要請を受けた際の実務対応

融資の実行後、取引金融機関の担当者から定期預金の設定を求められる事例は、中小企業の実務においてきわめて一般的です。公正取引委員会が金融機関と借り手企業との取引慣行について実施した調査(平成23年フォローアップ調査)によれば、借り手企業の27.2%が金融機関からの要請を「断りにくい」と感じていると回答しており、要請の内容としては預金の創設・増額(11.3%)、預金以外の金融商品の購入(12.5%)が上位を占めています。定期預金の提案それ自体は適法な営業行為ですが、借り手企業にとっての経済的合理性は乏しく、融資と結び付けて応諾を事実上余儀なくさせる態様に至れば独占禁止法上の問題を生じます。本コラムでは、要請の構造と実質的な資金コスト、独占禁止法および監督指針上の位置付けを整理したうえで、要請を受けた企業が講じるべき実務対応を解説します。

1 協力預金要請の構造 ― 債権保全

(1)金融機関側の目的

融資先に対する定期預金の要請には、預金残高の積み上げによる営業実績や、低利で調達した資金の運用益という側面もありますが、最も本質的な目的は貸付債権の保全です。例えば、信用金庫から3,000万円の無担保融資を受けた企業が、その直後に2,000万円を1年物の定期預金として同一金融機関に預け入れた場合、金融機関は債務者が返済不能に陥っても手元に2,000万円の預金を保持しており、預金債権と貸付債権の相殺等を通じて実質的な回収リスクを大幅に低減できます。すなわち要請は、借り手企業の資金繰りのためではなく、金融機関の与信管理の一環として行われているのが実態です。

(2)借り手企業側の経済的合理性

他方、借り手企業にとってのメリットはほとんどありません。定期預金の利息は僅少であり、次に述べるとおり、借入金の一部を預金として拘束することは実質的な資金コストを引き上げる行為に他なりません。要請に応じるか否かは、「取引関係への配慮」ではなく、余剰資金の有無、金利・期間の条件、資金繰りへの影響という自社の利益の観点から判断すべきものです。

2 実質資金コストの試算と流動性リスク

(1)実質金利の上昇

3,000万円を年利1%で借り入れた場合の年間利息は30万円です。ここで2,000万円を定期預金に拘束すると、企業が実際に自由に使用できる資金は1,000万円にとどまる一方、利息は借入元本全額に対して発生し続けます。使用可能な1,000万円に対する30万円の負担は実質3%相当であり、定期預金の受取利息を控除しても、この構造はほとんど変わりません。規模を変えても同様で、1,000万円を年利2%で借り入れ300万円を定期預金とすれば、使用可能資金700万円に対する年間利息20万円で実質約2.86%となります(いずれも単純化した概算)。表面金利ではなく、実際に使用可能な資金に対する負担率で評価することが不可欠です。

(2)解約の実務的困難

定期預金は制度上、満期前の中途解約が可能です。しかし解約の必要が生じるのは、納税、賞与支給、設備の突発的故障等により資金繰りが逼迫する局面であり、それは融資金融機関が当該企業の信用状態を最も注視している時期と重なります。この局面で融資先から解約の申出があれば、金融機関は業績悪化の兆候と受け止め、実務上は「解約するのであれば当該預金を借入金の返済に充当してはどうか」との提案がなされることもあります。緊急時の備えとして確保したはずの資金が、緊急時に自由に使用できない資金となる点が、協力預金の最大のリスクです。

3 独占禁止法上の位置付け

(1)提案自体の適法性

まず前提として、金融機関が融資先に定期預金を提案すること自体は違法ではありません。企業に余剰資金があり、金利・期間の条件に納得したうえで自由な意思により契約するのであれば、通常の金融取引です。問題となるのは、形式上は「依頼」であっても、融資と結び付けられ、実際には応諾を拒否できない状況が作出されている場合です。

(2)優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号・19条)

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)2条9項5号は、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、継続して取引する相手方に対し当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務を購入させること(イ)、自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること(ロ)、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定・変更し、または取引を実施すること(ハ)を、優越的地位の濫用として不公正な取引方法に定めており、同法19条はこれを禁止しています。

融資取引において金融機関は借り手企業に対し優越的地位に立つのが通常であり、「定期預金を設定してもらえれば次回の融資も進めやすい」「協力が得られなければ今後の取引が難しい」といった発言により、融資の減額、金利・返済条件の不利益変更、次回融資への影響を示唆して要請に応じさせる行為は、同号に該当し得ます。公正取引委員会「金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について」は、金融機関が融資先企業に対し「自己と取引しない場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆」して取引を余儀なくさせる行為を、独占禁止法上問題となる行為として明示しています。また「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」は、大手銀行が融資の申込みや更新の過程で、融資先に対し金利スワップの購入が融資の条件である旨を明示するなどして購入を余儀なくさせた事案(平成17年12月26日勧告審決)を具体例として挙げています。

(3)金融庁監督指針上の歩積両建預金

融資と結び付けて預金を積ませる、いわゆる歩積・両建預金は、金融監督上も長年にわたり問題視されてきました。金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」II-3-1-7-2は、「過度な協力預金、過当な歩積両建預金等の受入れ」を正常な取引慣行に反する不適切な取引と位置付け、その発生防止を監督上の評価項目としています。金融機関自身が、組織としてこれを行ってはならないと認識している行為であることは、交渉上の前提として押さえておくべきです。

(4)該当性の判断要素

公正取引委員会の前記調査では、意思に反して金融機関の要請に応じた企業のうち52.1%が、その理由として「次回の融資が困難になると思ったため」を挙げています。明示的な威迫がなくとも借り手企業が事実上拒否できないと感じる構造が存在するため、実際の該当性は、金融機関と企業との力関係、当該金融機関への融資依存度、担当者の具体的な発言、預金額・拘束期間、企業が受ける不利益の程度等を総合的に考慮して判断されます。「発言」と「状況」の双方が判断要素となる以上、後述する記録化が決定的に重要です。

4 要請を受けた際の実務対応

(1)即答の回避

面談の場で結論を出さず、「社内で検討する」として持ち帰ります。取引関係への配慮から場の雰囲気で契約に至ることを防ぐ、最も基本的かつ有効な対応です。

(2)融資条件該当性の確認

「本件は融資の条件か」を明示的に確認します。条件ではないとの回答が得られれば、応諾を拒否しても融資に影響しないことが確認でき、逆に「条件である」「影響する」旨の回答があれば、それ自体が前記3で述べた独占禁止法上問題となり得る発言に該当します。

(3)記録化

面談の日時、出席者、担当者の発言内容を記録し、可能であれば「先日のお話の確認」として電子メールで送付し書面化します。優越的地位の濫用該当性は発言と状況の総合判断であるため、当時の発言を客観的に再現できる記録の有無が、後日の交渉や当局への相談の実効性を左右します。

(4)相談窓口の活用

事実上応諾を強いられていると判断される場合は、金融庁「金融サービス利用者相談室」(電話0570-016811、平日10時〜17時)が預金・融資に関する相談を受け付けています。顧問弁護士がいれば、金融機関との交渉方針、融資契約書の条項確認、担保・保証の取扱いを含めて相談することができます。

(5)余剰資金の保管先と複数行取引

余剰資金を手元に置くと費消してしまうという懸念に対しては、定期預金ではなく、融資取引のない他の銀行・信用金庫の普通預金に預け入れる方法が合理的です。日常の決済口座と分離しつつ、必要時には自由に使用でき、かつ当該金融機関に相当額の預金があることで資金繰りに余裕がある企業と評価され、融資提案を受ける契機にもなります。一行への依存が「断れない構造」を生む以上、第二の調達先を平時から育成し、依存構造自体を変えることが最も根本的な防御策です。

企業が点検すべき事項

  • ① 現在の定期預金・積金のうち、融資金融機関からの要請に応じて設定したものの額と拘束期間、および使用可能資金に対する実質的な資金コストを把握しているか
  • ② 金融機関からの預金・金融商品・保険等の要請について、即答せず社内で検討・決裁する運用となっているか
  • ③ 要請を受けた際の面談記録、担当者の発言、確認メールを保存しているか
  • ④ 融資契約書・約定書における相殺条項、期限の利益喪失条項の内容を確認し、預金拘束が生じた場合の影響を把握しているか
  • ⑤ 融資取引のない金融機関との預金取引を含め、複数行取引により交渉力を確保しているか
  • ⑥ 金融機関から気になる要請を受けた段階で、契約前に弁護士へ相談する体制があるか

金融機関は中小企業にとって不可欠のパートナーであり、本コラムは金融機関との対立を勧めるものではありません。しかし対等なパートナーシップには、要請の構造と法的な限界を理解したうえでの判断が必要です。融資契約書の確認、担保・保証の設計、金融機関との交渉は、弁護士の関与により見通しが立ちやすい分野であり、要請に応じて契約書に署名する前の段階で相談を受けることが、数百万円から数千万円規模の資金拘束を防ぐ最も費用対効果の高い対応となります。

よくあるご質問

Q. 融資を受けている金融機関から定期預金の設定を求められました。応じる法的義務はありますか。

A. ありません。定期預金の提案自体は適法な営業行為ですが、契約するか否かは借り手企業の自由な意思に委ねられます。要請の実質は金融機関の債権保全であり、借入金の一部を預金として拘束すれば実質的な資金コストが上昇するため、余剰資金の有無、金利・期間の条件、資金繰りへの影響を踏まえて自社の利益の観点から判断すべきです。

Q. 「定期預金に協力しなければ次回の融資は難しい」と示唆された場合、どのような法的問題がありますか。

A. 金融機関が取引上の優越的地位を利用し、融資の打ち切りや不利な取扱いを示唆して預金や金融商品の購入を事実上余儀なくさせる行為は、独占禁止法2条9項5号の優越的地位の濫用(同法19条により禁止)として問題となり得ます。公正取引委員会のガイドラインは、融資先に対し自己と取引しない場合には融資を取りやめる旨または不利な取扱いをする旨を示唆する行為を明示的に問題としており、金融庁の監督指針も過当な歩積両建預金の受入れを不適切な取引としています。該当性は力関係、融資依存度、発言内容、預金額・拘束期間、不利益の程度を総合して判断されるため、発言の記録化が重要です。

Q. 要請を受けた場合、実務上どのように対応すべきですか。

A. ①即答せず社内検討として持ち帰る、②「融資の条件か」を明示的に確認する、③面談日時・担当者・発言内容を記録し確認メールで書面化する、④事実上応諾を強いられていると判断される場合は金融庁の金融サービス利用者相談室や顧問弁護士に相談する、の4段階です。余剰資金は融資取引のない他の金融機関の普通預金で保管し、複数行取引により交渉力を確保することが望まれます。

参考:公正取引委員会「金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書(平成23年フォローアップ調査)」e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(2条9項5号・19条)公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」公正取引委員会「金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について」金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(II 銀行監督上の評価項目)金融庁「金融サービス利用者相談室」

本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実質資金コストの計算は単純化した概算です。法令・統計は公正取引委員会・金融庁・e-Gov法令検索の公表資料(2026年8月時点)に基づきます。実際のご対応にあたっては、最新の法令をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

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