公益通報者保護法の実務対応
──通報窓口の整備から不利益取扱い禁止まで
2022年改正で事業者の体制整備義務が法定化された公益通報者保護法。通報の定義、保護要件、通報先ごとの違い、企業に求められる具体的対応を整理します。
企業内部の法令違反は外部からは発見しにくく、内部者からの通報が是正のきっかけとなるケースが少なくありません。公益通報者保護法は、こうした通報者を不利益取扱いから保護するとともに、2022年の改正により、事業者に対して内部通報体制の整備を義務付けました。本稿では、公益通報の定義から保護要件、事業者が講ずべき措置まで、実務上押さえておくべきポイントを解説します。
1. 公益通報者保護法の趣旨と2022年改正の概要
公益通報者保護法は、企業や行政機関内部の法令違反行為を通報した者を保護し、法令違反の早期発見・是正を促進するために2004年に制定され、2006年から施行されています。
しかし、施行後も通報者に対する解雇・降格・嫌がらせ等の不利益取扱いが問題となるケースが後を絶たず、通報をためらう状況が続いていました。こうした課題を受け、2022年6月1日施行の改正法では、事業者に対する内部通報体制の整備義務の法定化、通報者の範囲の拡大(退職後1年以内の者、役員を追加)、通報対象事実の拡大(行政罰の対象となる事実を追加)などの改正が行われました。
・従業員300人超の事業者に内部通報体制の整備を義務化(300人以下は努力義務)
・通報者の範囲を退職後1年以内の者・役員にも拡大
・通報対象事実に行政罰(過料)の対象行為を追加
・通報対応業務従事者に守秘義務を課し、違反には刑事罰を導入
2. 「公益通報」の定義と保護要件
法が保護する「公益通報」とは、一定の要件を満たした通報をいいます。単なる内部告発や苦情の申立てとは異なり、法の定める要件を充足していることが保護の前提です。
通報者の範囲(公益通報者)
公益通報を行うことができる者(公益通報者)には、正社員・パート・アルバイトなどの労働者、派遣労働者、請負契約等に基づき業務に従事する者、そして役員が含まれます。2022年改正により、退職後1年以内の者も通報者に加えられました。
通報対象事実
通報の対象となるのは、刑事罰または過料の対象となる法令違反行為です。対象法律は、刑法、食品衛生法、金融商品取引法、個人情報保護法、労働基準法、独占禁止法など広範にわたり、政令で指定された数百の法律が含まれます。
通報目的の正当性
不正の利益を得る目的や他人に損害を加える目的での通報は保護の対象外です。通報の動機が純粋に公益目的であることが求められます。
3. 通報先の3類型と保護要件の違い
公益通報は通報先によって3つに分類され、外部に近づくほど保護要件が厳格になる構造をとっています。これは、企業の正当な利益と通報者保護のバランスを図る趣旨です。
| 類型 | 通報先 | 保護要件 |
|---|---|---|
| 1号通報 | 勤務先(事業者内部の通報窓口を含む) | 通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしていると「思料する」こと(主観的認識で足りる) |
| 2号通報 | 権限を有する行政機関 | 通報内容が真実であることを裏付ける「相当の理由」(真実相当性)が必要。ただし、氏名・通報内容を記載した書面を提出した場合は緩和される |
| 3号通報 | 報道機関・消費者団体等の外部 | 真実相当性に加え、内部通報では不利益取扱いを受けるおそれ、証拠隠滅のおそれ等の「正当化事由」が必要 |
⚠ 役員による通報の追加要件
役員が行政機関や外部に通報する場合は、原則として社内での調査是正措置に努めたこと(取締役会への付議、監査役への報告等)が追加要件として求められます。内部での是正努力を尽くしたうえでなお解決が見込めない場合に、外部通報の保護が認められます。
4. 不利益取扱いの禁止
法は、公益通報を理由とする以下の行為を明文で禁止しています。
・公益通報を理由とする解雇は無効(法3条)
・労働者派遣契約の解除は無効(法4条)
・降格、減給、退職金の不支給、配置転換等の不利益取扱いの禁止(法5条)
・派遣先が派遣元に対して派遣労働者の交代を求めることの禁止
・役員の報酬減額の禁止(解任は許容されるが、解任された役員には損害賠償請求権が認められる)
5. 事業者に求められる体制整備
2022年改正により、従業員300人超の事業者には公益通報対応体制の整備が法的義務として課されました(300人以下の事業者は努力義務)。具体的に求められる措置は以下のとおりです。
内部通報窓口の設置
通報を受け付ける窓口を設置し、従業員に周知する必要があります。社内に設置するほか、外部の弁護士や専門機関に委託する方法も認められます。通報者が安心して利用できるよう、匿名での通報を受け付ける運用も推奨されています。
通報対応業務従事者の指定
通報の受付・調査・是正措置に携わる者を「公益通報対応業務従事者」として指定する必要があります。従事者には法律上の守秘義務が課され、通報者を特定させる情報を漏洩した場合には30万円以下の罰金が科されます(法21条)。
是正措置と記録の管理
通報を受けた場合は、必要な調査を実施し、法令違反が確認された場合には是正措置を講じなければなりません。また、通報の受付から対応の完了に至るまでの経過を記録し、適切に管理することが求められます。
| 措置 | 300人超 | 300人以下 |
|---|---|---|
| 内部通報窓口の設置 | 義務 | 努力義務 |
| 通報対応業務従事者の指定 | 義務 | 努力義務 |
| 従事者への守秘義務 | 義務(違反は刑事罰) | 義務(違反は刑事罰) |
| 是正措置・記録管理 | 義務 | 努力義務 |
6. 違反した場合の制裁
体制整備義務に違反した事業者に対しては、行政機関による助言・指導・勧告が行われ、勧告に従わない場合は事業者名の公表が行われます(法15条・16条)。さらに、正当な理由なく報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合には、20万円以下の過料が科されます(法22条)。
また、前述のとおり、通報対応業務従事者が通報者を特定させる情報を漏洩した場合には、30万円以下の罰金が科されます。
7. まとめ──企業が今すぐ取り組むべきこと
・内部通報窓口の設置・運用状況を確認し、未設置の場合は早急に整備する
・通報対応業務従事者を指定し、守秘義務について教育を実施する
・通報受付から調査・是正・記録管理に至るフローを整備し、社内規程に落とし込む
・通報制度の存在と利用方法を全従業員に周知する
・不利益取扱い禁止のルールを管理職に徹底し、通報を理由とする報復を防止する
・外部窓口(弁護士等)の活用を検討し、通報者の心理的ハードルを下げる
公益通報者保護法は、企業のコンプライアンス体制の基盤となる法律です。通報制度を形式的に設けるだけでなく、実効的に機能する仕組みとして運用することが、法令違反の早期発見と企業の信頼維持につながります。
注意事項
※ 本稿は一般的な法的情報の提供を目的とするものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な体制整備については弁護士にご相談ください。
※ 参照条文:公益通報者保護法2条〜5条、11条〜13条、15条、16条、21条、22条
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